11話、デザート対決(1)

 リリ達が買い物を終え、ギルドに戻ってくると、既にギルド内では小麦粉の焼ける、香ばしい匂いがしていた。

「んー良い匂い! これは焼き菓子かなー」

(クラウディアだっけ? 彼女はなにを作るんだろう? 勝敗よりも異世界のお菓子に興味があるわ)

「パンの匂いがするー、でも少し酸っぱい匂いもするよ?」
「ラーナは相変わらず鼻が良いわね」
「エへへッ、ま
ぁーね」
「ラーナはパン好き?」
「好きだよ! ボク的には、黒パンが好きかなー?」

 ラーナの言葉にイヴァが反論をする。

「絶対に白パンのほうが、いいに決まっておるじゃろ!!」
「えー、噛み応えある方がいいじゃん!」
「黒パンって、さっき街で食べたパンよね? 石と区別つかないぐらい硬かったんだけど……」

(昔の乾パンってこんな感じだったのかなー?)

「そうじゃ、そうじゃ!」
「二人の顎が弱いんだよー」

 ラーナの言い分は置いておいて、ピクシーの顎で噛めるようなものでは無かった。
 街で黒パンを買った時に活躍したのはイヴァなのだが、それはまた別のお話。

「戻ってきたか! リューネブルクのお嬢様はもう直ぐ完成するみたいだぞ?」
「そうなのですねー」
「あんたらは大丈夫なのかい?」

 アンは受付に足を乗せ、エールを飲みながら出迎えてくれた。
 相変わらずその姿は受付嬢というより、山賊と言ったほうが似合うような出で立ちだ。

(アンがいると、絡んでくる人がいないから助かるー、虫除けスプレーより優秀だわ!)

 そんな下らないことを考えながら答えるリリ。

「大丈夫ですよー、わたしの考えたものはすぐ出来ますから」
「そうか、ならいいが」
「因みに姫騎士さんは何を作っているんですー?」

 勝敗を気にしないと言いながらも、チラリと探りを入れるリリ。
 対してアンはぶっきらぼうに答えた、

「そんなこと、あたしに分かるわけないだろー?」
「ですよねー、オッケーです」

 テンション三割り増しで答えるリリは、受付の横からキッチンに入る。

「じゃあキッチン借りますねー」
「あいよー」

(さてと。それじゃあ、作りましょうか)

「作ろー、リリ早くー、はーやーくー」
「はいはい」

 匂いでやられたのか、ラーナは既に腹ペコモードだ。

(調理器具、それなりに揃ってるじゃん、わざわざ買ってくるんじゃなかったー)

 リリは無駄な散財に少し落ち込むが、気持ちを切り替えて話し始めた。

「それじゃあイヴァ、小麦粉、砂糖、牛乳、卵を出して」
「わかったのじゃ」

 そういうと、調理台の上に平らで真っ黒な不定形の液体らしきものが急に現れる。
 ドサッと布袋が2つ出てきた。
 さらには牛乳の入った瓶と卵が、ポロポロと次々と零れ落ちる。

(収納魔法って便利〜、前世で欲しかったぁ……って)

「イヴァ! バカなの? 卵が割れちゃう! ストップ、ストーップ!!」

 落ちそうになる卵を一つだけ支えリリが叫ぶが、イヴァは止める気配がない。

(なんで? 止めよ? ねぇ、止めてよ?)

 オロオロとしていると、ラーナが素早く調理台から転がり落ちた卵を丁寧にキャッチした。

「っ、フゥー、割れては……ないかな?」

 両手の卵を見て、ラーナは改めてホッと胸を撫で下ろす。
 横で見ていたリリもホッと胸を撫でおろした。
 イヴァはこの段階でも悪びれる様子はない。

「ラーナすご~い、助かったわ! イヴァは何で止めないのよー?」
「言われた通りにしたじゃろ?」

(っあ! こいつ分かっていないな?)

「……まぁいっか」

(イヴァだからなー、言っても分かんないだろうし、諦めよーっと)

 リリはため息をつくと、改めて料理に意識を向けた。

「ラーナは卵を割って白身と黄身に分けてもらえる?」
「りょうかーい」

 ラーナは明るく答えた。

「イヴァは小麦粉をふるいにかけて」
「わかったのじゃ、任せておけ!」

 イヴァも自信満々に明るく答えた。
 そこにラーナが疑問をぶつける。

「これってさ、どうやって分けるの?」

 ラーナは手に持ってるたくさんの卵を、そっと机に並べリリに質問した。

(っあ、そっか! ラーナは手際が良すぎるから失念してた、原始人生活してたから卵の分け方なんて知らないのね)

「え~っと、卵を割るときに殻にヒビを入れるよね?」
「うん」

 リリの返答に、頭を大きく縦に振るラーナ。

(素直に聞いてくれてカワイイ!)

「殻を割って落とす時に、片方の殻に黄身を残すの」
「こう?」

 ラーナはコンコンと器の角でヒビを入れ、卵の殻にひびを入れる。
 両手で殻を割りながら、左手の殻を上に向けると、黄身は殻の中で反時計回りに回りながらズルリと白身が落ちた。

「なんか、気持ちいいね!」

(その気持ち、激しく同意だわ!)

「でしょ? そのまま黄身を割らないように右手の殻に移してまた左に戻して」
「こう?」
「そうそう、それを少し繰り返すと白身が落ちきるから、もう一つの器に黄身だけ入れればオッケーよ!」

 卵を移動させるパントマイムをしながら、リリは答えた。
 そして最後にグッドポーズをラーナに向けてした。

「こ、こんな感じ?」
「うんうん、上手上手! もう一つコツを教えるとね、卵にヒビを入れるのは器の角よりも平らなところでやったほうが、割ったときに殻が混ざりにくくなるわよ」
「へぇー、わかった!」

 ラーナはリリの言う通りに、調理台でコンコンと叩き、手際よく卵を割り出した。
 

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