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早川書房の某著著者、James Lindsayのユダヤ人差別が尋常じゃないので記事にしてみた―"文化的マルクス主義陰謀論"とは?

(2023年1月20日、一部表現を推敲しました。)

〈白人至上主義者、ナチス、大量銃殺事件、差別など、刺激の強い内容です。必要に応じて読むのをお控えください。〉

 アメリカの右派内での反ユダヤ主義的な論調は、ここ数年で勢いを増し続けています。特に(保守)共和党の議員は、"Globalist""International Banks"といった表現で、遠回しにユダヤ人を示唆する、ということをしています。(こうした隠れた差別表現のことを犬笛と呼びます。)ユダヤ系のジョージ・ソロス氏を、社会運動の黒幕だと主張することなどもそうです。ドナルド・トランプさえこうした発言を行っています。(https://www.heyalma.com/a-list-of-antisemitic-dogwhistles-used-by-donald-trump/)
 こうした動きは、ナチスなどを敬愛する、オルト・ライト(ほぼネオナチと同義)とも共振するものです。

 (2018年、アメリカ・シャーロッツビルでのネオナチデモ。"You will not replace us""Jews will not replace us"など、ユダヤ人が移民を送り込み、白人の数を圧倒、オルト・ライトに言わせると"虐殺"、しようとしている、という"white genocide/ethnic replacement"陰謀論への言及がみられる。)

 この度、早川書房のトランス差別的な書評が問題になり、著者、James Lindsay氏の名前に聞き覚えがあったので、一調べしました。すると、Sam Hoadley-Brillさん@deonteleologistという、Lindsayを追ってきたアカウントを見つけました。が、そこで明かされた余りの内容に正直絶句。James Lindsay氏の反ユダヤ主義(ユダヤ人差別)は共和党員のそれよりも遥かに苛烈で、遥かにネオナチに近い感覚のものだと思われます。このアカウントのメモを基盤に、解説します。https://twitter.com/search?q=from%3A%40deonteleologist%20lindsay&src=typed_query&f=top


⓪ウォーミングアップ:アメリカでの反ユダヤ主義について

 アメリカには、ユダヤ人がマイノリティを煽動して、社会運動を牛耳っている、という陰謀論があります。元々のナチスも、ユダヤ人が共産主義を牛耳っているという陰謀論(文化的ボルシェヴィズム)を唱えていたため、その亜流とも言えます。ここにはマイノリティの知能の軽視なども見られるのです。

①ネオナチに限りなく近い人とつるむ…Stefan Molyneux(ステファン・モロニュー)やLauren Chenとの交流

 https://podcasts.apple.com/mx/podcast/the-charlie-kirk-show/id1460600818

https://rationalwiki.org/wiki/Lauren_Chen
https://www.splcenter.org/fighting-hate/extremist-files/individual/stefan-molyneux

 Lindsay氏には、極右のStefan Molyneux(ステファン・モロニュー)やLauren Chenとの繋がりがありました。Chen氏は、"白人至上主義者の論点"を繰り返すとされる人物ですが、それより明らかに白人至上主義者であるモロニュー氏について書きましょうか。
 まず、James Lindsay氏はBoghossian氏と一緒に、"ドッキリ"的な手法でリベラル叩きをする小技をしていました。このBoghossian氏ですが、モロニュー氏と付き合いがあったことが報じられています。

リンクは貼りません。

 モロニューは黒人の知能は白人より低いと考える、優生学的レイシストです("人種現実主義 race realism"、と犬笛では言いますが。)。YouTubeチャンネルを見ている若者に、家族と関わりを経つよう指導する(deFOO)など、カルト教団的な思想の持主でした。にも拘らず、YouTubeは2020年まで彼のチャンネルをYouTubeに放置し続けていました。https://www.theverge.com/2020/6/29/21307303/youtube-bans-molyneux-duke-richard-spencer-conduct-hate-speech 
 極右からのバックラッシュを、YouTube側が恐れたことなどが原因ではないかと、個人的には思います。こうした、共和党の人物でも本来は交流を躊躇するような人物と、Lindsay氏は(Boghossian氏を介してとはいえ)繋がりがあるのです。

②"ジューイッシュ・ボルシェヴィズム"陰謀論(文化的マルクス主義陰謀論)への傾倒

 Lindsay氏のリツイート内容を見ると、まず"ジューイッシュ("ユダヤの"という意味)・ボルシェヴィズム"陰謀論的なものがあります。さらに"文化的マルクス主義"といった言葉を頻用するようです。経緯を説明しましょう。
 "文化的マルクス主義 Cultural Marxism"陰謀論とは、元々ナチ党に起源を持つ陰謀論、''文化的ボルシェビズム''の現代名です。"頽廃芸術"という言葉を聞いたことがある人はいるかもしれませんが、"文化的ボルシェヴィズム"陰謀論と、強い関連を持っています。簡単に言うと、共産主義者が芸術や文化運動を通じて共産化を画策している、という陰謀論です。例えば、ナチス的には黒人がジャズなんか思いつけるわけがない、これはユダヤ人が画策したに決まっている、という発想になるわけです。マルクスはユダヤ系でした。このマイノリティとユダヤ人の結び付けがJames Lindsay氏の主張に強く繋がっていきます。

