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未来を見据えて設計をする。自社モデルの図解から始めるデザイン経営


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前書き

私は受託の時代、可能な限りクライアントのアニュアルレポートを見るようにしていました。そんな事、要件にないと身内に言われたりもしましたが、担当するクライアントの長期、年間計画を通した戦略を確認するとしないとで作ったものでは、クライアント側の上長確認時の戻しが変わってくると何度も経験しました。

そして今はインハウスデザイナーとなってその重要性をより強く感じています。特に最近デザイナーが経営に入っていく必要性を説く話がよくありますね。これもまた、似たような話ではあるのですが、資格が必要な訳でもないこのデザイナーという職能が経営に貢献する方法とはどんなものなのか。今回はその観点から考えてみようと思いますので、同じテーマをお持ちのデザイナーさんにお付き合い頂けると嬉しいです。

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そもそもデザイン経営は有効なのか?

まずは、デザイナーが考えるべき経営とその貢献方法に関して、人それぞれ見解が分かれるところだと思うので、このnoteにおける前提を少し整理しておきます。

経産省の「デザイン経営宣言」。これによれば「デザイン経営」とは、デザインを企業価値向上のための重要な経営資源として活用する経営である。とあります。その中で必要条件とされるものは2点。

1 経営チームにデザイン責任者がいること
2 事業戦略構築の最上流からデザインが関与すること

そして、デザイン責任者とは、製品・サービス・事業が顧客起点で考えられているかどうか、又はブランド形成に資するものであるかどうかを判断し、 必要な業務プロセスの変更を具体的に構想するスキルを持つ者をいうのだそうです。…引っ張ってきたはいいですが難しいですね。「デザイン責任者とは、製品・サービス・事業が顧客起点で考えられている」これはどういう事でしょうか?

例えば、CS。彼らは顧客起点に最も近いところにいる人だと思います。◯◯◯が顧客起点でという文法であるなら彼らの方が適していそうです。他の職能も同じ様に考えられます。一生懸命顧客・ユーザー・消費者のことを考えるのに職能の差などないのです。

では何故そこであえてデザインと言うのか。デザイナーが人として他より優れているから?んなわけないw。けれど、優れた「デザイナー」が関わった仕事が結果として有益であるケースというものが存在することも事実です。

同資料にはBritish Design Councilが、デザインへの投資を行う企業パフォーマンスで4倍の利益を出していると発表したとの記述があります。そのヒントとしてさらに同資料の基となっているらしき資料で記載された同組織の調査対象を見てみましょう。

– デザイン賞に継続的に登場する企業
– デザイン賞に登場する企業

デザイン経営宣言では特許庁のフィルターがかかっているため、意図が異なる部分もあるかもしれないですが、これを見ると前提とするデザインの定義が変わってくる気がしませんか?

だってそもそもデザイン賞ですよ?
もちろん、賞が全てではありませんが、デザイナーと名乗っているだけの人間が突然経営層に入れば4倍の成果が出せると言うわけではないと言うことです。

とは言え、「クリエイティブ」業界内でも賞に対して様々な解釈があるでしょう。「あんなものクライアントに利益をもたらさない。」私も受託のWEB屋だった頃にそんな事を言われたことがあります。

けれど何故、デザイン賞を取る会社が4倍の利益をもたらすのか。目的から考えると見えてくるものもあります。

その中で最近よく行われている(笑)一般投票形式は、「みんなの好き」を探ると言うものですね。これは一般的に顕在化された好ましい表現を確認し採用すると言う作業になります。割とビジネスにすぐ繋がりそう。

こう言ったわかりやすいものの他に、技術の可能性、表現の可能性を該当分野の知見者が評価するものなどもあります。知見者だからこそわかるその難易度やそこから生まれるであろう価値を評価するわけですね。

ひとつ言えることは(原則として)どちらもそれが現在もしくは未来に人の心に感動・感情(すごい!かわいい!かっこいい!欲しい!使いたい!)をもたらすものとなるということです。ただ、デザイン賞では、それを厳しく見られます。例えば人の心を意識する行為だけならば、今日からデザイナーを名乗ります。というのと同じように簡単です。ですが、それが、技術と一体となっているか、その感情のために消化(整理)されているか、結論としてそれが簡潔に伝わるか。そういったものが見られます。

