過去とカレー

だいたい10年前は音楽と海の境目にいた。
大好きなHIPHOP。
それを超えるぐらい海に惚れた。
ヨットに出会い
青春を駆け抜けた音の世界から
抜け出そうとしていた。
クラブに行く回数は徐々に減っていった。
それと共に
クラブで会う友達とも遠くなっていた。

結局、大好きだった音楽からは
抜け出せなかった。
ヨットも惚れたまま、のらりくらり。
それでもクラブで遊んでいた友達は
遠くなったままだった。

あの頃の男友達にあまり笑わない人がいた。
嬉しかったり楽しかったりすると
表情の奥で笑顔になる。
あの瞬間が好きだ。

その友達が三軒茶屋に
カレー屋さんを開店すると聞いた。
昔馴染みとオープン初日の開店時間に
お花を持って行きたかった。
あまり笑わない店主の
奥の笑顔を見る為に。

そして今日、
昔馴染みと久しぶりと交わしながら
お花を持って開店初日のカレー屋さんに行った。
すでに立派なお花が並んでて
私たちのお花はとても小さく見えた。
正直、出すのが恥ずかしかった。
しかし出さなければ。
お花はいずれ枯れてしまう。

『外のお花が立派で恥ずかしいんだが…開店おめでとう!』
そう言いながら自分たちの小さな花を渡した。

『関係ないでしょ、気持ちが大事。ありがとう、嬉しい。』
という返事をもらった。
表情の奥は笑顔だった。

それを見て、
友達は遠くなったと思っていたけど
遠くなったと感じていたのは私だけで
彼の本質は何も変わっていないのだろうと確信した。

初日ということもあり、懐かしい面々もいた。
あの頃に、
だいたい10年前に戻った気がした。

戻らない時間は戻らないから儚く、
あの頃があるから
私たちの関係が保てるのだろう。

とても暖かい気持ちになった。

カレーは美味しかった。

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