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ショートショート『一人旅?』

見渡せば辺り一面綺麗な桜が咲いている。耳を澄ませば鶯の美しい声も聞こえてきているし、まさに花鳥風月という美しい光景である。今日は桜の名所として名高い場所へと一人でやって来ていた。どこを見ても桜の木しかなく、周りには人は誰一人いない。俺一人だけだ。……え?一人だけ?……

桜の名所にやってきたんだぞ。毎年たくさんの人でごった返しているような場所なのに、どうして俺一人しかいないんだ!何か盛大なドッキリにでもかけられたのか?それともパラレルワールドにでもやってきて――

そこで突然肩をゆすられて、次の瞬間には景色が変わりいつもの自室にいた。
「あなた、いくらリアルなVRだからってちゃんと周りも気にしておいてくださいよ。さっきからご飯ですよと何回呼んでも聞きやしないんだから」
ああ、すまないね、すぐに行くよ。そうだった、思い出した。俺はVRの機械を使って家で綺麗な桜の景色の映像を見ていたのだった。そうか、妻がご飯を作ってくれたのか……。

え?妻?まて、俺は独身のはずだ。なんで家に妻がいるんだ!
「おい、さっきのは誰――」

「ゴーグル外しますよー」
そう言われて外されて見えた景色は会社の小会議室だった。
「どうですか、VRを見ていた時に外からVRゴーグルを外されてしまう状況の体験できるVR映像は? すごくリアルだったんじゃないですか?」
ようやく状況を理解した俺に部下が聞いてくる。

「ああ、凄くリアルで本当に体験しているみたいだったよ」
「じゃあ商品化ってことですね!」
「いや、確かにリアルだけどこんな物誰に需要があるんだよ……」

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