それは、日本によくある、人の「意見」を聞きすぎて、使わないボタンが増えすぎたリモコンとは異なります。聞いて技術・表現と照らし合わせて、それらを発展させながら、整理し、昇華させる。そうして初めて意味の無かった要素、配置、装飾が、デザインとなるのです。

私はこれを技術と心を繋げて形にする力と考えています。そうなって初めて他の職能ではなく、デザイナーが社会に存在する意味が生まれ、その思考を持つ人間が経営にコミットする意味も出てくるわけです。
受賞の有無はともかくそうやってカタチを昇華させる事の出来るデザイナーが有効であろうと打ち出す手段がデザイン戦略であり、それを有効に使う経営をデザイン経営というだと思います。

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自社のモデルを把握する

デザイン経営をしたいと言っても、そもそも社の戦略を理解していなければ話になりません。つまり、一番最初にデザイナーが繋げるべきものが何なのかを把握する必要があるわけです。そこでまずはそう言った戦略がわかりやすく組み込まれている大手さんのタグラインやベンチャーのビジョンから考えてみます。これは会社の性質やtoB or toC、フェーズによって中身もクオリティも変わりますが基本的には会社が外の人にとってみられたい姿であり、コミットしている姿勢でもあるので抑えておく必要があります。

まずはタグライン。
例えばオリンパスさんの
「ココロとカラダ、にんげん のぜんぶ」
これはおそらくZUIKOレンズを擁する高いレンズ性能を軸に発達してきた同社の幅広い開発範囲を「ココロ」でカメラなどのQoL商品、「カラダ」で胃カメラなどの医療に関わる商品を表しコアの強みと幅の広さを表しながらカタカナを使い表現を特定しすぎない事で自由度を保ち柔らかな「にんげん」と向き合う姿勢を内外に示しているわけですね。
もちろん広告的な発想も大きく締めているとは思いますが、この姿勢は当然、同社の開発姿勢となり優先度に繋がり、売り方へと繋がっていくと想像出来るわけです。

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もうひとつ。
ミツカンさんで考えてみましょう。
「やがて、いのちに変わるもの。」
、、、美しいですねぇ。
ミツカンさんはお酢を中心とした調味料に強い食品メーカーさんですね。「いのち」に変わるものとはおそらく食品全般を現す一方で、身体に良いお酢が主力であるからこその自信を人にとって重要な命という言葉に置き換えているととる事ができます。やがては命に変わっていくものを届けているのだという自信とコミットが感じられるタグラインです。
もしこれでとても身体に悪いものや擬装などの事件が同社で起これば、いまならTwitterの炎上ネタにタグラインも使われてしまうかもしれない。だから、その思考と真逆な商品開発はしないでしょうし、その為の自浄作用が働く組織づくりか社員教育が必要となります。

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これらは優れたコピーライターさんのお仕事ですが、企業の姿勢の伝え方としてデザイン、デザイン戦略の参考になる部分が多くあります。
また、この設計の思考はロゴ、CIともかなり共通していますね。

さて、Rettyの場合はタグラインがありませんが、ベンチャー・スタートアップによくあるビションが用意されているのでそこから考えます。

Rettyのビジョンは
「食を通じて世界中の人々をHappyに。」
と、こんな感じです。タグラインではないのでユーザーさんの多くはこの情報には接した事もないかもしれません。ですので、まだコミットとしての制約は弱いかもしれませんが、ここには会社の思いが込められています。

以下は私がRetty入社時に提供されたオリエンを通し理解したものをまとめていく中でビジョンについて考えたものになります。

まず、言葉の中にはありませんがRettyのモデルは今のところ外食中心であって内食ではありません。そんなRettyが食を通じて人をHappyにするとはどう言う事なのか?

もちろん、とてもお腹が空いていればご飯を食べられるだけで幸せ。という事もあるかもしれませんが、今の日本でお金を払って飲食店に行って幸せになる為には美味しいという事が必須要素となるかと思います。つまり、ただ単純に「食する」という行為ではRettyからHappyを提供したとは言えないわけです。その構図を式に落とすと下記の様な感じですね。

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そして、ユーザーさんに美味しさと出会ってHappyになっていただく為にはどこがその方にとっての美味しいかが分かる様になる事。ここで初めてRettyの存在価値が生まれてくるわけです。

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つまり、「美味しい」という心理的な触媒による中継で初めてビションの原型がサービスとして成り立つと読み取れる様になるわけです。

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つまり、ビジョンをより具体的に記載すると「外食の美味しいお店を伝える力で人を幸せにする」となります。けれど、そう表現していないということは、「外食」であることに将来的にこだわり続けるというわけでもないとも読み取れます。若い会社なので、これはあくまで私の入社時の解釈です。ただ、最初にこれを考えて臨むのと臨まないのとでは会社との関わりも変わってくるような気がしませんか?

