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苦しさをふり返る色

店先に赤紫蘇があった。

毎年、庭の梅の木が私にプレゼントしてくれる梅の実。
毎年、それで梅シロップや梅ジャムなどを作るのだけれど、今年は完熟した少しの梅を干してみようと思っていた。


塩漬けにしているその梅の上に、アク抜きをした赤紫蘇を乗せた。
じわっと梅の実が赤く染まり、とても嬉しくなった。

さっきまで黄土色だった梅の実が、真っ赤になる。

まるで、女の子に可愛くおめかししたみたいな、そんな高揚感。



残りの赤紫蘇のうち、半分を使って紫蘇ジュースを作ってみた。
紫蘇ジュースを作るのは初めてだ。
108歳を目前にして亡くなったおばあちゃんは酒飲みで、庭の赤紫蘇を摘んで紫蘇酒を作って飲んでいた。
そんなことを思い出しながら作った紫蘇ジュースは、ほんのりと苦い。


アク抜きをしたのに、おかしいな。

そう思ってネットで調べたら、交雑した赤紫蘇は苦味が出るのだという。
私が買った赤紫蘇は、ゴワゴワしていてほんのり緑が混じり、明らかに交雑していた。


(;´Д`)
どうやら、変な赤紫蘇を買ってきてしまったようだ。

仕方がないので、残りの赤紫蘇を使って、なにか染めてみようと思った。
草木染なんてほとんど経験がないけれど、煮れば良いことがわかる。



私は白が好きなので、白ではなくなるのは嫌だ。
そして、赤紫蘇で染めると白はピンク色になる。

ピンク色は、私にとっては呼吸が浅くなる色だった。


以前書いた俺の大切なその人は、私の自己紹介になる。
物語の中の「俺」は、仮面をつけた男の有り様で踊っていたけれど、現実にはもっともっと拗らせていた。
見た目は可憐で可愛い女性
中身は正義感あふれる優秀な男前
で居なければならないと、勝手な強迫観念を握っていたのだ。


そんな私は、幼少期に大好きだった水色と黄緑色を封印し、ピンク色が好きなことにしてしまっていた。

見た目が美しくなければ、他人から可愛いと評価されなければ、女性として存在価値がないのだと頑なに信じては、努力しながら常に劣等感に苛まれていた。

そして自分が存在を許されるためには、どこから見ても女性にしか見えないような、ピンクやレースやフリルを着こなすしかないと思った。

封印したかなしみを思い出す


本当はかなしかったのに。

本当は水色や黄緑色が好きなのに。


必死で私はピンクが好きなんだ。ピンクが好きでなければいけないんだと、自分自身に暗示をかけた。


私にとって、ピンクとはそういう色だった。


生成りのエコバッグを手にしたが、せっかくの生成りがピンクになるのが耐えられなかった。

ピンクは私にとって、呼吸が浅くなる色だ。
本来の自分から、遠くに離れていく色だ。

だから、わざわざピンクにしなくてもという気持ちも浮かんできた。



だけど、それ以上に草木染に対する好奇心が止められなかった。

この赤紫蘇で、何かを染めてみたい。

タオルや手ぬぐいなどを見ながら、ふと捨てようかとはじいていたシャツの存在を思い出した。


綿のシャツは襟汚れがあり、くすんでしまっていたのだが、これを染めたらどうだろうかと思った。



大きなお鍋にお湯を沸かし、赤紫蘇で染液を作る。
そして、シャツを投入した。


赤紫蘇で染めた綿シャツ

染め上がったシャツは、とても素敵なピンク色をしていた。
私の呼吸は浅くならない。

なんて綺麗な色なんだろうと、嬉しくなった。



私が、使わなければいけないと強迫観念に駆られたようなピンクではない、とても自然な色合いに見えたそのシャツを洗って脱水して干して。



ぶら下がっているこのシャツを、どこに着ていこうかと考えていた。


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