見出し画像

フランスから、食関連ニュース 2021.03.10

今週のひとこと

海由来の素材を使った若手の作家によるガラス製品。マイクロアルジェと粉砕した牡蠣、アワビを素材とした海色の皿やコップは、神秘的なオーラを放っています。話題になっていたので、先日の今週のトピックスで紹介しましたが、ブルターニュ・カンカルの海辺にあるオイスターバーで牡蠣を食べた後に、海岸沿いを散策した時のことを思い出しました。なんと崖側の海浜はほぼ牡蠣殻で覆い尽くされていたのです。我々日本人の縄文時代にできた貝塚も、このように出来上がったのかと想像されるほど。牡蠣殻には微生物が住みやすく、水中の汚れを食べてくれることが、明らかになっているため、これは水質の浄化も兼ねているのかと感心し、翌日に「Maison de Bricourt」のオリヴィエ・ロランジェさんに尋ねてみたところ、ただただゴミの行き場に困って、捨てているだけだということ。はじめはおそらく海の浄化に気づいた誰かが始めた行為かもしれませんが、ある限界を超えてしまうと、意識の外に追いやられてしまう。そして人間の手に追えない残骸となってしまうことを目の前にしたような心持ちになりました。

ところで、牡蠣の貝殻には微生物が生息しやすい。それを利用して、日本では海苔の生産の道具として欠かせない存在でもあります。牡蠣の真珠層に発芽をした海苔の果胞子を装着し成長させる。三重県桑名市で一棟貸しホテル「MARUYO HOTEL」を手がける友人から、伊勢神宮外宮にも奉納されているという桑名産「幻の海苔」が届きました。「MARUYO HOTEL」でもご縁あって販売をされています。日本髪のような漆黒の色味と薄さの気品。パリッとした食感と、広がる濃厚な旨味とその余韻。海苔はこんなにも豊かな甘みを備えていたのかと驚かされる、日本の情緒あふれる味わいに感激しました。幻ののりと言われるアサクサノリ養殖を挑戦を桑名市の技術者たちが取り組んできた。江戸湾で採れた古来種であるアサクサノリは、環境の変化に弱く、養殖向きではない。そのため、現在日本で養殖されているアマノリの大部分はスサビノリ。アサクサノリは淘汰され、絶滅危惧種に指定されてしまっています。「幻ののり」は、実現に漕ぎ着けた純度90パーセント以上のアサクサノリを、川手海苔さんが焼き窯で一枚一枚焼き上げた海苔でした。過剰な大量生産が、いかに我々の住む生態系を変え、五感をも奪ってしまってきたのかに気づかされもしました。

牡蠣の左殻は生薬になることでも知られますが、広島で継承されている茶道の上田宋箇流では、夏の風炉の灰形をこしらえるのに、牡蠣灰を使用するのだそう。茶席に涼しさを表現するという粋。自然とともに生きることが文化となる。そこはかとなさに命が宿る美学、日本の情緒を愛おしく思います。冒頭でお話をした作家さんですが、作品のうちのガラス玉の模様を、日本の漁網GYOMOからインスピレーションを得て作成したとのことでした。

以下、今週のトピックスは今週のひとことの後に掲載しています。【A】経営低迷の「ラデュレ」、新しいシェフ・パティシエを発表。【B】PETAのフランス支部、ビーガン女性起業家賞を8名に授与。【C】卵の代替食材ブランド「Yumgo」。【D】仏スター作家がオーガニック・ウォッカを発表。

ここから先は

2,713字 / 1画像
食関係者にとどまらない多くの方々の豊かな発想の源となるような、最新の食ニュースをフランスから抜粋してお届けします。

フランスを中心にした旬でコアな食関連のニュースを、週刊でお届けします。有名シェフやホテル・レストラン・食品業界、流行のフードスタイル、フラ…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?