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異世界キャンプ チートはなくても美味しいものがあれば充分です

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「モンスターしか食べるものがないんだけど!」  ピクシーのリリは叫ぶ! 川雲百合、リリが人だった頃の名前だ。 ある日の仕事終わり、急に目の前がフッと真っ暗になると、魔道士に目的…
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2021年12月の記事一覧

5話、二人の旅立ち(3)

「リリ?」
「っあ、えっと……大丈夫よ! それより、わたしラーナさんを手伝うことにしたわ」
「急にどうしたの?」
「どうせわたしは急いで行くところも無いんだし、わたしも日記にある美味しい物やキレイな景色を巡ってみたいもの!」
「本気で言ってるの? 結構、危険だよ?」
「だいじょーぶよ!」

 理由もなく自信満々に明るく答えるリリに、ラーナは怪訝そうに聞く。

「本当に? ボクもさっきまで死にかけて

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5話、二人の旅立ち(2)

「小さいときはそんなに強くなかったんでしょ?」
「そりゃそうだよ、最初は特に大変だった」
「食べ物とか大丈夫だったの?」
「残飯を漁ったり、畑から盗んだりしてた」
「っえ?」

(そりゃそうよね……わたしには、ダメだなんて言えないわ)

 思わず反応はしたが、掛ける言葉など見つかるはずもない。
 リリは、ただただラーナの話しを聞くしかなかった。

「でもママの日記に『レンジャーだった、ゴブリンのこ

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5話、二人の旅立ち(1)

「っ……これ……って」

 若干、潤んだ瞳で鼻をすすり聞くリリに対して、ラーナはとても優しく、微笑ましく、朗らかに答えた。

「そう、日記、パパとママからボクへの手紙」
「もう戻れなかったって……」

(ラーナさんは両親を……てっきり故郷にいるものかと)

「うん、100年戦争の時にね」
「戦争の時ってことは、結構、前、よね?」
「16年前かな?」
「っえ! ラーナは何歳だったの?」
「4歳かな?

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SS、ママの手紙

“私達の可愛いラーニャへ”

 この日記を、あなたが見ているということは……
 ついに、私もお父さんもラーニャのもとへは戻れなかったのね。
 本当にごめんね。
 成人するまでだけでも、一緒に居たかったわ。

 毎日、ご飯は食べてる?
 ラーニャは何歳になったの?
 きっとママの想像しているよりも、ずーっと大きくなっているわよね。
 わんぱくは良いけどほどほどにするのよ?
 まだ小さなあなたを、今の

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4話、ラーナのカミングアウト(4)

「いいの、いいの、種族違うと分かんないよねー」
「……うん、わかんない」
「単純に広くて豊かだから、うらやましかったのかもしれないしね」
「ルベルンダは土地が、枯れてるの?」
「流石にこんな何もない砂漠ほどではないけどねっ!」

 鍋の中にある革鎧を口に放り込むラーナの態度は、先程までの物憂げな感じとはほど遠い、リリを見ながらいたずらっ子の様にニヤリッと笑った。

(ラーナは強い子ね、なぜここで笑

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4話、ラーナのカミングアウト(3)

「今は英雄が種族を招き入れて作った国が、幾つもあるんだよ」
「鬼族にもあるの? モグモグ」
「うん、ある」

 ラーナは腰からナイフを取り出すと、簡単な大陸の地図を地面に書き上げた。
 そしてナイフで所々を指しながら説明をする。

「ここが《ルベルンダ氏族同盟》海を挟んだ大きな島にある、鬼族の国」
「鬼族の国! その響きが既に恐そうだわ、モグモグ」
「ハハハ、他種族からしたら、そうかもね」
「ラー

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4話、ラーナのカミングアウト(2)

「じゃあ、この大陸の歴史から話そうか」
「歴史? そんなもの関係あるの? モグモグ」
「まぁそのほうが、ボクの立ち位置がわかりやすいから……」
「オッケー、なら聞かせてもらうわ!」

(異世界の歴史、わたし興味津々だわ!)

