こころをまもるもの
心に余裕がある時にしか、本は読めない。集中できないし、頭に文字が入ってこない。小説は、それよりさらに心に余裕がある時にしか読めない。文字の羅列を読むわけではなく、そこにある世界を頭の中で再現しないといけないから。
学生の頃はあんなにたくさん読んだ小説を、働くようになってから全く読めなくなったのは、だから、必然なのかもしれない。そして、仕事を休むようになってからまた、小説を読めるようになったのも。
学生の頃は、小説を読まないと、自分の心がすり減って行くような気がしていた。何もしなければすり減っていってしまう自分の心を守るために、補うために、埋めるために、小説を読んでいた。
今も、すり減り、無くなりかけてしまっている心を取り戻すために、小説を読んでいるのかもしれない。
でも、心を守れる存在があってよかった。心を守れる、補えるものが何もなかったら、本当になくなってしまうから。