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旅の第一歩をいつまでも踏み出せなかった自分に、さようなら

今回のスペイン一ヶ月一人旅を決心したそもそものきっかけは、昨年冬、当時付き合っていた彼氏の「そんなに好きなら、行っちゃいなよ」の軽めの一言だった。

しかし、それから一ヶ月もしないうちに彼とは別れることとなり、その数ヶ月後の今年春にわたしは会社を退職し、その後28才にして初めての海外一人旅へ飛び出すという、波乱の展開となった。

プロローグ

スペインのことを初めて深く知ったのは、高校2年生で世界史を履修した頃だから、かれこれもう10数年前になる。

スペインはヨーロッパ大陸の西に位置するのにも関わらず、昔むかし、イスラム系帝国に支配されていた時代があったということを初めて知ったあの時。
それまでの自分の中のヨーロッパに対する概念が崩れ、歴史のロマンに鳥肌が立った。

その後大学では迷うことなくスペイン語を履修し、大学3年まで勉強し続けた。がしかし、留学や旅行へ行くことはなく、留学に行った友人の話を聞いたり、自分でスペイン文化やスペイン文学の本を読んでみたりと、それだけで無理やり自分を満足させていた。

当時一度は行ってみたいと思いつつも、一人で行く勇気もなければ、一緒に行かない?と誰かを誘う勇気もなかった。
お金もないし親も心配するし、なんて今思えば「行かない」という事実を自分が納得するために、あってないような理由をつけていたのだと思う。

社会人になり収入を得るようになっても、またもや「わたしが長期で有給を取ったらその分会社の人が困るから」なんて理由を付け、行きたい気持ちを心の中に閉まいこんでいた。
でも本心はやっぱりスペインへ行きたくて、ガイドブックを買ったり雑誌のスペイン特集があれば食い入るように見つめていた。

そしてあっという間に社会人6年目が過ぎた2018年の夏。
当時の彼とのふとした会話でわたしが「スペインに行きたいな」と口にしたら、「2人で行こうよ」とあっさり返事が返ってきた。

そして2018年10月、わたしは彼と一週間、人生初のスペイン旅行へ出かけた。

訪れたのはマドリード・トレド・バルセロナのみだったが、憧れ続けたトレドの街中を歩き、バルセロナのモデルニスモ建築や青い海を間近で見た時、「やっと会えた…!」と、まるで昔から好きで好きで仕方なかったミュージシャンのライブへ初めて行ったような感覚が全身を駆け巡った。
それと同時に、「どうしてもっと早く来なかったのだろうか」と心の底から後悔した。

トレドの街並

美味しすぎる食事。陽気で優しい笑顔のスペインの人々。時間がゆったり流れる感じが心地よく、美しい街並に魅了され、帰りたくない自分がいた。

もっと、ここスペインという国にいたい。

食事がこんなに美味しいなんて、バスクでは一体どんな食が待っているのだろう。
アンダルシアにも行きたい。
バルセロナの街で住むように過ごしたい。
青い海をただぼーっと眺めていたい。

7日間だけでは、時間が全然足りなかった。

帰国の時点で2019年3月末で仕事を退職することは決まっていたが、それ以降のことはまだ何も考えていなかった。
でも、いつかまたスペインへ行きたい。ワーキングホリデーも年齢的にまだ間に合うし、将来もし住めるのなら住みたい。とにかく頭の中はスペインでいっぱいだった。

それを再び彼に話したら、「そんなに行きたいなら、まずは一ヶ月くらいとりあえず行っちゃいなよ!」の一言。
その勢いで「そうだね、やっぱり行こうかな!」と早速一人分の往復航空券を購入するも、その数週間後、彼はわたしに突然別れを告げ、6年間の長い付き合いはあっさりと終わりを迎えた。

