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稀有な読書体験をしたので、ここに記録しておく

珍しい出会い方をした本がある。

それは、まだわたしが東京に住んでいた頃。
とある変わった本屋さんが好きで、定期的に通っていた。
池袋の駅から少し歩いた静かな住宅地の中にひっそりとたたずむその本屋さんは、本屋なのにカフェが併設されていたり、本屋なのにコタツがあったり、本屋なのに部活動があったり、本屋なのにしょっちゅう色んな講座が開催されていた。本屋だけど、ただの本屋ではなかった。色んな体験を売っている、それはそれは面白い本屋さんだった。

そこでは数冊だけ、面白い売り方をされている本があった。
黒色のブックカバーがされており、タイトルも作者もなにもかもわからない。書かれているのは値段だけ。
厳選に厳選を重ねた、店主が面白いと思ったシークレット本。
買ってみないと中身はわからない。読んでみないと中身はわからない。

そんな奇想天外な本の選び方、すごくすごく面白いなぁと思った。
せっかくなので、その謎の本を、わたしは1冊購入した。

ハードカバーで分厚い真っ黒の本。
どんな話なんだろう。何の本なんだろう。

気になるなあと思いながら岐路に着いた。自宅でとりあえず表紙をめくってみる。目にしたことのないタイトルだった。知らない本だったことに、少しホッとした自分がいた。
こうしてわくわくしながら買った本が、既に読んでことがあるものだったら、ちょっとがっかりしてしまうなぁと心のどこかで思っていたから。

そこから、4年が経った。

もう一度言おう。4年が経ってしまった。

ちらりとページをめくって、読んだことのない本だと確認してから、一向にページをめくることがないまま4年という歳月を経てしまった。
そう、何を書くそう、こんな面白い出会い方をした本を、わたしは積読にした。

本棚にしまわれたハードカバーの黒い本。
積読にしている4年の間にわたしは紙の本からkindle派に移行し、ハードカバーの本は持ち運ぶのが億劫でどんどんどんどん遠ざかってしまっていた。読もう読もうと思いながらも、その重厚感からページを開く気にもなれず、気が付けば時間ばかりが過ぎてしまっていた。

だけど、思い出した。2021年にやりたいことの中にわたしはこの項目を上げていたことを。
【 積読の消化 】
そう。何を隠そう積読の消化。ずっと心の中で引っかかっていた。この黒い本を読んでいなかったことを。4年間ずっと、本棚に眠っているこの黒い本のことを見て見ぬふりしていたことを。もはや積読にしていた本なんてこの1冊くらいなのだ。(いや、そんなことないな、あと2冊くらいある気がするな…?)

というわけで、読むことにした。4年越しに、この中身のわからない分厚い黒い本のページを開くことにした。


寝かせに寝かせた謎の本の正体は、これだった。


吉田修一著『橋を渡る』



一気に読み切った(と言っても1週間かかったけれど)感想を、言葉を選ばずに端的に伝えるとするならば。

「わたしにはハマらなかった」

特殊な出会い方をして、さんざん寝かせてから読み始めたから、きっと自分の中で「この本はきっと面白いにちがいない」という、ハードルが上がりまくっていたということもあるのだと思う。ただ、今のわたしにはこの本は刺さらなかった。

4部構成のこの小説は、1章ごとに主人公が異なる。2014年の世界で繰り広げられる日常とちょっと不可解なあれこれ。語られるリアルな日常の中に、ちりばめられる「あれ?」「どういうこと?」というちょっとぞわぞわする伏線。
ただ、話は1章ごとに終わるのに、ちりばめられた伏線は回収されないまま話が進んでいく。気になる。これはどういうことなんだろう。
はやる気持ちを抑えて読み進めた先の最後の第4章で、今までの伏線がようやく回収され、謎が解ける。
ただ、その第4章の世界はなんと2085年。1~3章までの2014年の世界から70年も時を経た未来が舞台だった。未来の世界は、今とは価値観も文化も違う。1~3章までの主人公たちの孫の世代が主人公になっており、急に世代がぶっ飛んでびっくりしてしまった。
4章まで読み進めてわたしは初めて気が付いた。「この本、SFだったのか……!」と。

わたし、実はSF系があまり得意ではない。なかなか興味がそそられなくて、自分からサイエンスフィクション小説を選んだことは一度もない。
今回、この本がそこまでわたしにハマらなかったのは、きっとそういうことだったんだろうなぁと思っている。

最後まで読み切ったのだけど、なんだかもやもやした。伏線も回収されたはずなのに、「ここまで4章でぶっ飛ばすのであれば、もっと驚くような伏線の回収の仕方があっても良かったのでは」とか「なんかスッキリしない終わり方だった気がするなぁ」とか、そういうことばかりが心の中をぐるぐるした。

なんとも言えない読後感を受けて、「この本に対するわたしの感じ方はこれが正解なのだろうか……」とさらにもやもやしてしまった。だから、ちょっと吐き出したくてこうしてnoteを書いてみた。

ただ、今回のような出会い方をしなければ、きっとわたしはこの本を手に取ることはなかっただろう。それに、首をひねりながらも結局は最後まで全部読んでしまったのは、著者のリーダビリティの高さなのだと思う。吉田修一さんの本は初めて読んだのだけど、さすが有名な方なのだぁと純粋に感じた。
そういう意味では、これは良い機会だったのかなと思っている。


この本の出会いから読み終わった後の気持ちまで含めて、稀有な読書体験だったな。



そんなわけで、今日もおつかれさまでした。



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