淡路こじゅ

古典的な王道ファンタジー小説を書いています。学生時代から書き溜めた未発表作がたくさんあ…

淡路こじゅ

古典的な王道ファンタジー小説を書いています。学生時代から書き溜めた未発表作がたくさんあるので、少しずつ出していきます。ファンタジーの壮大な世界観のなかで、人が生きる意味を問う骨太な作品を目指しています。

マガジン

  • 言霊(ことだま)の国から来た男

    もしも内閣総理大臣が突然召喚され、魔王と戦うことになったら? 気楽に読める異世界ファンタジー小説。こんな時代だからこそ、少しでも多くの日本人に読んでもらいたい…ちょっとお間抜けながらも熱き魂を込めた、異世界召喚ものです。

  • 何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン

    連載小説です。失われた魔法の探索の旅の途中、若き女魔法使いラザラ・ポーリンが、ゴブリン王国の王位継承争いに巻き込まれてゆく冒険物語です。迷い多き人生に勇気を与えたい、そんな志を持って紡ぐ、希望の物語。

  • 画像生成AIとファンタジー

    画像生成AIについてまとめてます。

  • 心にしみるシリーズ

    心にしみるエッセイ、詩などのまとめ。

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サントエルマの森の魔法使い #1影を追うひと

第1話 影を追うひと沈む日を背に、長く地平まで伸びる影を見つめていた。 オレンジ色に包まれた黒い影は、ゆらゆらとしてどこか儚く、こみ上げるさみしさに震えているかのようだった。 彼女はため息をつきながら良く夢想した。影が笑いながら手を振っているさまを。 母は彼女を愛していたが、その愛は彼女に息苦しさも与えていた。 家に息をつける場所はなく、彼女はよく夕暮れに野へ出かけていた。影と遊ぶために。 父は彼女が幼き日に出て行ったまま、帰ってくることはなかった。 父の記憶は、

    • 言霊の国から来た男:あとがき【note創作大賞2024応募作】

      言霊(ことだま)の国から来た男は、コメディタッチのファンタジー小説ですが、実は現代の日本が抱える様々な問題点について考えるきっかけを与える作品でもあります。 政治家は初心を忘れぬよう本作において、総理大臣就任の栄光の瞬間に異世界に転生してしまった藤田は、政治家としての強かさも持つ一方で、純粋な男でもあります。 「有事には、自らも前線に立つ」 こういった心構えがある政治家が、日本にどれだけいることでしょう? 裏金作りに明け暮れ、他党の足を引っ張るばかりの日本の政治家たち

      • 【完結】言霊(ことだま)の国から来た男 #15

        第15話 総理の長い一日 太陽が傾き、空が黄金色に染まる。  魔王を屠ったドラゴンの群れは、何処へ飛び去っていった。最後の一頭が飛び去る前、こちらを見ながらわずかに頭を下げたように思えたが、気のせいだったかもしれないと藤田は思った。  藤田は、スーツのほこりを払い、あらためて服を整えた。四角いメガネにはヒビが入っていたことに、今しがた気づいた。  けれども、それこそが「生きている」ということなのかも知れない。そういった日常の何気ないことに気づく余裕があることこそが。

        • 言霊(ことだま)の国から来た男 #14

          第14話 決着 勇者マーカスの一行は、人間とは思えぬほどに強かった。魔王の攻撃を受けながらも欠かさず反撃し、魔王を弱らせていく。グリフォンたちの側面支援もあった。  その人外の戦いに、藤田はただ見とれていた。  けれども、魔王のスタミナは底なしであった。一頭、また一頭と、着実にグリフォンたちの数が減らされていき、勇者たちのダメージを蓄積していった。  藤田は不謹慎ながら、ゲームにしたら魔王のHPはどれほどなのだろうと、半ば呆れ、また半ば絶望する思いで考えていた。桁数は分

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        • 言霊(ことだま)の国から来た男
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        • 何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン
          41本
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          4本
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          言霊(ことだま)の国から来た男 #13