そして、わたしの目の前には退職と一人旅の予定だけがぽかんと残った。

こんなに簡単に人生って変わるんだな。とふと笑っちゃう自分がいた。

さあ、切り替えて一人旅のことだ。

前回のスペイン旅行は彼と一緒に旅程を決め、航空券も彼が取ってくれた。彼の方が英語も堪能だったし、頼りにしていた部分が大きかった。

でも、次の旅は自分一人で宿を探し、旅程を立てなければいけない。
いや、一人旅なのだからそれが当たり前なのだけど、海外旅行の経験は数回、ましてや海外の身よりもないところで一人一ヶ月過ごすのも初めてだ。

自分は一ヶ月も旅を続けられるのか。
自分で決めたことなのに、猛烈に不安だった。

出発直前は、不安との戦いの日々

そして予定通り3月末で会社を退職し、4月半ばには東京から実家の京都へ戻った。
旅のスタートは5月半ば、準備期間は残り約一ヶ月。
その前に宿をある程度予約し、行き先も大体は決めていた。
後は荷物や貴重品の準備、そして何より心の準備だ。

まず大きな不安要素は、スペインはスリが横行していること。
スリだけには遭わないよう、実家から徒歩10分の近所のスーパーに買い物に行くだけの時もショルダーバッグを体の前に持ち歩き、防犯意識を身体に染み込ませた。
(それでもコルドバでスリ未遂に遭ったのですが、長くなるのでこれはまた別の機会に書きたいと思います 汗。)

iPhoneが海外で日本のように使えるのかも心配だった。
まず、SIMカードって海外で入れ替えたらiPhoneそのまま使えるの?レベルで何も知らなかった。幸いAmazonでヨーロッパで使えるSIMカードを発見し、事前に日本で購入することができた。SIMカードを入れる予行練習も行った。

それでも不安は波のように次々やってきた。

飛行機のオンラインチェックイン上手くできなかったらどうしよう。
ホテルは予約したけど、現地に行って予約できてなかったらどうしよう。
ホテルで寝てる時に虫出てきたらどうしよう。
食べすぎてお腹壊したらどうしよう。

行く前からそんな押し潰されそうになってどうするのさ、と自分に言い聞かせながらも、ザプンザプンと、波は押し寄せ止まらなかった。

それが一転、旅に出る前の不安はどこへやら

しかしいざスペインの旅が始まると、幸いなことに飛行機も何の問題もなく搭乗することができ、列車の移動もスムーズ、ホテルも無事予約できていたりと、大きなトラブルもなく順調に日々は進んだ。

街を歩き回り、美味しいものを食べ、目的を一つ一つクリアしていくごとに「わたし、一人でできた!」と自信になった。

いつの間にか不安は嘘のように飛んでいき、旅自体にも慣れ、最高に楽しかった。

しかし、ここはスペイン。何でも便利な日本とは違い、ちょっとしたトラブルはほぼ毎日起きた。

バス停の印がものすごく小さくて分からない。
道が工事中で通れない。
地下鉄の表示が分からず何度も乗る方向を間違える。
隣町へ市バスで日帰り観光に行ったら、町のお祭りで帰りのバスが運休していることを現地に行ってから知る。帰りどうするねん。

そんな時、どう解決するか。その都度正しく導いてくれる便利なマニュアルなんて一つもなく、その場で自分なりに臨機応変に考えて行動するしかない。
でも、何だかそれ自体が自分を試しているような気がして、「さあどうする、わたし」とワクワクが止まらなかった。

そうした困難を自力で乗り越え、自分の足で行きたいところへ行く。その道中で気になるスポットがあったら、直感に従って入って寄り道しても良い。
そんなことがとても楽しくて、純粋に生きている心地がした。

様々なところを訪れる度、旅の一歩をずっとためらっていた昔の自分に向かって
「わたし、一人でここまで来れたよ〜!!」と叫びたくなった。

そして、この地に来れたこと、旅の道中で助けて下さった方々、両親、そして旅の一押しをしてくれたあの時の彼に感謝の気持ちが込み上げた。
そういえばいつの間にか、彼と別れた時のさみしさもどこかへ吹き飛んでいた。