https://en.wikipedia.org/wiki/Degenerate_art#Cultural_Bolshevism
 ''文化的ボルシェビズム''陰謀論は、90年代のアメリカで、Paul WeyrichやWilliam Lindらにより、''文化的マルクス主義''という新しい名で、例えば"ポリコレは文化的マルクス主義だ"といった糾弾調の陰謀論として復活を遂げることになります。https://twitter.com/deonteleologist/status/1435404721666224132

 特に、フランクフルト学派(ユダヤ人により形成されていた)がアメリカの文化を変えた、という論調を特徴としています。
 2011年のノルウェーで、白人至上主義者、Anders Breivikが大量銃殺事件を起こしました。彼のマニフェストで、ブレーヴィクは文化的マルクス主義陰謀論を中心に据えていました。
 文化的マルクス主義陰謀論は、オルトライト全盛真っただ中(2014-2018年頃とか、たぶん)にはネットで大流行しており、左派からは例えば下の動画のような反論も行われました。

(イギリスの左派YouTuber, HBomberguyによる文化的マルクス主義陰謀論の検証。)

 Lindsay氏でさえ元々、Cultural Marxismはオルト・ライト用語だから避けていた様ですが、今では堂々とCultural Marxismという語を使っています。

 上の画像(https://twitter.com/deonteleologist/status/1507332884671066113)の他にも、 "どうやって彼らはやるんだ?(https://twitter.com/deonteleologist/status/1513621883815542786)"といった投稿もしています。(反語的で、"きっとユダヤ人の連中が、Wikipediaの"Cultural Marxism"の項目名を"Cultural Marxism陰謀論"と書き換えたのに違いない。手先が器用だよな~"的なニュアンスだと思われます。)

 また、LGBTQ+の"クイァ"がマルクス主義者だ、というのは、"ジューイッシュ・ボルシェヴィズム"への彼なりのアレンジなのかもしれません。("クィアは定義上、マルクス主義者だ。だから社会から完全に軽んじられるのに値する。")
https://twitter.com/deonteleologist/status/1551787576704372736
 彼が論じる陰謀論はこれに留まりません。"白人の虐殺"陰謀論(The Great  Replacementとも呼ばれる)と同様の主張や、

また以下のような主張も行っています。

バッファローの銃撃犯はアメリカ政府による内部工作だと示唆
CRT(Critical Race Theory)は"白人の虐殺"のための陰謀だと主張
(https://twitter.com/hootnhollerpod/status/1403351237442035713)
フランクフルト校のユダヤ人の共産主義者がCRTを作り、西洋文明を終わらせようとしていたと主張

Sam Hoadley-Brillさんのツイートから

(ちなみに、日本でも統一教会、松丸誠氏や西田昌司氏が"文化共産主義"陰謀論や、それに近い思想を喧伝しています。https://note.com/azuro_danger/n/n9020e9cfcbc5)

③共和党へのかなり大きな影響

 Sam Hoadley-Brillさんによると、"Cultural Marxism"陰謀論がChristpher Rufoといった人物に唱えられ、共和党の1776レポートに登場するようにまでなったのには、もともとJames Lindsay氏が、ネオナチ思想だったCultural Marxismを共和党に本格的に持ち込んだことにある、と指摘しています。

 いまは、かつてほどの影響力は無いようですが、それでもLGBTQ+の人たちをGroomer(児童虐待犯、的な意味)と呼んだり、CRTに対するモラル・パニックを共和党が戦術として用いることになった要因として、Lindsay氏のここ二年での影響力を無視してはならない、と訴えています。
https://twitter.com/deonteleologist/status/1584960866642178048
https://twitter.com/deonteleologist/status/1584965755829112832
https://twitter.com/deonteleologist/status/1513586149876383746
https://twitter.com/deonteleologist/status/1584964720205131776

④さて、著書自体に影響はあるのか?

