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ハワイのおばちゃん

高校1年生の年末年始に、うちといとこ家族とおばあちゃんの8人でハワイ旅行へ行ったことがある。

人生初めての海外旅行。

母と叔父、叔母が貯金をはたいて計画した1週間の旅行。

あたたかくて少しむわっとする気候。

世界中から来ているハッピーな旅行者たち。

ヤシの木とビーチと青い海。

パッケージングがかわいくてカラフルな商品がずらりと並んで一日中過ごせるくらい楽しいスーパーマーケット。

当時大好きだったROXYをはじめとするサーファーズブランドに身を包んだローカルっ子たち。

とにかく楽しかった。

おいしくてあったかくて幸せだった。

が、それも3日目まで。

思春期の気難しい私が顔を出す。

みんなでツアーに参加してワイキキから離れたどこかへ一日かけて行こうという計画に「私いかなーい。ホテルで待ってる。」とそっぽを向いた。

ホテルの1階にあるコンビニにお土産やスパムむすび、ジュースを買いに行ったがそれ以外部屋にこもっていた。

今となっては何でそうしたのか覚えていないけど、何となくみーんな揃って日本語ツアーに参加してザ観光客な行動をするのが嫌だったか、体調が悪かったのか、とにかく気分は滅入っていた。

ベッドでごろごろしていると、誰かが扉をノックした。

どきっとして跳ね起きる。

[House keeping~♪]

と言ってお掃除のハワイアンのおばちゃんが入ってきた。

掃除の邪魔にならないようにと自分のベッドの上に縮こまって、ドキドキしながらよくわからないくせにイエス、イエスと時々返事をしてみたが、たぶん

「あらー、誰か部屋にいたのね。大丈夫?具合が悪いの??」

みたいな感じだったのだと思う。

せっせと私の乗ってない方のベッドやテーブルの上を片付けながら、おばちゃんが続ける。

[Where are you from?]

ゆっくりと、私にわかるように、シンプルな英語で優しく聞いた。

「アイム フロム ジャパン」

[Oh nice. I love Japanese food!]

そんな感じの会話だったと思う。

初めて、外国にいる、外国の人と英語で話した。

何の質問だったかもう忘れてしまったけど、何か聞かれて自分のことをこたえた。少し、長めの文章で。

[Your English is really good.]

去り際に彼女がそう言って眼鏡の下から微笑みかけた。

恥ずかしくて目は合わせられなかった。サンキューを言ったかもあやしい。

もちろん私の英語は全然つたなかったに決まっている。それでも面と向かって褒められて、外国語で人とコミュニケーションをとる喜びを知った。

その一言が16歳の日本人を駆り立て、

元々好きだった英語の勉強だけは苦にならず、

大学時代に短期留学をして、

社会人をやめてワーホリでカナダに来て、

移住まですることにしたのだ。


彼女の一言のおかげで今の私がいる。

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