          第13話 決戦「うおぉー、最高じゃあ」  バヌスは興奮して叫んだ。  彼らは、グリフォンの背の上にいた。藤田の要請に応えて、二十頭ほどのグリフォンが飛来し、彼らを背に乗せて飛び立った。  彼らは今、雲霞のごとき大軍を眼下に見て、魔王軍の奥深くへと入り込んでいくところだった。  彼らが乗る五頭のグリフォンを中心に、残りのグリフォンたちが編隊を組んで飛ぶ。それを率いるのは、黒い大きな鳥……  藤田は、その鳥が三本の足を持っていることに、気がついていた。 「我々を導くの

          言霊(ことだま)の国から来た男 #13

          言霊(ことだま)の国から来た男 #12

          第12話 一連託生:総理は前線に立つ「ベイグン……何?」  マーカスは眉をしかめながら問い返した。 「トモダチ……援軍は来ないということです。孤立無援」  そう言いながら、トマホークの残弾を放ち、シールドに迫る敵を牽制する。しかし、敵軍の数は、その反撃力を上回って肉薄してきた。 「ああ……だめだ、もうすくシールドが破られる」  バヌスがおろおろしながら言う。グロリアがその背中を強く叩いた。 「腹をくくりな、死ぬとしても、戦って死ぬんだよ」  大柄な女聖騎士が、剣

          言霊(ことだま)の国から来た男 #12

          言霊(ことだま)の国から来た男 #11

          第11話 発動しない日米安保 邪悪な巨人が投げた巨石がシールドにぶつかり、シールドが激しく揺れた。  当初は破竹の勢いだった精霊たちの数も激減し、いまや敵軍がシールドのすぐ外まで迫る。  「トマホーク」を放ち、一度相手を牽制したが、魔王軍はひるむようすなく進撃を続けた。 「おい……どうするんだ、これ?王国軍を呼んだ方がいいんじゃないか?」  グロリアが苛立つように言う。彼女たちは百戦錬磨の強者だが、数万の大軍を蹴散らすことはできない。  藤田は、眉間に皺をよせて考え

          言霊(ことだま)の国から来た男 #11

          言霊(ことだま)の国から来た男 #10

          第10話 序盤は好調 動き始めた敵の大軍を前にして、藤田は、仲間たちからすれば魔法の呪文としか思えない言葉を口ずさんだ。 「未曾有の武力攻撃事態に対して、日本国内閣総理大臣として、自衛隊に防衛出動を要請いたします。総力をあげて迎え撃ってください」  その言葉に応じて、火の精霊、風の精霊、水の精霊、木の精霊らが、空中から、大地から沸き起こり、たちまち一万を越える大軍となって、魔王軍に襲いかかった。  すでに、力の一部については検証済みであったが、全軍を挙げた反撃がどれほど

          言霊(ことだま)の国から来た男 #10

          言霊(ことだま)の国から来た男 #9

          第9話 言葉を刃とする戦い:魔王VS総理大臣 魔王軍と勇者たちは、王都郊外のサラノスの野の対峙をした。  地平を埋め尽くす魔王たちの大軍……ゴブリン族にオーク族、トロール族にオーガ族、リザードマン族、そしてグールやスケルトンといった不死の者たち。後ろの方には邪悪な巨人たちが控え、最後方にさらに一回り大きな魔王の姿が見えた。  対するのは、五人の勇者たち……。  その戦いは、あまりにも絶望的に見えた。 「まずは、外交的解決を試みます」  イージス・システムを稼働させ、

          言霊(ことだま)の国から来た男 #9

          言霊(ことだま)の国から来た男 #8

          第8話 出陣  魔王が数万の魔物たちを率いてアリアネス王国に攻め込んできたという情報は、王国を震撼させた。  アリアネス王国が動員できる兵力はせいぜい三千……しかも、下級の魔物ならまだしも、魔王クラスには全く歯が立たないということは、今までに何度も経験済みだった。  だからこそ、勇者マーカスたちを、魔王討伐の旅に送り出したのだ。  前回の魔王討伐は失敗に終わったものの、王国軍では歯が立たないことを知っている国民たちは、勇者マーカスたちに再び熱い視線を向けた。彼らが立ち上

