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トマトのコンフィのタルト@ブロワの古城を眺めるホテル・レストランFleur de Loire フランスの週刊フードニュース 2022.08.08

今週のひとこと

7月中旬から息をつく暇なく、フランスのあちこちに足を運んできました。コートダジュールから南仏、ロワール地方、サントル、ノルマンディ、パリ近郊エソンヌ。

その土地に生きる生産者、料理人たち、レストランやホテルで働く人々との出会いは、あるいは再会は、心温まるものでした。自然に向き合い、その土地で生まれる素材の味わいを、感動とともに伝えてくれる仕事には、感謝の気持ちが自然に湧き上がりました。

コロナ禍を経て、自然への敬愛をもって生きることは、フランスでも自然になりました。今回訪れた、地方のすべてのレストランでは、皆がおしなべて自社の畑を持っていたのにも、これからの時代の兆候をみたような気がします。畑を持っていないとしても、有機栽培、あるいはビオディナミで素材を育てる生産者とともに、人と人との絶対的な信頼関係を軸として、料理を作り、食卓につく我々も、その気持ちを共にする。

しかしながら、フランスのあちこちで水不足が叫ばれ、土地が疲弊していることにも同時に直面しました。40度以上にもなる異常気象が続き、山火事が絶えず、あるいは地中海では年々獲れなくなる魚が増えているなど、環境が猛烈に我々人類に訴えかけていることを感じざるを得ません。

こうした状況を真剣に正さなくてはならないと考えている一般の消費者がフランスではとても多く、日々の活動の中でも、レストラン産業への期待値が高いというのを、日々感じます。例えば、昨年11月にOpinion Wayによる調査では、以下のようでした。

81%が外食産業のレストランが社会的な責任を考慮した食品をメニューに取り入れることを期待。ローカルの食材、品質についてより知識を得たい(79%)。さらに、食材の生産者に正当な報酬が支払われていることもしっかりと確認したい(77%)。フェアトレード、ローカルフード、オーガニック、廃棄物ゼロの食事を支持する世論の声が高まっており、地方自治体の力にも注目が集まっていくのではないかと思います。

王たちの古城のある地方とも知られる、オルレアンやトゥールのあるヴァル・ド・ロワール地方から期待されている、この土地出身の料理人、クリストフ・エイにもミシュランガイド発表のセレモニー以来で、再会を果たしました。彼の店での食事からは4年ぶりでした。2つ星を2019年に得て、ブロワ城をも眺めるロワール河沿いの18世紀建造のシャトーに移転したばかり。ホテルとレストラン、パティスリーなども兼ねる広大な土地で、農業従事者の5代目でその肩書きをも持つクリストフは、ほぼすべての食材を自分の土地で育て、あるいは関わり、皿の上に載せていました。それは今に始まったあり方ではなく、2014年当初から取り組んできたことで、移転によってさらに強化されていました。農地も持ち、漁師とともに船に乗ることもあり、和牛も育てる。ヴァル・ド・ロワール地方の大使ともなりつつある彼に、いまの仕事のあり方をミッションと感じているのか?と質問を投げかけると、ミッションではなくEvidence(当然のこと)だ、という返事が返ってきました。

Evidenceという言葉は、Voir(見る)のラテン語から派生した言葉ですが、「証拠や正当化を求めるのではなく、真理や現実として心に刻み込まれるもの」のことです。
そして、経済に生き方を載せるのではなく、生き方に経済を沿わせているというあり方だからこそ、消費者を誤らせることもないのではないかと思いました。

「戦争を知らない子供たち」として、平和な時代の中に生まれたはずでしたが、一触即発の21世紀だからこそ、今できることはEvidenceの声を聞くことではないかなと、反省しています。


今週のトピックスは今週のひとことの後に掲載しています。夏休みに入り、掲載ペースが滞っておりますことお許しください。政治から現場まで、フランスの食に関わる人々の動向から、近未来を眺めることができると、常に感じています。食を通した次の時代を考える方々へ、毎週フランスの食事情に触れることのできるトピックスを選んで掲載しています。どうぞご参考にされてください。【A】ノンアルコールワインの伸長。【B】気鋭のノンアールコールワインメーカー。【C】1904年刊行ミシュランガイド落札。【D】シャンボール風の鯉コンクール。

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