「メンタル面でCEOを支えたい」経営者×うつ病の経験からスタートアップ支援事業を開始
2021年12月1日、「挑戦する人にしなやかなメンタルを提供する」ことを目的とした団体、Re(アールイー)を設立しました。今回、その最初の事業として、CXO、特にCEOに向けたメンタルサポートや実践型の研修などを行う「スタートアップ支援事業」を開始しました。
一人でも多くの起業家に、Reとの関わりからメンタルヘルスへの理解を深めてもらい、会社や自身を支える武器として経営にも役立ててもらえるよう、事業を進めてまいります。
■日々戦うスタートアップの代表をメンタルヘルス面で支えたい
「起業家の約50%が、生涯に一度はメンタルヘルスの問題を抱える」
これは、カリフォルニア大学バークレー校の研究チームが報告した内容です。特に起業家の生涯罹患率が高いのはうつ病とされ、約3割の人が罹患するとの結果が報告されています(※1)。こうした背景には、起業家、特に代表ならではの労働環境が関係していると推測しています。
・将来が見えない中、分刻みで迫られる経営判断
・「顧客」「社員」「株主」の期待に応えようと生じる精神的負荷
・毎月減り続ける資金を尻目に、進めなくてはならない事業開発
・経営という孤独な環境下にて、本音を相談できる相手が周囲にいない
など、理由をあげればキリがないでしょう。
日々、目に見えない重圧と戦う中で、知らず知らずのうちにメンタルダウンを起こし、戦線を離脱した起業家は少なくありません。それはスタートアップも例外ではなく、人知れず、メンタルヘルスの悩みを抱えながら、経営と向き合う代表は一定数存在しています。
かく言う私も、うつ病を発症し、2020年2月に株式会社RESVOの代表を退任しました。精神疾患の解決に挑むベンチャーとして、2015年に同社を創業してから5年目のことです。学生時代から現在まで約13年間、精神疾患の方への支援に携わってきましたが、初めて当事者を経験しました。その後、回復に向けて精神疾患を取り巻く支援制度や福祉について複数の専門家と対話する一方、当時の症状や記録などを綴ったnoteを自身がうつ病当事者であることも含め公開したことで、経営者や投資家からトラブルやそれに付随したメンタルヘルスに関する相談を受けるようになりました。
これらの経験から、スタートアップ経営者を取り巻くメンタルヘルスの現状とそのサポート環境の少なさを強く感じました。経営陣や社員、投資家、家族、友人など、「周囲の人を不安にさせたくない」と他の人には相談しにくいテーマだからです。代表の場合には、自身の健康が事業に直結するケースも少なくないため、隠そうとする反応はより強い傾向にあると感じます。一方、投資家側からは、「起業家がメンタルに不安を抱えているのは薄々感じているが、どのように接することが、サポートになるのか分からない」という話も寄せられました。
特にご相談が多かった「有事における周囲のサポート」や「代表自身のセルフチェック」については、noteにもまとめていますので、ぜひご活用ください。
・スタートアップでメンバーがうつ病に。その時周りができるサポートとは?
・CEOである貴方が心に不調を感じたらすぐに実践してほしい「頼り方の心構え」
経営者が常に前を向いて組織や事業と向き合うには、代表自身がメンタルヘルスに対する理解を深め、自身の心理面のケアを怠らない必要があります。つまり、不調を感じてから初めてメンタルヘルスと向き合うのではなく、事前に基礎知識を知った上で、それらを日々活用することが重要です。
これらを実践することで、予防はもちろん自身の能力・効率向上にも繋がると考えています。
しかし、常に事業や顧客、社員、投資家など会社の成長と向き合い続ける代表には、自身の心理面と向き合う精神的余裕がないのも事実です。
「事業としてだけでなく、当事者としても精神疾患に向き合ったことで、今の自分なら代表の心理面をサポートしつつ、メンタルヘルスという側面からスタートアップ業界を支えられるのではないか。さらに言うのなら、メンタルヘルスの問題を気にせずに代表が働ける環境をつくることは、各社の成長はもちろん、スタートアップ業界全体の発展に貢献できるのではないか」ーーそう考え、今回Reを立ち上げることにしました。
団体名であるReとそのロゴデザインには、「再び」を意味する接頭辞を用いることで、何度でも青空に向かって飛び立てるという気持ちを込めました。
(Reのロゴデザイン)
■挑戦するCXOを支えるための2つのサービス
Reでは2つのサービスを軸として、挑戦する人のメンタルヘルスを応援します。
■CXO向け1on1支援(経営者向けメンタル並走支援)
■知識×実践型メンタルヘルス研修
・CXO向け1on1支援
本サービスでは、パーソナリティ、組織文化、会社や個人における現在の状況を詳細にヒアリングし、個々の状況に合った、オーダーメイドの支援を専任の担当者が1on1にて並走しながら提供します。
