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幻想的短篇

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継続連載。悪魔、寓意、アイロニー、アフォリズム、夢、過去作品を再編しつつ、以前よりテーマを明瞭にしていきたいと思います。
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記事一覧

幻想的短篇 Ⅷ.眠る

幻想的短篇 Ⅷ.眠る

 ―――もしもそのようなものが存在するなら、慈悲深き神々よ、意思の力もなければ、人間の狡猾さがつくりだす薬物もない刻限に、私が深い眠りの穴に落ちこまずにすむようになさしめたまえ―――
  ハワード・フィリップ・ラブクラフト『ヒュプノス』

 睡眠は忘却をもたらし、忘却は人に悦楽をもたらす。
 僕がわざわざ書く事も無く、これは人間が地上に生まれ出でてからの事実であり、動物や魚や鳥達すらも睡眠の悦

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幻想的短篇 Ⅶ.青灰色の門をこえて

幻想的短篇 Ⅶ.青灰色の門をこえて

――ヒトの記憶野は、その領域を効率的に使うために、
線形配列ではなく離散配列で記憶が保存される――現代脳神経学

 医師である彼は不安を抱えていました。
 彼は世界的にも知られた優秀な脳外科医で、脳動脈瘤、脳梗塞、脳出血で様々な手術法を習得し、いつの間にか神の手とも比喩される有名医師となっていました。
 それゆえ、その大きくなりすぎた評判ゆえ、思いもかけない依頼が飛び込んで来たのです。

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幻想的短篇 Ⅵ.幻想詩 人形のための葬送曲

幻想的短篇 Ⅵ.幻想詩 人形のための葬送曲

僕はその時、人形劇を観ていた。
確か僕が生まれる前にも演じられた劇の再演だった、
中東~アフリカ~インド~中国、その古代から繰り返されてきた、
僕はその時、人形劇を観ていた。

筋書きはこうだ、煽動された人形達は必死に真の宝を求め続ける、
しかし前提が間違っておりその宝は存在しない。
探索の物語の中、人形達は徐々に斃れ脱落していく
残った人形達も疑心暗鬼に陥って互いに傷つけ殺しあう、

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幻想的短篇 Ⅴ.焚書と忘却に関するディスカッション

幻想的短篇 Ⅴ.焚書と忘却に関するディスカッション

「焚書や、書物の消失が人類の知識を下げると言うのはSF上のレトリックですよ。ブラッドベリの才能がそれを真実の様に見事に脚色しましたが・・・・
 現実は書物や記録媒体こそ怠惰の象徴、人類の堕落の偶像なのです。」
 メフィストフィレス―老錬金師の魂を奪い損ね、それを巨匠ゲーテに描かれた事によって、地獄の大君と並んで世に知られた魔人―が、堂々とした態度で僕にそう演説した。

「面白いね、君が何を言

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幻想的短篇 Ⅳ.濁色も乳色も混じらず斑も無い深紅

幻想的短篇 Ⅳ.濁色も乳色も混じらず斑も無い深紅

皇帝の戴冠式の絵の依頼を受けた画家が居た。
その皇帝は国家の統一のみならず、周辺諸国を平定し欧州に大帝国を築いた。
画家は戴冠式の風景を思い出し描き始めた。
マントの赤、ヴェールの赤、絨毯の赤。
画家は硫化水銀、ルビー、紅花とあらゆる画材を試したが、
画材の濁りや色むらで納得できる色が出せなかった。
暫くして、赤を残して全てを描き終えた画家は、自分ひとりと食料を残し
弟子に部屋を封印

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幻想的短篇 Ⅲ.奇術師

幻想的短篇 Ⅲ.奇術師

   「魂とはな、わしらが航海で真っ先に投げ出す積荷さ。
  そして、どこでなくしたかをたずね歩いて、残りの生涯を送るのさ」
    マイクル・ムアコック『タネローンを求めて』

 日曜の都内の公園。
 ジャグラーやパフォーマーが様々な芸を披露してる中に、一人の奇術師が数人の子供に奇術を披露していました。ダイスを使った奇術やカードを使った奇術、コインの奇術と一見ありふれたモノばかりで大人は足

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幻想的短篇 Ⅱ.目覚めよと呼ぶ声あり Wachet auf, ruft uns die Stimme

幻想的短篇 Ⅱ.目覚めよと呼ぶ声あり Wachet auf, ruft uns die Stimme

 魔方陣、薫り高き乳香、子山羊、鶏そして子犬の血によって女悪魔ゴモリーは2500年の眠りの後、再び地上に呼び戻されました。
 黄金の王冠は彼女の赤毛を紅玉の糸のように輝かせ、艶かしい肢体に黒のシルクと白のレースの薄衣を纏い、その顔(かんばせ)は女皇帝の気高さの中に乙女の初々しさを秘め、双眸の奥からは伝承のリリスやラミアを思わせる色欲の炎を宿していました。

 ゴモリーは、自らを召喚した者達に問

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幻想的短篇 Ⅰ.イブリースを探して

幻想的短篇 Ⅰ.イブリースを探して

 少年時代、名も知らぬ堕天使を探し続けていた経験がある。
 ゲームだのライトノベルでファンタジーがこれほどメディアに溢れていなかった時代、ごく限られた廃版同然の資料を一部のマニアがあさっていた様な時代だ。
 13~14歳の当時、私が同じ趣味を持つ同輩や先輩によく言っていたらしい、
「天使は炎から生まれ、人間は水と土から生まれたと言う事で、上帝に『人に仕えるのは断固断わる』と言って堕天した天使

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