さて、タグライン、ビションは理想も込めた外向けの情報ではあるので、もう少し現実的な側面も見た上でその理想をどう叶えるかというのが会社の戦略として必要になります。そこで次は社外との関係を考えていく事にしましょう。

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対外的なモデル把握

例えば、その時代の需要。会社を外から見た時の業界内の順位。それに対する打ち手。特性はなんなのか?Rettyの立ち位置は、グルメ業界でお店探しをサポートするサービスの中で、ユーザー参加型の特性を強く打ち出しているサービスということになります。

当然この分野には食べログさんと言う大きな会社さんがいらっしゃいます。にも関わらずRettyがそこに参入しているという事は、同社とRettyとの違い、もしくは共通項に対する社会的ニーズの大きさがRettyのバリューとしてある程度認められていると解釈できるわけですね。これは脳内にあれば十分だと思いますが、簡単なので図解してみましょう。

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※これはこのnoteの為に作成しているものでRetty公式の戦略とは関係ありません。

左はユーザー参加型の中で求められているバリューが同質で補完し合う役割として存在している場合。右は求められているバリューとの間に差異があるパターンです。双方はどちらが正解かを問うものではなく、ユーザーさんそれぞれにとって変わるものだと思いますが、選択と集中の重要度が高い自社サービスにおいては、会社の戦い方が変わる分岐点になるわけです。

これらに加えてアニュアルレポートを見ながら比較していくとその会社が立っている場所に迷いが生まれていないかなどが見えてきますが、インハウスであればそれを待たずとも内部の観察がリアルタイムに、かつより詳細に見えるので、次はその観点で考えて見ましょう。

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内的モデル把握

組織の形をとる以上、その部門、配属人数などは(どこまで恣意的かはさておき)意味があってその構造になっているはずです。他にも、開発優先度や予算がありますね。

これらの根拠となるものは普通に社内でも共有されるとは思いますが、社内構造も会社が目指すところに対して誤差・時差は出ますし、会社の規模が大きくなるにつれ、その差分も開くかもしれません。その為、目的に対するその差分や、前項と絡めて他社のアウトプットから読み取れる開発優先度からの判断など、本来どうあるべきかを見抜く目が必要となってきます。

この差分や方向性のズレ、課題などが大きく感じられる時に視点が変わる事でうまくいく事もあり、デザイナーによる組織デザインというカタチで言及される事もありますが、少なくともこのnoteではこの点をゴールとはしません。これはあくまで手段であってゴールは組織がユーザー・消費者の喜ぶものを作る事だからです。

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故に、内部構造に対してデザイナーが意識するべき事は向かうべきゴールを見失わずに、それに対して適切なビジネス戦略であるか、組織構造であるかを見極め、カタチにする事。その中で是正が必要となるならその為に努力する事です。

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ユーザー・消費者・ターゲット。
向かうべき相手と構造を繋げる

さて、自社サービス周りのデザイナーが一番好きなユーザー・消費者と向き合います。特に起業、サービス立ち上げにおいてはここから始まりここで終わると言っても過言ではないわけです。ただこのnoteでは「自社モデルの図解から〜」と記載している様に自社のモデルが既に存在する(見定めたユーザー・消費者がいる)前提のお話です。この段階でそれぞれがそれぞれに勝手にユーザー・消費者像を解釈し計画性なく機能を提供すれば結局サービスがブレ、利用時の迷いの原因となる。その為、自社のモデルを通してそれらをどう捉えているかという観点で予算・時間、組織の構造などを整理・確認していきます。もしそこでズレが見つかるならビジネス戦略が大きく間違えている可能性も考える必要があります。

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※この図はテキストを書き換えてしまいましたが、制作当初の部署の構造と活動がRetty保有のメディア(主に)に対しどの様に働きかけ、どの様にマネタイズとの関係を構築するかを表したものです。現実の組織構造とマネタイズ、ユーザー層の関係性を一つの図にまとめると会社のモデルが理解しやすくなります。

