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MOTHER **Another story**


昔むかしのお話

彼女は生まれた時から ずっと
両親に愛されず
愛することも
愛される喜びも知らずに
大人になったんだ

ある時 彼女は
小さなふたつの命を授かった
ひとつの命は 天使になって
空に逝ってしまったけど
それでも彼女は
残されたもうひとつの命を
必死に守ったんだ 


生まれてきたもうひとつの
小さな命は
触れるだけで壊れてしまいそうな
ガラス細工の天使

彼女は
その小さくて壊れそうな
天使をはじめて胸に抱いた時に
”愛おしい”という
温かな感情を
知ったんだ

彼女の腕の中に眠る
愛おしい天使は
慈しみ愛する喜びを彼女に運んで来た

でも

愛されて来なかった彼女は
愛し方を知らなかったんだ

”愛”を運んできた天使は
彼女に色んな“初めて“も運んできた
何もかもが初めてで
どうしていいかわからずに
ただひとり苦しんだんだ

彼女は
両親からの愛情を知らずに
大人になったから
自分が親になってみて
どうやって天使を愛したらいいのか
悩み苦しむ日々を送ったんだ

天使はやがて彼女を困らせる
”小悪魔”になってゆく

小悪魔は色んな事を彼女に求めた
一番に欲しがったのは
”愛されること”
しかし彼女の中に
湧き上がったのは
愛おしさよりも戸惑いや怒りの感情
小悪魔は
愛されたくて
いつだって彼女を困らせたから


それでも小悪魔は夜眠りにつくと天使に戻る
胸に初めて抱いたあの日
寝顔を見ていると
彼女の中に
愛おしいあの時の
気持ちが蘇るそして
素直に愛せない自分を責めた

ある日

彼女は小悪魔の行いにそれはそれは腹を立てた
そして怒りの感情に支配され
刃を向け悪魔へ変えてしまう
呪文を唱えてしまった

小悪魔は心と身体に深くて消えない傷を
残してしまう

”お前なんか生まなきゃよかった”

生まなきゃ良かったなんで
本当は思っていない
命がけで守った命だったから・・

でも言葉は”言霊の呪文”となって
小悪魔を悪魔に変えてしまったんだ

彼女はそれはそれは
自分のした事の罪深さを悔やみ
悩み 苦しみに耐えられず
悪魔もろとも
地獄へ堕ちようとした

悪魔は彼女の手を振り払らい
遠くへ逃げようとした

が、その時・・・

逃げようとする悪魔の背中に
また僅かに残る
小さな天使の羽を見つけた

彼女は手を放し
追いかける事をやめたんだ


彼女は心の中できっと
こう叫んでいたに違いない

“私から離れて
その小さい天使の羽で飛び立ちなさい“

・・・と。

本当は愛しているんだよ

・・・と。




昔むかしのお話



天使の独り言



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#幼児体験 #母 #私小説









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