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ジャーロ No.89(Kindle版)

■ 感想

「ジャーロ No.89.2023.JULY(Kindle版)」(ジャーロ編集部)P998

続きが読みたかった斜線堂有紀さん「キネマ探偵カレイドミステリー」の連載再開号!

抜群の推理力を持ちながら、部屋で映画ばかり見ていて外には出ない嗄井戸くん。トラウマはまだ嗄井戸くんを解放してくれないようで哀しいけれど、奈緒崎くんと憎まれ口を叩き合いながらも絶妙なバディとして事件を解決していくスタイルが健在で嬉しい。

今回はスタンリー・キューブリック「2001年宇宙の旅」のフィルム上映に絡ませながらの殺人事件。フィルムでの上映、贅沢で素敵だなあ。このシリーズはビブリアと同じように見ていない映画はもれなく見たくなるし、見た映画やその中でも思入れのある映画が扱われることも多いので、本を閉じた後で必ずピックアップされた映画を見たくなる。

新たな角度からの興味が増えていることも多いのがまた嬉しい。これからの連載でどんな映画と出会ったり出会い直しができるのか楽しみが増えた。

三津田信三さん「なぜかいるもの」は、民俗学の面白さも加味された妖怪談でとても面白く、終始ぞわぞわと肌は粟立ち続けた。「座敷童」に始まり、"なぜかいるもの"について何例かが語られていくが、妖怪なのか幽霊なのか座敷童の存在の根源をより深く知りたい。

民俗学でよく知られる家を繁栄させ、去ると没落していくという座敷童だけでなく、いつも通りの友だちと遊んでいてみんな知っている顔、誰も増えても欠けてもいない、なのに何度数えても人数が一人多い。いくら確認しても同じ顔触れであるにも関わらず一人だけ多い。それが誰なのかは誰にも分からない。これも所謂「座敷童」らしい。

妖怪よりも幽霊としての恐怖が勝る「座敷童」は見えているのか見えていないのかが分からないパニックにも似た状態の恐怖が続き、文字を追いたくて急ぐ目と迫りくる恐怖から逃げ出したくて震える脳内が混乱をきたして、時にスワイプする指を躊躇させた。抑えた文体で派手に恐怖を書き立てることもなく、怪異の姿も正体も朧でありながら、迫りくる湿度の粘度が途方もなく怖い。三津田信三さんの作品も是非追いかけていきたい。

■ 漂流映画

■2001年宇宙の旅/スタンリー・キューブリック

2001年を越えた未来にいる今、感じることはまた増えているだろうと思う名作のひとつ。

そのひとつひとつをじっくりと見つめながら楽しみたい。

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