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「何でも聞いて」の裏、私はあなたの聞いて欲しい願望を満たせない。

(2022.7.30少し編集)
自分の理想の関係にするため、親切を装い、本音を隠す。マウント欲や自分を語りたい欲を「相手のため」と称して、都合のよい人に浴びせる。
やられた方の心労は、大きい。
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「何でも聞いて。」が使われる場面の多くは、年齢差のある人との初対面。
初対面で相手の心を開ききることはまずないから「何でも聞いて」は裏返すと、
「私に心を開いて」というポジティブな社交辞令にもなるし、
「私先輩であなたより知識あるから媚びてごますってね。」という脅迫文言にもなる。
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彼の朝は「俺に聞くことない?」で始まる。私の入社は彼よりあとだが序列は同位。「聞くことないよ」と思いながら、そう言うとマシンガンのように私を前にして私の気に入らないところを吐き出すのを知っている。
だから、毎朝20分、質問を絞り出す。業務については、さらに上のおじさんから引き継いでいるから、彼には課内ルールを聞くしかない。
コーヒーサーバーの清掃について、
この仕事を目指した理由、
大変だったこと、
私の心はえぐられた。全く違う価値観のおじさんの人生談を毎日聞くことは、激しい消耗戦だった。
会話の後、必ずトイレで一息ついた。
おじさんは私に上機嫌で話し、私は「ありがとうございます」と毎回お礼を言ったのが過ちだった。
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2ヶ月耐えたあと、
「どうして角刈りなのか」を聞いてみた。苦痛と疲労で頭が回らず思わず聞いたのだ。そして「何でも聞いて」と言われたのでと付け加えた。
彼の口が震えた。周囲のクスクスが少し私を楽にしつつ、「コイツら助けてくれなかったのに都合いいときだけ笑いかよ、卑怯だ」とも思った。
「小顔なのでツイストとかも似合うだろうなと思って」と必死でフォローしたが、後の祭り。

そして、私は面談で上司に彼から私に対する不満が告げ口されたとの報告があり散々な目にあった。
しかし、あの独演会を喜ぶ人がいると認識していたとは。それとも彼を敵に回せば私のような被害に遭うとの不利益と踏んだのか。
もはやどっちでも良い。日々の独演会からの開放は、心を麗した。
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私は能力主義で媚びるのが苦手。さらに奥さんすら相手にしないおじさんの体験談は、業務時間といえ厳しい。今なら「えー、また毎朝の独演会ですかぁ?」と正直に話しさらっと逃げる。しかし、あの時の私はまだそこに達していなかった。
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最近、入ってきた若手が必死で相づちを打っているのをみると、「自慢話は、家族にしようよ」と、思わずにいられない。

立ち回りの上手い新人は、おじさんを不快に思っている人をいち早く把握し、
独演会の内容をを人にいいふらし、
みんなで馬鹿にして間接的に自慢話を辞めさせている。
しかし、それができない若手があの頃の自分に見える。
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言えない人が退職に追いやられるのを何度も何度もみてきた。
ただ組織にいる以上、居続ける以上、何らかのノウハウを手に入れないと生きていけない。誰も助けてくれない。
一番遅く入った人が、一番早く退職するとはまさにこのこと。

誰もが心にないことを、苦しいことを、
まずは自らNOと言えるように、
そして本人がNOと言ったら私はサポートしたいと思う。
人にNOを伝えることがどれだけ勇気のいることかを知っているから。
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立ち回りの悪かった新人は、メンタル休職になってしまった。
それでも彼は「休職」と言う方法で意思表示し、上司の態度を変えることができたようだ。


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