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音楽の力

 夫とは音楽の趣味が合い、それが仲良くなったきっかけでもある。付き合い始めた頃から、お互いが好きなバンドのライブに一緒に行っている。職業柄、コロナのことが気になって、ここ数年は行けていなかったが、コロナ禍も少し落ち着き(というより慣れ?)、この前久しぶりにライブに行ってきた。コロナ禍でのライブがはじめてだったので、みんなちゃんとマスクするんだろうか、とか、本当に声を出さずに楽しんでいるのだろうか、とか、マナーが悪い人がいたらどうしよう、とか、私はちゃんと楽しめるのだろうか、とかいろいろ不安もあった。

 会場に入っていくと、最近はドリンク代がPayPayで支払えるようになっていることにまず驚いた。あと500円じゃなくて600円になっていて、こんなところでも値上げしてるのか、びっくりした。そんなことも知らない長い間、ライブに行ってなかったんだなと思った。スタンディング席にも立ち位置の目安となるテープが貼られていた。あんなにぎゅうぎゅうになって、自分の汗と隣の人の汗が混ざり合うほどの熱気と密度だったのに。どちらかと言えば、指定席で、パーソナルスペースを保って楽しむのが好きだったはずの私でさえ、なんだか寂しい気がした。

でも、ライブが始まる前のあのワクワク感は変わらない。
隣の人も前の人も、みんなどこかソワソワしている。
スタッフさんがチューニングをする。
もうすぐだな、と気持ちが高ぶる。
バンドメンバーが出てきた瞬間、「うおー!」というあの頃の声援の空耳がした。

 1曲目が始まった瞬間、「そうだった、ライブってこうだった」と全身が思い出す。会場にいる全員が同じ曲に乗って、拳を突き上げる。「ああ、みんなおんなじ音楽が好きなんだなあ」と涙が出そうになる。普段生きていたら、人の悪意を感じたり、思いやりのなさに直面したりするけれど、今この瞬間は同じ感情を共有していて、ひとつなんだと感じる。みんなでルールを守って、声は出さずに、でも盛り上がる事ができる。ライブって、音楽ってすごいな、と改めて思う。

 ライブが始まるまでは感じていた不安や寂しさは、終わった頃には跡形もなく消え、満足感でいっぱいだった。今日はいい日だったな、と思った。コロナ禍で以前とは少し、形は変わってしまったかもしれないけれど、音楽は変わらずそこにあった。

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