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母親との距離

父親は私が7歳の時、病気で亡くなった。

母親は専業主婦をやめて、父親の会社の好意で同じ系列会社で雇ってもらい、家事を手伝いに祖母(母親の母)が来てくれて私と弟は育った。

父親がいないというと、その当時はまだ離婚している家庭の数もずっと少なかったので、周りの友達から好奇の目で見られるのが恥ずかしかったが、それ以外は経済的にも、精神的にも自分が恵まれていないというようなことは一つも思わなかった。

母親はご飯もお弁当も作ってくれたし、授業参観にも来てくれた。時には祖母が来てくれた。

私立の大学に行かせてくれて、仕送りもしてくれた。

外食もよくしたし、いとこ家族と旅行もいろいろ行った。

繰り返すが、恵まれていないと思うことは一度もなかった。


高校生の時、仲良くなった友達の家に泊まりに行った。彼女の母親が夜ご飯を作ってくれて三人で食べながら、何かの話の節で、

「ハルカ(友達の名前)、だーいすきよ」

と言って私の目の前で友達を軽く抱き寄せた。

私は驚いたとともに目のやり場に困った。

当時まだ初めての彼氏もいなかった私は、何か恥ずかしいものを見てしまったような感覚になったのと同時に、ショックだった。

日本の文化の中で、こんな洋画のようなセリフをさらっという母親がいるのか!と。

私の母親は私たちに不自由をさせはしなかった。片親だからという目で見られないようにと、自立とマナーが最優先、私の場合はあんまり勉強しなくてもそこそこ成績がよかったので、まわりからは「しっかりしていて出来た娘さんね」と言われた。

でも今思い返すと、一度でも母親に「大好きよ、私の子」と言われたり、抱きしめられたことはない。

「あなたの幸せが一番よ」なんて言われたこともない。

成績や作文、絵の入賞でほめられたことはあっても、「優しい子ね」とか「よくできたね、えらいよ」とか「泣いていいのよ。お母さんに話してごらん」とか、そんな言葉をかけられたことは一度たりともない。

今でこそ私は欧米の愛情表現や褒める文化に慣れてしまっているけれども、日本の文化ってものがもあるし、誰しもがそういうことを言われて育ったわけではないのはわかっている。

母親は厳しくて昔ながらな九州男児の祖父の教えで育ったから、そんなあまったるい映画のようなセリフをいう女性ではそもそもないし、一人で子育てすることに一生懸命できっとそんなところまで頭が回らなかったと思う。

小さな子供の私がそれを欲して寂しい思いをしたなんてことはないし、それが当たり前として育ったから、初めてそうでない家庭を見るまで何の疑問もいだかなかった。

でも、そうでない家庭がこの世にはたくさんあると知った今、私は「もしそういう愛情表現にあふれた、感情をぶつけさせてくれて受け止めてくれる家庭環境で育っていたら今の私は違ったんじゃないだろうか」と思わずにはいられない。

彼氏と同棲したいと言ったら家族会議になった事件から、私は母親に二度と彼氏の話をしないと心に誓い、恋愛のことはおろか自分の心の相談は一切しない。してもわかってもらえないと思っている。そんな関係を悲しいとも思う。

1年前、コートを新しく買ったので写真を撮って母親に見せて、その後で話題を変えて東海岸に住む友達のところに遊びに行く計画を話した。母親の返事は

「まさかそんな寒いところにあのコートで行くんじゃないでしょうね?」

だった。

「寒いだろうからあったかくしていきなさいね。」と言えないのかと呆れた。呆れてLINEをやめて、そのあとしばらく既読スルーを続けた。


夏に車を買ったので、車の隣に並んで撮った写真を母親に送った。

母親の回答は「足がムキムキで真っ黒だし。。あなた太ったんじゃない。もう年だし。。」

ついに私は「そんなことを言われると私は傷つく」と言った。「車を買った喜びをシェアしたくて送った写真に、そんな体型批判のコメントはいらない。」と。

「身内しか言ってあげられないことを私は言ってあげてるのよ」と返ってきて、今度こそ、二度と、何も話さないと心に決めた。


それでも数か月前(笑)、恋愛と仕事と家のこと全部で一気に悩んで弱っていた私は、ついつい母親にこういうことが起きて自分というものがわからなくなってしまった。と相談した。

「人には合う合わないがある。あなたは自立した強い娘。」と少しもっともらしいことを言ってくれた後で

「ていうかそんなこと親に相談するかねぇ。。。(ため息の絵文字)」

と付け加えてきた。

急にプライベートなことを相談されて恥ずかしくてどうしていいかわからなかったのだとは思うが、親に相談できなくて誰に相談すんだよアンポンタンが!!!!!とブチ切れた。


それをすべてカウンセラーさんに相談したところ、

「わかってもらえなくてもまた母親に相談したり、ついつい話しちゃってもいい。ただ期待するのをやめなさい。」

「自分が言いたくて言っているだけ、自分のために言っているだけ。そこにこういう返事が欲しいという期待を持つから、期待にそぐわない返事が来たことで苛立ったり、傷ついたりするの」だと。

「そうして何度も相談しては期待を裏切られる、ということを繰り返していくうちに心が強くなっていって、期待を裏切られても平気になってくる。」

「人生は7割が期待通りにいかないと思っておけばいい。」

世の中の成功している人や、強い人はたくさん失敗した、傷ついた人だとはよく言ったものだ。

そしてわからんちんな母親にまた私は相談する。

そしてあぁやっちまったなと思いながら、でもそれでよしとする。

そう思えるようになっただけでも、心はずっと軽い。


さぁ次は何を母親に相談しよう。


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