上の図はビジョンについての資料を作成したときに同時に作成したものをざっくりとこの資料用に書き換えたものです。内容が薄くなってわかりづらいかもしれませんが、Rettyのユーザーさんと使って頂いているメディアごとの性質、それに対して効果の高いチームの動きやマネタイズ構造などの関係を当時の私が考えたものです。

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こちらでは前の図を元に顧客満足度などを上げながらビジネスとして成り立たせるための構造と課題を整理しています。

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デザイン戦略に向けて

さて、これまで図で整理してきた内容をベースに、3点にまとめました。

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こうやって表現するとシンプルに見えますが、日本は〇〇の技術ならどこにも負けないのに市場では勝てないという現象が起きやすいという点で組織の力にバランスが偏る傾向にあると思います。

例えば人がそれを見た時に、
「ふーん。すごいんだね。で?」で終わるものなのか、
「すごい。使いたい!」になるものなのか。もしくは伝え方でそこが逆転するか。

デザイナーも時に組織を見ずに、コンセプトをも忘れてカタチだけに執着する事があります。けれどその時のデザイナーはただの組織の住人です。

そこに陥らずに人に繋ぐ事を常に意識しこれらのあるべきバランスに則りながら何が最善かを組み立てブレない様にわかりやすく定義する。それがデザイン戦略だと私は思います。ただ、この話を具体的に始めるとまた長くなってしまうので、今回はその戦略を打ち出す為に、まずは理解する事で先を読むという事をテーマとしました。

何故図解であるかは、そうする事で自身の理解と他者の理解をすり合わせやすくなる事と、それを得意とするのがデザイナーだからです。もちろん手書きで構いませんし、所謂図解ではなくグラレコの様なものでもいいかもしれません。脳内にあるものを完璧に共有出来るならアウトプットがなくてもいいのかもしれません。

けれど、よかったら是非試してみて下さい。脳内の思考を外に出すと思っている以上に足りない事がある事に気づく。それはビジネス理解もクリエイティブも一緒です。

そして、これらの方法で、ここまでを早いうちに読み取れると効果的な打ち手も考えやすく、依頼に振り回されない進行が可能となるためデザイナー個人にもとても役に立ちます。その対象は企画レベルかもしれませんし、次に来るものを見据えて設計する1つのUIかもしれない。

そしてここからしっかりとスタートしたデザイン戦略ならばきっとあなたの会社の未来をより良く作るのではないでしょうか。

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まとめと後書き

会社が生み出したビジネスモデル。そしてそれを実現する力、最初に記載したようなCSの思い。プランナーの計画、経営層の戦略。それらをしっかり理解する事でデザイナーの届ける(届くか判断できる)力を最大にする。その為にまず解釈を図にする方法のお話でした。

デザイン経営宣言には「高度デザイン人材」という記載があります。そこで私が思ったのは「高度デザイン人材」を育成しなければならないという事は今いる私たちは低度なのでしょうか?という事でした。そもそも仕事に貴賎はないのに?

けれど、そう言いたくなる気持ちはわかると言わざるを得ないほど、今のデザインには技術と思考の分断が見られます。所謂上流、下流という表現、もしくはアートディレクター・UXデザイナーに対するデザイナー・UIデザイナーという構造。

本来であればバナー1本、UI一つ。ビジネスの理解なしには作れないはずのものが、ツールの発達と、デジタルにおける容易な形態コピーによって、それらの作業・技術から思考を奪ってしまった。

けれど、戦略は「上流」のものでも「高度」で特別なものでもありません。もし、それでしかないならむしろ、それこそが経営・戦略の失敗です。みんなで考えその思考を編み上げて、ユーザー・消費者に最善を届ける。それが私たちの仕事です。

デザイナーの言葉が本当の意味で経営層に受け入れられる為に一緒に認識整えていける仲間が増えると嬉しいです。

これで私のnoteは4本目となります。ひとつイベントレポートの様なものを挟んでいますが今まで所謂UIデザインとしてわかりやすいもので仲間探しを。次にデザインによるサービス貢献の1つをそして今回姿勢の様なものを実践の中でお伝えできるものから取り上げてきました。その選択根拠は「上流」「下流」の解釈に組み込まれないことをかなり意識したものでした。

ただ、今後はその辺を気にせずに場合によってはターゲットに伝えるための線1本の話なんかも書いていければと思います。(実は順番を考えて出していないものがいくつかある)

よかったらまたそちらでもお付き合いいただけると嬉しいです。

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