 この著書を書いた後に、差別主義的な主張がさらに悪化した様です。分かってほしいのは、"Cynical Theory"出版2年後の本では"白人の虐殺"に近い論を張ったり、ネオナチと見分けのつかない主張をする、完全にレイシストとなった人物だ、ということです。
 それでも、知識はあるかもしれないだろ、という反論もあるかもしれません。
 本の内容の批評は専門の方に任せますが、これを見てください。ミシェル・フーコーの名前すらまともに発音できない人物なんですよ。

 めちゃくちゃに刀を振り回している映像とかを見て、皆さんはお気づきにならないでしょうか。James Lindsayは、ただのレイシストで、イキッている、イタいおっさんなのです。

⑤メモ - ミーム

 Lindsayのツイートには、極右のミームがしばしば登場します。https://twitter.com/HeyItsVadim/status/1355978484821225480
https://twitter.com/SnowySecluse/status/1443405141793726464
 例えばHokler. Honk Honk = HH = Heil Hitler(ハイル・ヒトラー)の隠語として4chanで使われて来たようです。ただ、"過剰反応じゃん"と一笑に付す人もいるかもしれません。
 実は、4chanではironic racismと言って、面白半分で差別思想が広まった経緯があります。だからミームを見かけたら、半分ジョークで、半分本音で差別している、と考えた方がいいと思います。(Lindsay氏の場合はそれ以外ではっきり差別しているので、ミームを考慮する重要性は無いのかもしれませんが。)

アメリカの左派YouTuber, ContraPointsさんの動画から。
https://www.youtube.com/watch?v=Sx4BVGPkdzk

 例えば、あのリチャード・スペンサーでさえ、インタビュー等では平和的な運動を装っていたわけです。言い訳をしながら、堂々と白人至上主義的主張を進めるのは、オルト・ライトのような隠れネオナチによくある手口です。

まとめ

James Lindsay氏は
・ネオナチレベルの数々の人物とつるんできた人物
・ネオナチレベルの数々の陰謀論を信じる人物
・ソロスやグローバリスト犬笛なら共和党員でもやるが(それはそれでよくないが)、それを遥に越えた、ユダヤ人差別ガチ勢である。
 まず、出版社に一言。ふざけんな。海外にはこういった、一見"どっちもどっち論"を装っているが、極右言論にルーツやレトリック的な繋がりのある言説は多くあります。これにろくに警告も付けず、読者に差し出すようなことを、日本の出版社、一部の学者、新聞社は近年、行ってきました。例えば「The Strange Death of Europe」のDouglas Murray氏の件も、似たような悪しき事件と呼べると思います。
 僕としては、こんな似非学者に耳を傾けるなら、まだ、又吉イエスの本を読んで政治を学んだ方がましだと思います。(※沖縄ギャグ。)
 もう一つ。ここまでネオナチを見分けがつかない人物が共和党内で堂々と活躍しているとは。米共和党が全速力でファシズムに駆けていくのを感じます。中間選挙ではボコられたようですが、これからも共和党が選挙で負け続けることを祈ってやみません。

追記:僕自身はこの本を読んでいないので、本自体の批評としてこちらの記事を紹介します。https://www.liberalcurrents.com/the-cynical-theorists-behind-cynical-theories/
 また僕が"反ユダヤ主義"、と言う場合、あくまでユダヤ人の人たちへの差別を指します。僕はパレスチナ人たちの権利は守られるべきだと思うし、イスラエルのパレスチナに対する攻撃は許されないと思います。(イスラエルのパレスチナ攻撃に反対=反ユダヤ主義とするのはアメリカの保守に多い立場。)
Fuck Netanyahu!

 関連する良い動画。ナチ芸術家エミル・ノルデが、皮肉にもナチスに弾圧された話。"文化的マルクス主義"陰謀論の解説がタイムスタンプの部分からちらっとあります。

ヘッダー写真はGuardianから。

参考
https://www.thedailybeast.com/the-banned-ok-groomer-guy-james-lindsay-is-not-a-free-speech-martyr
https://www.salon.com/2022/02/17/meet-james-lindsay-the-far-rights-world-level-expert-on-crt-and-race-marxism/
https://www.vox.com/2018/10/15/17951492/grievance-studies-sokal-squared-hoax
メモ:Charlie Kirkという、Turning Point USAに出るような人物もChenと共に出演している、と言う反論もありえますが、共和党が、Kirkという過激な活動家を一人、間に挟んだ形でChenと繋がっているのがポイントかと思います。一方のLindsay氏は共和党のインサイダーであることが大きな違いではないでしょうか。

続編:https://note.com/azuro_danger/n/n9020e9cfcbc5

おまけ:【2023年5月3日追記】
 反ユダヤ主義とは関係無いですが、セックスカルトとして知られるNXIVMのニッキー・クライン氏と交流があることが指摘されているようです。
 LGBTQ+の人たちを"groomer(児童虐待犯)"と呼ぶ人物が、児童虐待で知られる団体と交流があるなら、皮肉なことだと思います。
https://www.dailydot.com/debug/james-lindsay-photo-nicki-clyne-nxivm-sex-cult-groomers/


ジェイムズ・リンゼイ「左翼の嫌い屋やボットの諸君が、(リンゼイが)私の友人@ニッキー・クライン氏と楽しい一日を過ごした時のことを思い出させてくれることを、感謝したいね。」
ニッキー・クライン「あれは楽しかった!あなたがた嫌い屋も(訳注何に挑戦するのかは不明。)
挑戦してみればいいのに。:)」

https://twitter.com/nickiclyne/status/1595469250231209986

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