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学べる人には教える必要がない。学べない人には教えても理解してもらえない。

「図南の翼」(小野不由美 著)で後の恭国の女王になる珠晶(しゅしょう)は、昇山の能力を人に教えない頑丘(がんきゅう)に憤慨した。だから、頑丘と離れて一人で昇山することにする。頑丘からの学びを周りの人に教えながら。

しかし、ほとんどの者が、やり方も形だけ真似るだけで意味を理解しておらず、更に他人の忠告も都合の悪い事は軽視していることを珠晶は知る。つまり「多くの人間は一緒にいても見て学ぶ能力がない、だから頑丘は教えなかった」ことを知るのだった。特に命がけの昇山は、教えている方も命が危ない。頑丘の使命は他人に昇山のノウハウを伝授することではない。珠晶を昇山させること。ならば他人に教える必要も余裕もない。

他方で出来る人には教える必要はない。勝手に学ぶから。学ぶ能力があったのは12歳の珠晶のみだった。

協力し合うことが出来る相手は、数少ない同レベルの学ぶ能力を備えている人のみである。ともすれば協力し合うとは結局のところ自立し合う上で成り立つことなのだろう。
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小説から少し離れる。
彼は、カップルは協力しあわなければならないと話した(告白はされたが私に交際している認識はなかったが。)。
そして、彼は私に「コ○ナのワクチンは腕が腫れるから湿布を準備するように」とアドバイスをした。私は2回目の接種で対策は分かっていたし、湿布なんて聞いたことがなかった。だけどまずは信じてみようと思い職場で話してみたら、聴衆は潮が引くように消えた。そこに来た産業医が「湿布は薬剤がついているので使わないように」と言った。
彼の助言に従うと周りから人がいなくなる、危険、協力し合える相手ではないと感じた。

さらに、ワクチン接種前のデートの誘いで「県跨ぎの移動が禁止だから、秩父に行こう」と言われた。県跨ぎ禁止の忠告の意味は、ステイホームをして欲しいがそうとも言えないときがある。だからせめてワクチン2回目接種まで近隣で用事を済ませてね。ということを簡略して「県跨ぎしない」である。
とすれば片道20分で着く都内は禁止で、片道3時間かかる秩父は可能という判断に合理性を見いだせない。
彼は他人の忠告で都合の悪いところを軽視し、「県内では遊んで良い」と考えたのだろう。
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職場にいても都合の良い解釈はよく見かける。
例えば、経費削減で出張自粛の通達。しかし、環境保全活動は例外だった。それは工場排水で環境汚染があった場合、経費になりふり構わず第一に環境保全をしてねという会社からのメッセージだろう。
しかし、環境を管理する部署の受け取り方は、工場のない事務所に節電を促しに行けると、旅行のような出張に許可がおりたとの判断。

どうして、そうなるのか?創造力のなさを指摘しても通じず、疲弊した当該部署の20代は在宅勤務がなくなった瞬間、退職した。
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冒頭の珠晶に戻る。
「夜、火を焚かないのは妖魔という魔物に襲われ危険」だが、絶対ではない。真っ暗闇だと返って妖魔の襲撃が分からない場合がある。その時には火を焚いたほうが良い場合もある。火を焚くにしても匂いの強い木の側がよいなど、注意点もある。
しかし人々には、「火を絶対に焚いて良い」又は「絶対に焚いてはいけない」の二択しかない。
こうして何人も命を落とした。
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都合よく解釈し、伝えている相手の言いたいことの本意を捉えないと非ぬトラブルに見舞われ、自分がリスクを負う。そもそも対話が必要になった時点で、話者のいずれか又は双方に見て学ぶ能力がないのだから、自分の能力にも相手の能力にも気をつけながら話をしなければならない。

やり方を真似るのは自動的に到達する場所。だから物事の本質を探求する意識を常にもちたい。それは人と生きていく上で不可欠の能力。

お互いに見て学ぶことが出来る相手とだけ生きていける環境なら、頑丘の様に珠晶以外を置き去りに出来るが現実はそうもいかない。現実は、珠晶以外も連れて昇山しなければならないのだから。
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国を救うため自ら王になることを決意した聡明で活発な12歳の少女が昇山を通じて成長していく。
まるで読者の自分も昇山しながら人間の本質を学んでいるような気持ちになる。何より明るい珠晶から元気を沢山もらった。
12国記のファンの方はこの紹介では不十分と思うほどに語りたい方が沢山いるだろう。
夢に向かっている全ての年代の人に、人間模様の悩みを持っている沢山の人に贈りたい本です。

図南の翼 十二国記

小野不由美/著
新潮文庫

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