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Annaの日記 犬というこども⑩

 家中がゲロまみれになると覚悟していた。

 この犬が覚えた唯一の「構ってもらえる、心配してもらえる」と考え付いたのが、自分の飢えを犠牲にして吐く事だった。

しかし、私たち3人(私・未完成の人間・犬)の生活になった時
なによりひどくなったのが、
 マウント(私の腕や足をもって腰をふる)だった。甘えたい、遊びたい、構ってほしい時に犬がする行動らしい。

 これも子供が泣いている時、授乳の時にされると本当にストレスがたまった。

 色々な限界が来た時に、マウントをした犬を蹴ってしまった。
 そしてとうとうその翌日に事件が起きた。


 最近吐かなくなったと思ったある週末。
まだまだ引っ越しの片づけが残っていた。
 小さい子供を抱えながらの片づけ、泣く度に手が止まる。
 もちろん二人とも犬にかまう余裕なんかない。

 ひと段落ついて、絨毯に寝転んだ。
やたら犬が私のスボンの匂いを嗅ぐ。
ポケットは空っぽのはずなのに、何度もしつこく鼻で足をつつく。


 少しいらだちを感じながら起き上がった時・・・
  ゲロがもっこりとお尻についていた。

  最悪だ・・・

 ゲロを踏んずけてしまった。
 しかも新品の絨毯の上で・・・

 逆鱗に触れてしまった私は、夫の前で容赦なく叩いてしまった。



  あ・・・ダメだ・・・やってしまった・・・

 夫は、何より私と犬の関係がこじれてしまう事を心配していた。
 私も口ではこんな事があったと報告はしても、実際夫のいる前では
犬と普通に過ごそうと演技をしていた。


 案の定、夫は私に怒る事なく、犬に怒る事もなく、淡々と寂しそうな顔をしてゲロの処理をした。
 (後からわかったが、犬が吐くときは決まって夫婦だけで何かして構わない時という事がわかった。なので子供と3人の時はあまり吐くことがなかった)

 その次の日の夕方だった。
 いつもなら、昼ごはんの時に一度おしっこに連れ出す。犬は外でしか絶対におしっこをせず、家の中ではトイレシートすらおかなくても大丈夫なくらい硬くしない犬だった。

 私はいやいやながらも、トイレに連れて行くがしない。
 夫に昼連れて行ったか聞くが、行ってないと答える。

 おかしいなと、何か嫌な予感がした私は床を見渡したが、ない。


  犬が絨毯の上でお座りをしていた。


    ・・・・・まじか・・・・


 もう怒る気にはならず、ここまで追い込んでしまった事に急に悲しくなり、ポロポロと泣けてきた。



 そう、この犬は何も変わってないのだ。


 子供が生まれる前から、いや私と出会ってから、
 いや、夫とふたりぼっちの時から
 ずっとずっと甘えたで賢くて、かまちょな犬。
 それが愛おしくてたまらなかったのに、
 私の余裕がないだけでこんなに無碍にしてしまった。

 言葉が話せないもどかしさ、
 頭がいい分、赤ちゃんよりも
 もどかしさは大きいだろう。


 何より私と犬の関係性を心配している夫は、子供の面倒をみるから2人で散歩に行くように促した。


 気が付けば、二人での散歩なんで、臨月に入る前だからかなり久しぶりだった。

 私も寒さと、子供が小さい事もあり、全然外の空気を吸っていなかった。
天気が良くてもまだ寒かったが、犬は嬉しそうにぐんぐんとリードを引っ張った。久々の「私のひとり占め」で本当にいい顔をしていた。

 思えば、子供を産んで退院した日
 真っ青な空だった。

 4人で今日から始まる新しい生活に
 わくわくしながら、12日ぶりに会う犬が
 どんな反応をするかドキドキしながら
 見上げた空と同じ色だった。

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