アンダルシア、グラダナにあるアルハンブラ宮殿。ナスル朝宮殿の天井

アンダルシア、コルドバのメスキータ。
ナイトツアーで訪れたものの、夜は内部撮影禁止だったので急いで塔だけ撮影。キリスト教とイスラム教の文化が混じったメスキータは本当に美しく、歴史に思いを馳せた。

バルセロナの街並。どこかにサグラダ・ファミリアがあります!
バルセロナは約1週間滞在し、のんびり街を歩いて過ごした。

ビルバオからバスで約1時間のところにあるサン・フアン・デ・ガステルガチェ。ここに辿り着くまでバスを乗り継ぎ240段もの階段を登りと大変な道のりだったけれど、この岩山の頂上に登った時の達成感は忘れられない…!

バスク地方の海。どこまでも青く、見たこともない地層に興奮した

スペインで食べたもの。スペインバスク、フランスバスクの違いも知りたくて、少しフランスバスクにも出掛けた。胃の許す限りとにかく食べた。

旅のメインテーマの一つは食と決めていたので、訪れた街に市場があれば足を運んだ。土地ごとに異なる様子でとても楽しく、学びになった。

もちろん困難を乗り越えつつも、体調を崩したり危険な目に遭うのはもってのほかだ。日が暮れたら出歩かない、疲れたら決して無理せず休憩するなど自分で決めた最低限のルールは守った。

そうして無事に、気がつけば12もの街を訪れていた。

こんなわたしでも、一人旅を終えることができた。それが何より自分の自信につながったし、今まで生きてきた中で一番の達成感を味わった。

一歩踏み出したら、後はどうにかなるし、どうにかするしかない

今回の旅を切り出せたのは、勢いで航空券を取ってしまった以上、もう後戻りができず、旅に出るという選択肢しか残されていなかったからだと思う。

無理矢理でもそうしていなかったら、わたしは今回もまた一歩踏み出せず、スペインへ行っていなかった可能性だって十分にある。

それを思うと、学生の頃や働いていた時も、旅に踏み出せない本当の理由は「不安」だった。

でもいざ旅がスタートしたら、そんな不安は吹き飛ぶくらいの素晴らしい景色と美味しい食事、そして人の優しさに出会った。
自分の足で新たな土地へ繰り出し、困難を切り抜ける。そんな旅の醍醐味を存分に味わい、それが楽しくて仕方がなかった。

今振り返ると、歩き始める前、はじめの第一歩を踏み出すことが最も勇気が必要だった。

一歩踏み出してしまえば、その後はもう一歩ずつ進むしかなく、歩みを進めるうちに不安はいつの間にか消えていた。
それと同じようなことはよく本で読んだり誰かに言われたりしたけれど、実際に旅に踏み出すまで、それがどういうことなのかは分からなかった。

でもとにかく一度歩き始めたら後はどうにかなるし、どうにかするしかないということを知った。

これから

今はスペインから帰国しもうすぐ2週間が経とうとしている。

わたしは食べることが大好きでスペインも大好きだ。そうした関連の仕事に就きたいと思いながらも、どうすればまたスペインへ行けるか、そのことばかり考えている。

スペインに限らず、他のヨーロッパもラテンアメリカにも生きている間に行ってみたい。

いずれにしても、今回の旅路を自ら歩んだように、今後の人生も自分で切り開いていくしかない。

旅と同じで、人生も上手く進めるためのマニュアルはこの世に存在しない。
自らの頭で考え自らの足で探し、自ら飛び込み、チャンスが巡って来たら自分で掴むしかない。

今回の一人旅を通じて、わたしが一番学んだことはその点だ。

そしてすぐに目的地にたどり着けなくても諦めるのではなく、何か他の方法はないか、ダメならダメでどうするか、臨機応変に切り替え行動することも、時と場合によっては何より大切なことなんだろうなと思う。

次は、どこへ行こう。
次は、どんな素晴らしい景色に出会えるだろうか。この目で色んな世界を見てみたい。

いつまでも、はじめの第一歩を踏み出せなかった自分とはもう、さようなら!




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