初恋は思い出のままで。
私の初恋は小学校3年生の時。とある転校生に恋をした。
小学生の時に好きになる人の条件って、
面白いとか、優しいとか、足が速いとか。
その転校生は真逆だった。
転校当初、彼は荒れていたけれど他の子達とは何かが違った。
感情を上手く言葉で表せない子供のように、
自分が傷ついているから周りに刃を向けているような印象だった。
そんなところに私は魅力を感じ、転校生に人生初めての恋をした。
彼は段々と友達も増え性格も丸くなっていった。
きっかけは忘れてしまったが私たちはとても仲良くなり、
お互い特別な気持ちを持っていることをお互いがなんとなく分かっていた。
でも卒業後私達は別々の中学校へ進学するため、
卒業前に私は人生で初めて好きという気持ちを言葉にして彼に告白した。
返事はお互い同じ気持ちだった。
しかしその時まだ付き合うという概念がなかった私は、
彼の付き合おうという気持ちを断ってしまった。
卒業後、メールのやりとりはしてはいたが段々回数は減っていきそのうち連絡も一切取らなくなってしまった。いわゆる自然消滅ってやつだ。
お互い両想いだったのに、それが分かってたのに、
若さゆえに結ばれなかった甘酸っぱい初恋の思い出。
不思議なことに、この思い出はなんだかずっと忘れられない。
心の隅っこに不完全燃焼体としてずっと残っていた。
そこに新鮮な空気が送り込まれたのは突然だった。
24歳の冬、小学校の友達から同窓会の連絡がきた。
同窓会とはいえ大規模なものではなく、
当時仲が良かった6人(男女3.3)での小規模同窓会の誘いだった。
メンバーを聞くと、その中に初恋の相手がいた。
心臓がドキッと音を立てたのが分かった。蘇る当時の気持ち。
もちろん出欠の返事は出席。
当日、みんなと小学生ぶりの再会で思い出話に花が咲いた。
誰が誰を好きだったとか、ものすごく盛り上がって楽しかった。
私と彼の話が出たとき、
当時のことをちゃんと彼が覚えててくれたことがとても嬉しかった。
喜びは束の間、心臓がキュッと音を立てた。
彼には奥さんと子供がいた。
1㎜でも期待していた自分があほらしく思えて思わず笑ってしまった。
そりゃそうだ。何年前のことだと思ってんだ。
酔いでごまかすようにお酒を頼んだ。
夜も深くなり、解散の時間。
みんな各々自宅方面に向かって歩いていく時、彼と私は方向が一緒だった。
コンビニが近くなった時彼から
「もう少し話さない?」
心の隅にあった何かがかすかにゆらめいた。
そこで二人っきりで思い出話をした。
当時の甘酸っぱい思い出。同じことを彼も思い、覚えていた。
嬉しさの反面、つらくなった。彼には家庭があるんだもん。
じゃあ、、また、、ね。
後日彼から連絡がきた。まさかの二人での飲みの誘いだった。
話し足りないという思いもあり、行くことにした。
改めて二人になると変な緊張をしてしまう。
初恋ってだけでこんなにペース崩されるのか。
他愛もない近況報告の中で彼がこんなことを言った。
家庭上手くいってないんだ。離婚するわ多分。
それを聞いた瞬間、こう思った。
あ、私付き合わなくてよかったな。
話の中で彼には人に対する信頼や愛情に関して何か欠落していると感じた。彼の家庭環境は複雑なのだ。親が離婚し、再婚相手に虐待のようなこともされていた過去があり、結婚や家庭に対しての価値観が変わっている。
彼の考えには納得する反面どこかでかわいそうと思ってしまう。
彼は正しい愛情を正しい環境で受けることができなかった。
何で今の奥さんと結婚したか聞くと、断る理由がなかったから、と。
離婚に対しても何ら抵抗がなく、結婚と離婚に対してのハードルが一般的に比べるととても低い。そうなるのも無理はない。
大人になった彼と改めて話してみて、ちょっとがっかりしてしまった。
子供の頃、魅力的に思えていた彼の少し変わった価値観や人間性が、大人になった今それはただの歪んだ人間性だったと認識した。
お酒も深くなってきてそろそろ解散の時間。
お店を後にし、二人同じ方面に向かう。
なんだか悶々とする。
私は酔っている頭の中で自分に言った。
じゃあね。。。
私はお酒のせいにして彼にキスをした。
初恋のキスは甘酸っぱいとか言うけど、私の場合は苦くてぼやけたキスだったな。
そのあと連絡はしばらく続いたが、面倒になって既読スルーをした。
これでよかったんだ。不完全燃焼の初恋はこれで燃え切った。
はずだった。
5か月後。彼から突然連絡がきた。
飲み行こうよ。
ドキッ。
また心の隅にある何かがゆらめいた。
分かっていた。自分に言い聞かせていただけだってこと。
まだこの初恋は終わっていない。気持ちは抑えれられなかった。
待ち合わせ場所に向かう電車の窓に映る自分を見ながらなんとなく思っていた。
今日は一線を越えてしまうかもしれない。
そんな気持ちで会いに来た時点で終わっているし、抱かれる準備もしてきた時点で私はアウトだ。分かっていても抑えられない。
もうどうにでもなれと半ば吹っ切れモード。
当日また少し変な緊張しながらとりあえずビールを1杯。
もう目の前にするとまたドキドキが止まらない。
もう今日は流れに身を任せるんだ!お酒もいいペース。
1件目を後にし、2件目。
二人とももう完全に出来上がっていた。
・・・この後どうする?
ついに来てしまった。もう後戻りはできない。
お互い小学生ではなくもう大人。
こんなことになるなんて当時は微塵も思ってなかっただろうに。
そう考えると余計燃えてくる。
でも何だろうこの感じ。
ザルに水を入れている感じ。
何か違う。何も満たされない。
こうなることを望んで来たはず。
一緒になることで今度こそこの初恋が完結すると思っていた。
違う。
私は結局昔の淡い思い出に縋り付いて、今の現実を初恋に重ね合わせていただけだった。もうあの時の私達ではないし、あの時の感情もない。
何がしたかったの。どうなることを願っていたの。
不倫という泥沼に落ちていくことを願っていたの?
初恋のように二人が両想いで付き合えることを願っていたの?
違う。
なんで。何であなたは今幸せそうにしてないのよ。
奥さんも子供もいるのに何で幸せじゃないとかいうのよ。
平気な顔で不倫するような人になってんのよ。
私と付き合ってたら変わってたかもとか言わないでよ。
私を完膚なきまでに納得させるくらい幸せになっていてよ。
そんなんじゃ私の初恋を終わらせられないじゃない。
私は、私は。
初恋だったあなたの幸せな姿を見たかっただけ。
私達が結ばれなかったのは仕方がない、結ばれなくてよかったねって。
あの時は若かったねって。
あの時私があなたと付き合わない選択をした後悔を消させてほしかった。
ただそれだけなのに。
私は間違った選択をしてしまった。
思い違えていた。のぼせ上っていた。最悪だ。
でもこれだけはわかった。
あなたと付き合わなくて良かった。
ただそれだけ。
願っていた形ではなかったけど、
これでやっとあの時の初恋に蓋をすることができた。
ありがとう。本当に純粋にあなたのこと大好きだったよ。
少し汚してしまったけど、少し傷ついてる方がヴィンテージ品は味がでるから。
初恋は完結させなくていい。
甘酸っぱくて、切なくて、不完全なままでいい。
それでいい。
きっとそれがいい。
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