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異世界キャンプ チートはなくても美味しいものがあれば充分です

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「モンスターしか食べるものがないんだけど!」  ピクシーのリリは叫ぶ! 川雲百合、リリが人だった頃の名前だ。 ある日の仕事終わり、急に目の前がフッと真っ暗になると、魔道士に目的…
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2022年2月の記事一覧

13話、ロック鳥(5)

 ラーナはジッと立ち止まったままだった。
 そのまま、すがるようにアンを見る。
 見つめられたアンが頭を掻きながらゆっくりと喋りだした。

「まぁなんだ、しょうがないだろ? とりあえずリリを連れ戻すことを考えなきゃ、だろ?」

 アンの助け舟にラーナは全力で乗っかる。
 慣れていないのか少し早口だ。

「アン、そうだね! この話はお終い! 二人共いつもみたいにもっと明るくして、リリならきっと大丈夫

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13話、ロック鳥(4)

(ロック鳥……何処かで聞いたことがあるような……)

 月明かりに反射して黄金の巨大な翼は美しく光り、猛禽類のように鋭く曲がった嘴は、ナイフのように尖っている。
 馬車ぐらいなら片脚で持ち上げられるであろう脚には、一本一本が人ほどの大きさの爪、前に見たサンドワームがエサのミミズに見える、そんな圧倒的で絶対的な存在感なのだ。

(あっそうだ、ママの日記に確か書いてあった! 弱点とか書いてあったっけな

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13話、ロック鳥(3)

 アンが静かに口を開く。

「……今回は何年ぶりだ?」
「5年かなっ? 正確な日付だと、帝国歴1018年2月17日さっ」
「よくもそこまで覚えてるな」
「前回の雨期をきっかけに、私はサンドワームの秘薬を作り出したからね、よく覚えてるのさっ」
「なるほどな、そうか5年か……」
「結構、空いたねぇ」
「これはいつも以上に何が起こるか想像がつかんな、嬢ちゃん達も暫くはこの街から出ないことだ」
「それは無

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13話、ロック鳥(2)

 カルラオアシスの正門から少し離れた岩場。
 間もなく日が落ちるであろう夕焼けの中で焚き火を囲む四人は、それぞれがサンドワームを齧り好き好きにエールやワインを呑み、談笑をしていた。
 すると急にラーナが脈略もなく突拍子もないことを言う。

「雨の匂いがする」

(この感じ久しぶりだなぁ、ここは雨が降らないからなぁ)

 サンドワームを齧りながら空を見上げるラーナは、そのままソフィアの方を真っ直ぐ見

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13話、ロック鳥(1)

 カルラ・オアシスに滞在して既に何日がたっただろう。
 馬車の中、ラーナの鞄で泥のように寝ていたリリは目を覚ます。

「っ! 寒っ! ラーナー寒いー、マントの中入ってもいいー?」

 あまりの寒さで、ラーナに呼びかけるリリだったが、全く返事が返ってこない。
 ふぁあーっとあくびをし身体を伸ばすと、体を撫でる風がとても冷たい。

「……っあれ! っえ! ラーナーどこにいるのー? そとー? イヴァもど

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12話、ストーンフラワー(1)

「ストーンフラワーってなに?」

(前世のわたしでも聞いたことのないモンスターだわ、名前の通りなら岩でできてる花とか?)

「ボクもよく知らないけど、ジャイアントスコーピオンより強いらしいよ? 戦ってみたいなぁ」

 クエストボードを眺め聞くリリの問いかけに、ラーナが明るく言う。

(怖っ! わたしは会いたくないんですけどー!)

 そこには新しく張り出された張り紙に大きく危険と書いてある。
 近

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11話、デザート対決(8)

「改めて、説明を求めてもよろしくて?」
「っあ! はい……」

(揉めてるのにいいのかな?)

