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しんがりで寝ています

■ 感想

「しんがりで寝ています」三浦しをん(集英社)P304

雑誌「BAILA」に連載したエッセイの第二弾。毎回「まえがき」からエンジン全開なしをんさんだけれども、今回はいつも以上に勘所多発注意なので、外出先と飲食を伴う場合は要注意。ふいを突かれて大惨事が大いにありな本書は「十年一日ぶりが極まっていて、時空を歪ませるほどの力に満ちたSF的エッセイシリーズ」と壮大だ。

始まりは遡ること新元号発表前日。タクシーに乗ったしをんさんは運転手さんと新元号の話になり、運転手さんは「タピオカ」推し、しをんさんは「エグザイル」。とうとう元号にまで上り詰めた推しへの愛。登りくる新元号の額を持つ官房長官の手の背後からフェードインする「Risinng Sun」。華々しいエグザイル天皇爆誕の瞬間…笑。とんでも車内有識者会議、混沌極まれりで始まりからお腹は捩れまくった。

新しい発見は、しをんさんのぬいぐるみ好き。映画「名探偵ピカチュウ」にはまり、二万円超えの公式等身大ピカチュウぬいぐるみを、予約から半年の時を経てお迎え。まさに孫の勢いでピカチュウを愛で、植物への緑の手もほんのりと成長。

そして興味のなかった占いにまでふらりと寄っている。しかし、占ってもらう明確な悩みがないしをんさんの悩みは「漫画の発売日に本屋さんに行けそうもなくて、でもAmazonで予約注文しても本当に当日に届くかはわからないわけで、どうすりゃいいですかね」と。常日頃脳内につき纏うあるあるな悩みでありながら、占い師さんには相談することを憚られる内容すぎる。思いとどまれてよかったけれど、一応どんな返答が返ってくるのかも聞いてみたい気もする。

今回ちょいちょい北の国からの語り口になるのも大好きだ。でも「父さん…」ではなく、母さんなのがしをんさんらしい。

驚きは、「さあ、家で本を読もう族」の長であるしをんさんが、出羽三山のひとつ「月山」への登山を敢行!イメージトレーニング万全で挑むも、二時間半のルートを八時間。私には登れそうもないので、登るという時点で尊敬しかないけれど、30分に1回のお菓子休憩がかわいすぎる。富士山登山はイメージトレーニングすら危険なのでやめておくという意見には完全同意しかない。体力も気力も充実した方ががんばって登頂した姿をテレビなどで拝見して感動するに限る。

人生の作戦は「いのちだいじに」。しんがりで寝ている心持ちに再びまみえる日が楽しみだ。

■ 漂流図書

■月山|森敦

しをんさんが登山した山形県の月山を扱った小説。

古くから修験者の山として信仰を集めてきたことが描かれている作品らしいので、修験者に反応してしまう私は読まねばなるまいと。美文な予感で楽しみ。

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