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繊細な関係。ホリー・ガーデン

なんて若い男の子だろう、と作中で評された25歳の「中野くん」。それよりも、さらに若い時に購入して読んだ本。

家でも、外出中でも、お風呂に入りながらも、何度も読み、ついにボロボロになってしまい、新しい本を買い直した。

軽く内容をなぞっておくと…。果歩と静枝は小学校に上がった時からの付き合い。おたがいを知り過ぎた関係でもあった。過去の失恋の痛手から恋愛不能の状態に陥り、男性と刹那的な関係を続ける果歩、しっかりものの静枝は不倫の恋を選ぶ。果歩を無邪気に慕う中野くんがそこに加わり、ゆるやかに変化が起き始める。果歩と静枝は「なんでもぶつけ合えばいいというような単純なやり方で」友情を扱ったりしない。精巧なガラス細工を作り上げるように関係を作り続けている。文中にも記述があるが、「手を出せないくらい濃密なのに緊張して張り詰めている」といった感じだ。ふたりは印象こそ違えど、どちらも痛々しいくらいピュアだ。そして、というべきか、だからこそ、というべきか、彼女たちの関係も、彼女たちを取り巻く関係も、単純に好きとか愛してるとかでもなく、親友とか友情でラベリングされるものでもない。

もっと微妙な複雑な、深い、言葉にできない何か。そんな関係だ。ナイーヴでほんのり暖かくて、ほんの少しクール。そして繊細な関係。やっぱり言葉にできないな。しかしそれは実は人生においたとても重要な関係性ではないのか。小説は、果歩、静枝、中野くん、静枝の恋人の芹沢、果歩の姉や姪、静枝の大学時代の仲間、いろんな人が縦糸、横糸として絡み合い一枚の美しい布ができる…という印象だ。

私はいつしか「中野くん」の年齢を超えた。そして、30歳のヒロイン、「果歩」と「静枝」の年齢さえも超えた。

読者は年を重ねても、作中の人物の年齢はかわらない。一方で観測点が変わっても、この作品を読んだときに感じたみずみずしい何かも、一枚の美しい布も変わらなかった。変わらなかったことに安堵する反面、なんとなく心細くもなった。

またいつか読み返す時が来ると思う。そのとき、どんな色を見せてくれるのだろうな。



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