日々のメンタル面のサポートを主に、必要に応じて付随するトラブルの相談や代理対応などもお受けします。
※案件の内容によっては、事前にご了承を頂いた上で、法務、医療の専門家でチームを組成することもあります。
(図1:CXO向け1on1支援の流れ)
・知識×実践型のメンタルヘルス研修
本サービスは、医療機関でのプログラムを土台としたCXO向けの実践型メンタルヘルス研修です。
メンタルヘルスの体系化された知識の共有と議論をベースに、CXO向け研修ならではの経営トラブル事例をワークショップ形式で取り扱います。
経営に携わる人であれば、自身のメンタルマネジメントやタフな交渉など、知識、経験は豊富だと自負されていることと思います。何を今更、と思われるかもしれません。私も実際に発症するまではそう考えていました。特に精神疾患の分野で創業したため、より強くそう考えていたかもしれません。
しかし、医療におけるリハビリプログラムの一環で改めてメンタルヘルスについて学んだ結果、アサーション(※2)や認知行動療法(※3)などの体系的な理解や整理された知識に、自身の経験や行動を掛け合わせることで、日々のストレスが低減され、それによる業務効率の向上やコミュニケーションの円滑化による組織力向上などに役立つことがわかりました。
私の場合は、発症後の習得となりましたが、これらのスキルをより早い段階で習得すれば、自身の予防はもちろん、企業、個人の能力向上に活用できると考えています。
企業単位での研修から、起業家へのメンタル面のサポートも大切にしたいVC、CVCの出資先スタートアップへの団体研修まで、ニーズに合わせた提供が可能です。
(図2:知識×実践型のメンタルヘルス研修のイメージ)
■闘病を通して見えてきた「攻めのメンタルヘルス」という新しい領域
今回ご紹介した事業は、メンタルヘルスそのもののイメージも相まって、予防、回復の印象が強いかもしれませんが、我々Reは予防、回復はもちろんのこと、それらに加えて「向上」も大きな軸の一つと捉えています。
私自身、発症後に医療プログラムで学んだメンタルヘルスの知識を活用することにより、うつ病によって大幅に低下したパフォーマンスを、発症前に近いレベルまで戻すことができました。今回は、回復を目的にプログラムを受講しましたが、これらの知識を発症前に習得できれば、自身のメンタルを守りつつ、より良い自分や組織にするための、いわば攻めの手法としてメンタルヘルスが役立つ可能性を実感したのです。
こうした学びから、Reの事業を通し、攻めのメンタルヘルスとその活用術を社会へ提供することにしました。
■最後に
一般的に、健康を考えて日々の食事やスポーツに気をつかい、体調が悪くなったら病院へに行くということに異を唱える方は殆どいないと思います。
しかし、メンタル不調の話になった途端、この前提が崩れてしまいます。少しずつではありますが、メンタル不調への対応が社会として変わりつつある一方で、経営者においては、ストイックな孤軍奮闘が正義であるというマインドが、未だ根強いように感じます。
これまで個人として進めてきた支援活動を、Reとして取り組むことによって、福祉や医療の専門家を巻き込みながらチームで進められるようになりました。メンタル不調と戦いながら経営と向き合う起業家がひとりでも少なくなるよう、これからも支援を進めていきます。
【団体概要】
Re(アールイー)
「挑戦する人のメンタルヘルスを支えたい」をモットーに、CXOクラスを中心としたメンタルヘルス支援を行う事業体です。精神疾患の解決に挑むベンチャー、株式会社RESVOの元代表である小林を中心に、福祉や医療の専門家を交えたチームで活動しています。
(WEB https://remental.com/)
【参考文献】
※1:“Are Entrepreneurs ‘Touched with Fire’?“, Michael A. Freeman, M.D.University of California San Francisco(2015)
※2:アサーションとは
他者に言いたいことが伝えられない、身に覚えのないことで理不尽な物言いをされるといった、攻撃や非難を受けるような場面において、自分の考えや気持ちを大切にしつつ、そのうえで相手の考えや気持ちも尊重する自己表現やコミュニケーションを言います。
※3:認知行動療法とは
人間の気分や行動が認知のあり方(ものの考え方や受け取り方)の影響を受 けることから認知の偏りを修正し、問題解決を手助けすることによって精神疾患を治療することを目的とした構 造化された精神療法です。
(参考:厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業
「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」 うつ病の認知療法・認知行動療法治療者用マニュアル)