          言霊(ことだま)の国から来た男 #8

          言霊(ことだま)の国から来た男 #7

          第7話 冴える調整力 また藤田は、アリアネス王国の政治にも助言をし、次第に国王ジャヌスの信頼も勝ち得ていった。藤田にとってみれば、そちらの方が本懐であったかもしれない。  ある日、農地の開発がはじまったダナーン地方の視察に同行した藤田に、ジャヌス王は満足げに話しかけた。 「ここは豊かな農地だと確信していたが、反対派の大騎士ウィリアム卿をうまく立ち退かせることができたのは、貴公の手腕だ、ソーリ・フジタよ」 「はい……そういった話は、我が国では良くありますもので」  藤田

          言霊(ことだま)の国から来た男 #7

          言霊(ことだま)の国から来た男 #6

          第6話 言霊の幸ふ(さきわう)国――言霊の幸ふ国  日本では古来より、言葉には魂が宿ると考えられてきた。その精神性は、万葉集においてすでに見られる。 神代より 言い伝て来らく そらみつ 倭国は 皇神の厳しき国 言霊の幸はふ国と語り継ぎ 言い継かひけり 今の世の 人もことごと 目の当たりに 見たり知りたり(山上憶良)  藤田健一は、その歌を思い出していた。万葉集や日本書紀など、神話の時代まで含めて日本の歴史を詳しく学んだ政治家は、稀だろうと自負していた。だが、その知識がこ

          言霊(ことだま)の国から来た男 #6

          言霊(ことだま)の国から来た男 #5

          第5話 切れる総理 ユムドギヌスは、上空で旋回しながら、彼の炎の攻撃がまったく打撃を与えていないことに疑念を持っていた。 「なんだ?防御の魔法を使ったのだろうが……それにしても手ごたえがなさすぎる」  しかし、その違和感はすぐに頭の隅に押しやられた。上空からの攻撃を繰り返す限り、彼の圧倒的な優勢は変わらない。 「まあいい。奴らの魔力が切れるまで、攻め続けるだけだ」  ユムドギヌスはそうつぶやくと、口の中に炎をたぎらせ再び攻撃態勢に入った。  城壁の上では、あっけにと

          言霊(ことだま)の国から来た男 #5

          言霊(ことだま)の国から来た男 #4

          第4話 目覚める総理 悪竜ユムドギヌスは、アリアネス王国の南の火を吹く山に住まう暗黒の竜である。王国の北に縄張りを持つ魔王の手下ではないが、しばしば王国の街を侵し、人々を苦しめていた。半年前にマーカスたちが討伐し、二度と王国を襲わないと約束させたはずだったが……  城壁の上に立ったマーカスたちを、ユムドギヌスは目ざとく見つけた。黒曜石で作られたような鱗のあいだに光る黄金の目が、鋭くすっと細められた。 「マーカス、生きていたのか。魔王に敗北したという噂を聞いたのだが」  

          言霊(ことだま)の国から来た男 #4

          言霊(ことだま)の国から来た男 #3

          第3話 みかん農家の子「勇者マーカスとその一行よ、まさか貴殿らまでもが魔王に返り討ちにされようとは…」  国王ジャヌスは、傷だらけで帰還した勇者たちをまえに、嘆いた。 「だがともかく、本日は貴殿らの健闘をたたえよう。よく無事に帰った」  国王の左右に列をなす騎士たちが、ざっと剣を胸の前に構えた。戦場の英雄をたたえる、アリアネス王国の慣例である。  国王が、ひとりひとりの前に歩み寄る。 「勇者マーカス」  マーカスは小さくうなずいた。28歳にしてすでにこの国の伝説的

          言霊(ことだま)の国から来た男 #3

          言霊(ことだま)の国から来た男 #2

          第2話 敗北「ナイ……カク、何だって?」  マーカスは首を傾けた。  カールゲンの魔法は、最強の召喚獣を呼び出すもののはずだったが、目の前にいるのは奇妙な恰好をした、貧相な男……そして、その男は明らかに、戸惑っていた。 「ええと……ここは、いったい?」  男はマーカスの仲間たちを見て、ある可能性に思い当たったようだった。 「あなたたちは、コスプレイヤー? ここは、どこかのフェスですか? …私はいったいどうしたんだ」  グロリアが落ち着かなげにカールゲンを見てから、

          言霊(ことだま)の国から来た男 #2