「アーモンドについてはソフィアの秘薬を使っています」
「肝油とは秘薬のことだったのですね?」
「はい、ナッツの香りをより良くすると思ったから、使わせてもらったの」
「確かに、いい香りでしたわ」

 聞いていたソフィアが、自慢気に胸を張る。

(ソフィアを褒めたわけじゃないんだけど……)

「それで、ジャ

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11話、デザート対決(7)

「ラーナ持っていってもらっていい?」
「はーい!」
「ソフィアとアンは自分で取りに来てね!」
「運んでくれてもいいじゃないか」
「イヴァに運ばせるのは不安なのよ」
「なんじゃとー!」

 リリは一皿、ラーナが三皿持ってクラウディア達へと渡す。

(あれ? クリスタがクラウディアの後ろの定位置に戻ってる、ちゃっかりしてるなぁ)

 二人はお皿を置くと、自分たちの席に戻る。

「雲のパンケーキです、ど

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11話、デザート対決(6)

【雲のパンケーキ ~魔法とモンスターのファンタジー仕立て~】

「なんとか間に合ったぁ! っさ、残りも仕上げましょ」

 三人はせかせかと動き、お皿に次々とパンケーキが並ぶ。

 ゴゴーン! ゴーン! ゴゴーン! ゴーン!

「ついに二の鐘が鳴ったねっ! 食べようじゃないかっ!」

 鐘の音と共に、勢い良くキッチンに入ってきたソフィア、その後ろに続くアン。

(ッププ! 待ち構えてたわね、二人共け

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11話、デザート対決(5)

 リリがキッチンに戻ると、ちょうどイヴァがアイテムボックスから、数々のものを出している。

「遅くなってごめんね! ソフィアに捕まちゃった」
「おかえりリリ、こんな感じでいい?」

 器には、もったりとした生地。
 小麦粉のダマになった所もなく、空気を含み白っぽくなっている。

(最高、もう美味しそうー)

「じゃ卵白を三分の一とベルモットも入れちゃって」
「三分の一?」
「状態の悪い所から入れる

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11話、デザート対決(4)

 ギルドの中は相変わらずの喧騒。
 態勢を変えず、全体を眺めるように座っているアン。
 受付に置いてある灰皿には、山のように吸い殻が積み上がっていた。

「リリ嬢ちゃん、どうした? もう出来たか?」
「もう少しですよー、ソフィアに肝油を貰いに来ました」
「っお! そうか、ソフィーならあそこにいるよ」

 顎をくいっと動かし、ソフィアを指す。
 ソフィアは猫獣人とリザードマンに絡み、ご機嫌にエールを

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11話、デザート対決(3)

「ラーナありがとう、続きをやりましょう」
「はーい」

 リリが横目でイヴァを見ると、まだトントンと小麦粉を振るっていた。
 なのでラーナの説明を先にする。

「それじゃあ、次にいこっか!」
「うん!」
「レモン汁を入れて、お砂糖は3回に分けて入れながらフワフワになるまで混ぜますよ」
「っん! なんで3回に分けるの?」
「良い質問! 3回に分けることによって、泡がきめ細かくボリューミーになるの」

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11話、デザート対決(2)

 ラーナの手際の良さに安心したリリは、イヴァを見ることにする。

(イヴァは大丈夫かなー?)

 ドサッ! ザザー!

 イヴァは机の上に直置きしたザルに向かって、ドバーッと全てを出していた。
 逆さにした布袋から、小麦粉が勢いよく落ちると、粉が舞い上がる。

「っうわ! 煙たいのじゃ! ゴホッゴホッ」

 左手で手の前を仰ぐイヴァとリリ。
 リリは天を仰ぎたい気持ちになった。

(マジかコイツ、

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11話、デザート対決(1)

 リリ達が買い物を終え、ギルドに戻ってくると、既にギルド内では小麦粉の焼ける、香ばしい匂いがしていた。

「んー良い匂い! これは焼き菓子かなー」

(クラウディアだっけ? 彼女はなにを作るんだろう? 勝敗よりも異世界のお菓子に興味があるわ)

「パンの匂いがするー、でも少し酸っぱい匂いもするよ?」
「ラーナは相変わらず鼻が良いわね」
「エへへッ、ま
ぁーね」
「ラーナはパン好き?」
「好きだよ!

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