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中野美代子「中国の妖怪」を読んで/本の話

 私は中華系のファンタジーが結構好きらしい。好きらしいなんてちょっと他人ごとみたいな言い方になるのは、自負はなかったけど自分が好きになった作品を振り返ってみたら、あぁそうななんだ〜と気づいたことだから。

 そんなふうにあまり自覚はなかったとはいえ、中華系ファンタジー好きになったきっかけは判然としている。それは十二国記との出会いで間違いない。2019年の初読の際、その完全に初めて触れる世界観に圧倒されてこの世界が知りたい!とぐいぐい引き込まれた感覚は、5年経った今もまだまだ新しい。作者の小野先生は、いったい、何をどうやってこんな世界を創造したのだろうといくら思いを馳せても、想像もつかなくて、畏敬の念に立ち尽くした。
 あの十二国記での衝撃があるから、いつの間にやら中華系ファンタジーに触手が動くのかもしれない。西洋のものほど遠くなく想像しやすい部分もあるけれども、日本とは全く違う感じの、掴めそうで掴めない、理解が手をすり抜けていく感じがあるからこそ、いつまでも私の興味の裾が引かれているるように思う。
 
 ちなみに十二国記の他でハマった作品でパッとお思い出すだすのは、、、後宮の烏蒼穹の昴シリーズ彩雲国物語、後宮小説守り人シリーズ魔導祖師、、、など。

 そして新たな作品に触れるたびに、また新たな設定が登場するので、気になることが増えていくばかり。
 そんなわけで中華系ファンタジーの世界観の源泉に近づきたいとゆるゆる勉強を続けていて、今回は中野美代子「中国の妖怪」を読んだのですが、面白かったので感想を書きます。

 初版が1983年と今から41年前。作者の「古代中国には数多くの妖怪が登場するが、それは中国人のいかなる思考様式から生まれたか?」という興味から出発して書かれいてる本です。

 私は、ほんと、、、中国の妖怪の出本が知りたかったので、ドンピシャなタイトルに惹かれて買いました。ちなみに妖怪全般に興味があるわけでもなく、日本の妖怪のこともよく知らないです。でも、中国の妖怪のことはずっと気になっていました。

 なぜなら、私の中華ファンタジーの扉を開けた十二国記にめっちゃ妖怪出てくるからです。十二国記には妖怪とは書かれていなくて、妖魔とか妖獣とか霊獣とか少しずつ違う生き物として登場するんですけど。
 具体的に言うと、まず霊獣としての麒麟きりん。麒麟と言ってもあの首の長い黄色いキリン(girafジラフ)ではありません。十二国記内の麒麟は、馬と鹿の間みたいな感じの体躯に金色の立髪、そして額に一角がある霊獣です。とても神聖な存在で天帝(神)からの遣いとして敬い奉られている、超重要なキャラクターなんですが、その辺は割愛するとして、普通の黄色いキリンしか頭にない私は、混乱したのでした。
 その他、妖獣なら巨大な犬に羽が生えた感じの天馬てんばとか、目が七色に光り、尻尾がとても長いホワイトタイガーみたいなすうとか、妖魔なら蠱雕こちょうという毒々しい嘴を持った巨大なワシとか饕餮とうてつという変幻自在のものとか、、、色々出てくる。 それから魔道祖師にも玄武げんぶという蛇と亀の合体したようなやつとか、後宮の烏でも巨大な亀が出てきて、、、という感じでどんどん出てくる。

 結論から言うと、この一つ一つにぴ添う解説が載っていたわけではないけど、中国の妖怪思想の根っこの方にある前提というか共通認識みたいなものが知れて解像度が上がりました。詳細については、まとめるにしても私の手に余るので、特に印象的だったところだけ取り上げる。

四獣四霊についての記述。
・四獣は四方位と色と結びついている。
 東—青龍 
 西—白虎
 南—玄武 玄は黒を表す
 北—朱雀 
・四霊もいる
 麒麟、鳳凰、亀、龍

・大地を支える亀についての神話が数多くある。
・麒麟が仁獣である所以は、孔子と結びつけられて語られることから
・鬼門は、ある書物に東北に鬼星があるという記述から、鬼は東北に住んでいると考えられたことが由来。
・東北とはうしとらのの方角なので、鬼は牛の角を生やしトラがらのパンツを履いている。
・桃太郎がお供に、さる、とり、犬を連れていったのは、うしとらの方角の反対に置かれる動物だから。
・死体化生神話(神様の死体から世界は作られたという創世神話)は、アジアに広く分布いている。(ユミル神話や盤古神話)
・泥や土から人間をつくる神話も広く分布している

四獣と四霊のところで、亀、虎、麒麟が出てきて、なるほどと思った。神聖なものとして古くから根付いているのか。日本では霊獣って一般的に使われる言葉でないと思うのだけど、縁起のいい動物って言い換えれば感覚が近いのかも知れない。

鬼門と桃太郎のくだりは蘊蓄として面白い。桃太郎がお供に、猿と鳥と犬を選んだのに理由があったとは!

死体化生神話は日本の古事記もそうだ。神の死体が飛び散ってそれが今の国土になっているって古事記にあった。

あと、ユミル神話と泥から人を作るのは、漫画の進撃の巨人が浮かんだ。著者の諫山先生、きっとこの辺を下地にしているだろうなと、すごいな〜。

そうそう!漫画といえば、鋼の錬金術師のことも浮かんだ。ウロボロスという蛇が自分の尾を噛もうとして円を描いている文様の説明があって永続性と循環を象徴として錬金術の文献には必ずウロボロスが書かれているらしいのです。私がウロボロスという言葉に初めて会ったのは鋼の錬金術師の中で、出てくる敵集団はみんなウロボロスの刺青が入っていた。今日この本を読むまで、ただ仲間のシンボルみたいなもんだと思っていて、深く考えたことなかったので、えぇちゃんと由来があったのかと、、、これまた荒川先生に脱帽した。

いや〜物語を創作する人って本当にすごい。人生のどこでそんな知識と出会うのだろう。そしてよく勉強されてるんだなぁと改めて尊敬の念がわいた。

 何か一つ新たな知識と出会うと、それまでとはちょっと見え方が変わる。解像度が上がって面白くなる。

 読めてよかった。本っていいよね。

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