 ラーナの口調から察するに、今からの話は恐らく良くない話なのであろう。
 リリは不安半分、高揚半分で耳を傾けることにした。

「そうだなー、どこから……やっぱり最初からかなー

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4話、ラーナのカミングアウト(1)

「革鎧……思っていたよりも、食べごたえあるわね」

 口を動かしながらも、リリが皮肉を多分に込めて言う。
 1時間近く噛み続けているのに、居座る革鎧は無くなる気配すらない。

(顎がもう鉛みたいに重い……今更ながら、こんなものを食べるなんて……正気の沙汰じゃない!)

 苦痛過ぎて、心の中で文句を言うリリ、対してラーナの表情は明るい。

「そう? ボクは結構、気に入ったよ? いつも食べてたファイヤ

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6話、デザートフィッシュ(3)

「ラーナがマントを脱いだの始めてみたわ、思ってたよりスラっとしてるわね」

(すこしダボっとしてるのは民族衣装かしら? ちょっと中華っぽいわ)

 独り言を言うリリの遥か前で、両手をガッツリと握り込んだラーナは空に向けて吠える

「ヴォオオォォォォー!!」

 地面の砂が震えるほどの大声!

(ッッ!! これは人が出せる声なの?)

 そう思うリリ、まさに野獣!
 まるで虎と恐竜を足した様な咆哮、

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三話、革鎧(6)“料理パート”

 心の中でコックの姿をしたリリが、腰にサロンを巻きコック帽を被る。

①革鎧を塩茹でし、下味? をつける。

(まずは革鎧を食べられるようにしなきゃね)

 酸化した油や古くなった塩を取り除き、獣人の使っていたものなのであれば、獣臭がするであろう、料理の邪魔になるそれは取り除きたい。
 もちろん革鎧を柔らかくし、味をつける事で食べやすく、美味しくするのが最大の目的だ。

「じゃあラーナさん、塩を鍋

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三話、革鎧(5)

「いやいや、そんなことは……よしっ、食べよ! すぐ食べよ! いま食べよ!」
「っえ、いま? 本当に?」
「いまっていうのは言葉の綾よ、料理はするわ」
「いやっ、そういうことじゃなくて……」
「大丈夫、これは食べられるってラーナさんが言ったんじゃない!」

 自信満々なリリに、ラーナは訝しげに聞く。

「リリ、自分が食べないと思って、適当言ってない?」
「言ってないってぇー、所詮は牛の皮でしょ?」

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SS、ラーナの過去《ボクがボクと呼んだ日》

 ラーナが4歳、ある日の昼

「いっくぞー、ゴー!!」

 ラーナの掛け声と共に、跨った獣が猛スピードで火山を駆け上がる。

「パパー、先に行くねー!」

 声をかけられたのは、ラーナの父[ボリス]
 彼は生まれながらの戦闘民族と呼ばれるハイオークで、恵まれた身体を持っている。
 引き締まった筋肉、大きく太い角、骨格から人の2倍はあるだろう。

「今日の『ヴァング当番』はラーナだったのか」

[ヴ

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三話、革鎧(4)

「ラーナさん、因みにこの世界で革鎧を食べる文化って……?」

 ラーナはフードの中で思いっきり首を横に振る。

「ですよねー!」
「食べられそうな匂いはするんだけどねぇ」

(ですよねー! ないですよねー!)

「って、っえ? ……はぁ!!」
「どうしたの?」

 革鎧に鼻を近づけているラーナにリリは焦って聞き返す。

「た、たっ食べられそう、な……匂い?」
「うん! ボク、分かるんだよね」
「わ

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三話、革鎧(2)

 その時!! 耳をつんざくような奇声と、ガンッと大きな金属音が響く。

 キエェエエエェー!

 目の前から響く聞くに堪えない声。
 対してリリは声どころか息も止まる、本当に恐怖を覚えたときは、声など上がらないらしい。

(んんーーー!!)

 目をつぶっているので、何が起こったのかは分からない。
 しかし音から察するに、何かが起こったのは確かだ、直ぐにでも確認をしたいが、恐怖で瞼が上がってくれな

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