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イワシナガ姫し

出汁取りによく使われる煮干しはカタクチイワシですが、それを炊き込みご飯にしながら、誤解されている女神について妄想した記録。


材料

煮干し  10から12匹
米    1・5合
人参   1/3
油揚げ  1枚
酒    大匙1
醤油   大匙1
味醂   大匙1

天照大神の孫、ニニギノミコトが葦原の中つ国つまり日本を統治する使命を受けて地上に降りてくる。これが天孫降臨。
地上に降りたニニギノミコト、笠沙の岬で美しい娘に会う。
コノハナサクヤヒメという娘に恋したニニギノミコトは結婚を申し込む。
「父に相談しないと一存では決められません」と返答。
そこでニニギノミコトは姫の父親であるオオヤマヅミノミコトの所へ結婚の申し込みに出向く。


人参を細切り。

オオヤマズミノミコトはイザナギ、イザナミの間に生まれた山の神。
天津神の系統であるニニギノミコトが娘に求婚してくれたことを喜び、それを承認したばかりか、コノハナサクヤヒメだけではなく、その姉であるイワナガヒメも共に輿入れさせる。
ところが、ニニギノミコトは却って頭を抱える。
というのも、一目ぼれしたコノハナサクヤヒメの姉となると、さぞや美しいだろうと思いきや、イワナガヒメはみにくかった。


油揚げを短冊切り。

このことについて多くの人には誤解があります。
つまりイワナガヒメが醜女だったと解釈している本や人が多い。
違います。
醜いではなくて見難いです。
分かりやすく英語にすると、uglyではなくunclearということ。
見え難かったという意味。
華やかに見えるコノハナサクヤヒメとは、物質世界の象徴。
一方、姿がはっきりと見えないイワナガヒメは精神世界の象徴。
目には見えなくても確かに存在している物は幾らでもあります。
空氣、人間の気持ち、菌とかウイルス、原子、分子、霊魂。


米を研いで、材料と調味料を全て炊飯器に投入。浸水後、炊飯開始。

ニニギノミコトはコノハナサクヤヒメのみを妻として、イワナガヒメは父親の所へ帰してしまう。
「コノハナサクヤヒメは移ろいやすい美しさの印だが、イワナガヒメは岩のように変わらない永続性の印。その二人共を妻にすれば、天津神の子孫は花のような美と岩のように変わらない命を得ることが出来たのに残念だ」
と父のオオヤマヅミノミコトは嘆く。
ニニギノミコトは物質界の華やかさのみを見て、目には見えない価値を認めなかったということになる。
このために天津神の子孫、ひいては地上に住む人間は移ろいやすい限りある寿命を持つこととなった。
この婚姻を境にニニギノミコトは神から人になった?


炊き上がった。

一説には父の所に帰された時、既にイワナガヒメは懐妊していたとか?
そうだとすれば人でなしですな。というよりニニギノミコトは神か人かよくわからないので、神でもなし?
又、妻としたコノハナサクヤヒメが懐妊すると、一度だけの契りで懐妊とは本当に自分の子かと疑った。
することしといてしらばっくれる?ますます人でなしor神でなし?
コノハナサクヤヒメは
「天津神の子であれば、何があっても無事に生まれる筈」と誓約して、産屋に火を掛けさせる。
燃え盛る炎の中で火明命、火須勢理命、火遠理命と三子を出産。
火遠理命の孫が初代天皇となるカムヤマトイワレヒコノミコトつまり神武天皇。


煮干しを杓文字で切るようにしっかりと混ぜる。

イワナガヒメのその後ですが、国津神であるヤシマジヌミノカミと結婚。
この神はスサノオノミコトとクシナダヒメの間に生まれた子。
結婚の前後というか、追い返されるという屈辱のためかイワナガヒメはコノハナチルヒメと改名。
この結婚の後は子孫繁栄。やがてその系譜はオオクニヌシノミコトへと繋がっていく。


イワシナガ姫し

カタクチイワシの煮干しからいい出汁が出ている。醤油と味醂にしっかりと出汁が絡む。その味を吸い込んだ油揚げもいい。
カタクチイワシからカルシウム、油揚げからタンパク質、人参からベータカロチンやビタミンCに食物繊維と栄養面も申し分なし。

父親の所に戻された後、イワナガヒメは出産したと言われていますが、その子がどうなったのかがよくわからない。御存知の方がいたら、教えて欲しいです。
『日本書記』の記述によると、コノハナサクヤヒメが懐妊すると、イワナガヒメは泣いて唾を吐き、妹の腹の子に呪いをかけたとなっています。因みに呪いも目に見えない。
天津神系、つまり天皇家の子孫が編纂した『日本書記』はニニギノミコト側を正当化するためにイワナガヒメを悪く書いている?

イワナガヒメは悪縁切り或いは縁結びの神として祀られる。妹のコノハナサクヤヒメと一緒に祀られることもある。
静岡県伊東の大室山浅間神社には、ここから富士山を眺めてはいけないという言い伝え。
富士山にはコノハナサクヤヒメを祀る富士山本宮浅間大社があるのが理由。
妹を恨んでいるという日本書記系の伝承の流れを受けているということか。
身の領域である物質世界を象徴するコノハナサクヤヒメ、氣の領域である精神世界を象徴するイワナガヒメ、どちらも人が大事にすべきこと。
醜いから返された。そのために永遠の命を得られなかったという解釈はあまりにも浅い。
目には見えなくても存在するものはある。その価値を認めて尊重すべきという意味がこの神話には込められている。
そんなことを妄想しながら、イワシナガ姫しをご馳走様でした。

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