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創業1852年のコンフィズリーLOUIS FOUQUETの輝かしい再出発@パリ8区アヴェニュー・モンテーニュ フランスの週刊フードニュース 2023.10.18

やっと秋らしく冷え込んだパリ。今月末にはサロン・ド・ショコラ・パリも控えていてチョコレートの恋しい季節になってまいりました。

そんなとき一枚のインビテーションが舞い込んできました。老舗のコンフィズリー(砂糖菓子店、昔はチョコレートもコンフィズリーの一部でした)FOUQUETから。新しいお店をオープンしたというお知らせと、そのお披露目の案内でした。しかし店名が今までのFOUQUETではなく、1852年に店を立ち上げた人物LOUIS FOUQUETの名前になっている。新しい変化があったのではと感じて、訪問を心待ちにしていました。実際のオープンは10月16日、お披露目はその翌日でした。


数年前にある雑誌でFOUQUETを2年間にわたり取材をしました。この店の職人芸に惚れ込んで、毎月レシピを紹介するという企画をFOUQUETの皆さんと編集の方々に承諾いただいて実現できました。というのもこの時代において、すべてが手作りというレアな仕事に感激して。嘘偽りのない味わいに、心を打たれていました。

例えばさくらんぼの季節。モンモランシーという有名なさくらんぼの産地がイル・ド・フランス圏内にあるのですが、毎年6月ころ、契約生産者からさくらんぼが一気に直接届く。そのさくらんぼが9区の工房にいっぱいに積まれるのは圧巻で、素晴らしい香りが立ちこめます。しかしながら、それを一つ一つ種を取り除いていかなければならない。当時は職人が3人しかおらず、しかも取り除くのはこの店では手作業です。届いた2トンものさくらんぼの種を3人のみで取り除く作業するのは途方もないこと。そこで管理部門から売り子さんたちも含めて皆でその作業に取り掛かる。とはいっても10人にも満たない小さな企業。それでも、1週間でその作業は完成。それから、砂糖漬けにする作業に入ります。私はこの店のコンフィズリーはどれも大好きですが、とくに、このさくらんぼを使ったコンフィ(砂糖をまぶした仕上げ)とシロップ漬けが気に入っており、他店にはない、機械任せにしない手作りならではの誠実さが滲み出るような上品な味わいです。

シェフはアレクサンドル・カイエ。2003年からこの店に勤めています。当時は18歳で、このかた店のレシピをしっかりと受け継いできたという、気骨のある職人です。手作りのコンフィズリーの良さというものに、心底情熱を感じているのでしょう。若い頃は名の知られた有名店での修行などに魅力を感じ、名声に心を揺るがされてしまうものですが、初めから物事の真実を見極めることのできる、めったにない職人ではないかと感じています。

そしてFOUQUETの代表はカトリーヌ・シャンボーさんで5代目。老舗の精神を彼女もぶれることなく引き継いできました。ただ、なんとかFOUQUETをパリのコンフィズリーとして表舞台に出したいという意欲があったことは常々感じていました。何度か新しいブランドコンセプトを発表し、店のリニューアルを明示するということにもトライされてきましたが、正直なところを言えば、自前のデザインで終わっており、洗練されることなく、古き良き姿が活かされていなかったので、もったいないなと感じていました。そんな紆余曲折があったので、今回の新ブティックも少し心配でした。しかもアヴェニュー・モンテーニュという場所。アヴェニュー・モンテーニュ沿いにディオールがあるのですが、その角地の路地であるフランソワ・プルミエ通りにも以前2店舗目を構えており、そちらを閉めてしまったのは残念だったため、この新しいオープンは、その場所とともに期待が高まりました。(実は1928年にオープンしたこの2件目店は閉めて、近年、アヴェニューを挟んだ側に引っ越ししていますが、旧店のほうは調度が素晴らしかった)。

そして当日。シャンゼリゼ劇場は目の前、プラザアテネははす向かいに見えるという立地。立ち並ぶ高級店に劣らぬ、プレステージ感を感じる店としてオープンを果たしていました。聞けば、ある投資家が入ったということ。その場では名前は明らかにしませんでしたが、後で「ラデュレ」にも参入し、あるいはデュカス のレストランが入っているヴェルサイユのホテルのグループも展開しているグループだということがわかりました。ブランドディレクターも入ったのでしょう。全体のイメージが上品にデザインされたことで、職人芸によって作られた中身とのバランスがよく、引き立ったと感じました。

工房も広げて職人も増えたとアレクサンドルさんはいいますが、作り方は一切変えていないということ。来月アトリエと事務所にも足を運ぶことに。新たなステージのお祝いをさせていただくことになりました。

カトリーヌ・ドヌーヴ、ムッシュー・ディオール、イヴ・サン・ローラン、それに、画家のモネまでもFOUQUETの顧客だったそうですが、藤田嗣治にも愛されたそうです。彼のサイン入りのレターが店の壁に設えられた額に収まっていました。1928年1月12日の日付が入っており、素晴らしく美味しいフルーツ・コンフィだったとのお礼状でした。ほぼ

100年前から変わらぬ味わいのフルーツ・コンフィもこの店のスペシャリテの一つです。

秋になると、これもまた手をかけて作ったマロングラッセが店頭に並びます。アヴェニュー・モンテーニュに宿泊した常連客が、冬になるとマロングラッセを買い求めにやってくるという逸話も、またこの時代によみがえるのではないかと期待しています。

https://louisfouquet.fr/


今週のトピックスは、今週のひとことの後に掲載しています。食の現場から政治まで、フランスの食に関わる人々の動向から、近未来を眺めることができると、常に感じています。食を通した次の時代を考える方々へ、フランスの食事情に触れることのできるトピックスを選んで掲載しています。どうぞご参考にされてください。【A】デュカス 「Manufacture de Chocolat Alain Ducasse」の2軒目。【B】ジャン・ポール・エヴァン出資カメルーンに「Le Centre d’excellence Hevin-Nkolossang」オープン。【C】ラグビーワールドカップ中のホテル価格上昇率。【D】カクテルバーで始めたExperimental Group、ホテルの海外展開伸長。

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