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身の丈に合った生き方を

行きつけの温泉旅館は、突如ランチ休業とすることがこの15年で幾度かある。私にとっては日本一美味しい食事を一食分、口にできなくなるのだから一大事だが、旅館はそんなこと構っていない。人手が足りず、満足がいく料理の提供ができない、ならば休むのみ。その判断が当たり前で自然なことのように、「今日はお休みです」という。

営業すれば利益が上がるのに、穴埋めのための誰でも良い誰かを雇って料理のクオリティーを下げることになってまでは、提供をしない。
身の丈を弁えた仕事をしているのだ。
……………
この旅館が当たり前に成し遂げている身の丈に合った生き方は、簡単に出来るものではない。
人には手に入れたい権力や、希望する収入があるから、呑まれてしまうこともある。

忙しく動き回る同僚は、動くことが権力を手に入れる仕事と考えており、仕事を回すだけで成果は出ない。能力を超過した仕事を自らが働いた様に見せるため、人にやらせて補填する。
彼の手にある権力は他人を回してこそ得たものだ。そこに彼の仕事はないから、彼は居ない。

知人女性は、子供ができたら日本最高峰の教育を受けさせたかった。だから、セレブ妻になった。
結果は家族皆で夫から避難する暮らし。もっとも素晴らしい教育を受けさせることには成功したが、その皺寄せはある。
……………
自分の能力に合った仕事をすること、
大事にしたいと思う人とパートナーになること、
はそうたやすくはない。
欲しい権力があるし、望む収入もある。
しかし、無理な理想は実現出来ないのだからその分は皺寄せがくる。

もっとも、本人が幸せならそれでよい。しかし、仕事の場合、周りに負担がのしかかる。

自らの能力を弁えることは、向上心がないこととは違う。
向上心あるからこそ、今を知り、今の最高の状態を作れるのだと思う。
…………
常連になってしまった温泉旅館がランチ休業となってしまっても、私はまた行こうと思い、通うことを繰り返してきた。
それは出来ないことをやらない結果、いつ行っても料理が全て最高だから。最後の珈琲まで、高級なカフェよりもずっとずっと美味しい。
15年もの間、人を満足させ続け、飛行機でも通いつづけたくなる料理を提供することは、普通は出来ない。満足させる味を出し続けられたのは、自分の能力を最大限に発揮する限界値を知っているからだろう。向上心あってこその賜物である。

料理をいただきながら、私自身を振り返る。
身の丈にあった仕事や恋愛をしているかどうか。
それは自分を低く見積もることではないし、欲望から高望みするものでもない。
ただ毎日を満足する形で送ることだろう。
その結果が、自分のみならず人をも惹きつけ続ける仕事になっているのではないだろうか。

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