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Ayane Tanizaki (谷崎文音)
2023年6月25日 01:52
遼子が休みをとった翌日、別所はいつもの時間に出社して自分の席に着いた。机の上に置かれているファイルの山は「今日やるべき仕事」だ。一番上にあるものに手を伸ばそうとしたらドアをノックする音がした。「どうぞ」 声を掛けてすぐ扉が開いた。目線をそちらに向けると、ゆっくりと開いた扉の陰に遼子がいたものだから驚いた。別所は目を大きくする。「りょ、遼子先生? どうしました?」 慌てて席を立ったのは、遼
2023年6月17日 02:14
「……あの方はどなたです?」 立ち去る元夫の背中を、ぼう然としながら眺めていたら別所の声が耳に入った。我に返り別所に目をやると不安げな顔をしている。遼子は、どうしたものか立ち尽くしたまま考えた。が、「と聞きたいところですがやめときます。ところで岡田たちは? 御一緒していたはずですが」 急に話の矛先を変えられてしまい、遼子はうろたえる。「え……、あの……、先に行くよう……」 ビルから出た直
2023年6月18日 01:11
「社長、昨日は申し訳ありませんでした」 出社早々、岡田に頭を下げられて別所はきょとんとした。「三人でビルを出ようとしたらあの男が来まして、麻生先生に話しかけてきました。会社に来ていた人だと言おうとしたんですが、麻生先生の表情がこわばってて……」 昨日、自分が遼子に声を掛ける前の話だろう。 何が理由かわからないけれど「あの男」が現れたことで動揺した遼子のことが気がかりだったから、岡田は自分に
2023年6月24日 00:57
「では改めて挨拶をさせていただきます。高崎法律事務所代表、高崎憲吾と申します」 高崎は、人なつっこそうな笑みを浮かべて名刺を差し出してきた。「麻生遼子です。急に連絡を差し上げてしまい申し訳ありませんでした」 心苦しい気持ちで遼子は頭を下げる。「いえいえ、お気になさらず」 名刺を受け取ろうとしたら、高崎から満面の笑みを向けられた。「企業法務ができる方が来てくれたらいいなと思っていたので嬉
2023年6月11日 00:44
「社長、これお願いします」 出社したらコーヒーとともに小さな紙を差し出された。「これは?」 昨日の出来事の顛末を聞きたかったが、別所は岡田が差し出している紙に手を伸ばす。「昨日、麻生先生を自宅まで送り届けるために立ち寄ったたい焼き屋の領収書です」 領収書を受け取り、記載されているものに目を通す。遼子が住んでいるエリアにある店のものだった。「ということは、うまくいったんですね」 別所は
2023年6月10日 00:23
深雪とソバを食べ終え、店を出たら岡田とバッタリ鉢合わせした。つい別所がいるのではないかと目だけで辺りを見回したものの彼の姿はなく、ほっと胸をなで下ろしたと同時に決まりが悪くなった。「ぐ、偶然だな」「そ、そうね」 どこか芝居がかった会話が耳に入り岡田と深雪に目をやると偶然とは思えないような様子だった。心に広がる複雑な感情から二人に意識を向けて成り行きを見守っていたら、「そういえば、麻生先生