11話、デザート対決(3)
「ラーナありがとう、続きをやりましょう」
「はーい」
リリが横目でイヴァを見ると、まだトントンと小麦粉を振るっていた。
なのでラーナの説明を先にする。
「それじゃあ、次にいこっか!」
「うん!」
「レモン汁を入れて、お砂糖は3回に分けて入れながらフワフワになるまで混ぜますよ」
「っん! なんで3回に分けるの?」
「良い質問! 3回に分けることによって、泡がきめ細かくボリューミーになるの」
リリは人差し指を立て、ポーズを取る。
「ふーん、よりフワフワになるってこと?」
「雲が食べたいって言ってたから、少しでもねっ」
「ありがとうリリ! じゃあボクはフワフワになるように、頑張って混ぜるね」
「お願いします!」
ラーナは卵白を混ぜだした。
シャカシャカと小気味のいいリズムを奏でている。
(起泡性とか空気変性とかなんて面白くないし、説明しなくてもいいわよねー!)
イヴァと違い勘の良いラーナは、砂糖の入れ方も混ぜ方も全く問題なさそうだ。
なのでリリは必死に牛乳を持ち上げ卵黄に加えた。
そして冷やすためにラーナの混ぜる卵白に、風魔法を当てだした。
「んー……やらないよりはマシってぐらいかぁー」
リリはいつかは氷魔法を覚えてやろうと決意した。
横で勢いよく混ぜていたラーナが、器を見せてリリに聞く。
「こんな感じ?」
しっかりと混ぜた卵白は、砂糖も全部入り固くなっていた。
「相変わらず早い! うん、いい感じ」
「ありがとっ!」
「器を、ゆっくりとひっくり返してみてー!」
「えー溢れちゃわない?」
「ラーナが上手に混ぜてくれたから大丈夫! わたしをお信じて」
「や、やってみるよ?」
ラーナは恐る恐る器をひっくり返す。
しっかりと固まったメレンゲは落ちる気配がない。
元に戻すとラーナは大きくリアクションをした。
「すごーい!!」
「でしょでしょ!!」
「液体が固まるなんて、ボク知らなかったよー」
「メレンゲって言うのよ!」
「ピクシーの秘技ってやつ?」
「まぁ……そんなものね!」
テンション高く喜ぶラーナに、リリは堂々と胸を張り明るく答えた。
「次は卵黄と牛乳を混ぜるわよ!」
「これも固まるの?」
キラキラとした笑顔でラーナが聞く。
「ごめんね、流石にこっちは無理だわ」
「ざんねーん」
(ごめんねラーナ、これただの現代知識なのよ)
リリはラーナが器の中を混ぜている間に、イヴァを見に行く。
本来は卵黄から混ぜたほうが効率的だが、氷が無いこと、それとイヴァの邪魔をしてはいけないと思い順番を変えていたのだ。
(イヴァはどうかな?)
「イヴァー、終わったー?」
肩口にそっと近づいたリリは、イヴァに優しく語りかける。
「もう少しじゃな」
先程までザルの上にこんもりと乗っていた小麦粉は、残り四分の一ほどになっていた。
「ここまで来たら、こんな感じでトントンを少し早くやって、左手を振るようにして大丈夫よ、丁寧にやりましょうねー」
リリは身振りをつけて説明をする。
思わず口調も丁寧になっていた。
「っおそうか? ならそうしよう」
(正直に言うと、手際は悪いしスピードも遅いけど、イヴァは頑張ってるみたいだし、最後までやってもらったほうが達成感はあるわよね?)
イヴァはリリに言われた通りに手を動かすと、先程より3倍ぐらいの速さで粉が落ちていく。
下にたまった粉はとてもサラサラで、飛び込みたくなるほどに気持ちよさそうだ。
「っお! 早いな、リリ見てみろ早いぞよ!」
「そうですね、上手ですよー、よかったですね~」
「妾は天才じゃな!」
「そうねー、てんさいねー」
(なんだか子供に教えてる気分になってきたわ、保母さんはいつもこんな感じなのかなぁ?)
「リリ、終わったよー」
イヴァを優しい目で見て応援しているリリに、ラーナが卵黄を泡立てた器を持って見せにくる。
「完璧ね! 初めてでこの出来はすごいわ! じゃあ小麦粉を入れて更に混ぜるわよ」
「全部?」
「そう、全部。ラーナが混ぜた卵黄にイヴァの粉を混ぜるの」
「りょうかーい、イヴァ終わった? ボクもう終わってるんだけど」
卵黄の入った器を持ち、待つラーナ。
その立ち姿は、ハロウィンにお菓子を待つ少女のようで、とても可愛らしい。
「もうちょいじゃ、そこで待っとれ」
「ボクが変わろうか?」
「いい! 今良い所なんじゃ」
(ウフフッ微笑ましいわね、眼福だわ!)
リリは急にあることに気づいた。
「っあ! 忘れてたー」
「どうしたんじゃ?」
「イヴァ終わったらでいいから、さっき買っといたアーモンドと、ジャイアントスコーピオンの蜜と、ベルモットリキュールを出しといて下さい」
「わかったのじゃ」
「ラーナは小麦粉も混ぜといてー」
「わかったよ、リリはどっか行くの?」
「ちょっと、ソフィアにサンドワームの肝油を貰いに行ってきます」
「「いってらっしゃーい!」」
そのまま外に飛び出すリリ。
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