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「ザ・フラッシュ」アメコミとアメコミ映画のまとめ

フラッシュもバットマンもスーパーマンもな、200人おんねん(そこまで出てこなかった…)

 フラッシュ初の単独作。
 フラッシュことバリー・アレンは「ジャスティス・リーグ」のダークな雰囲気の中で一人だけ清涼剤のように明るく(文字通り全体的に暗いシーンが多いが、その能力による稲妻で明るい)、そして父親との関係などキャラクターの伏線が張られた状態であった為、楽しみにしていた人も多いのではないかと思う。かく言う、私も好きなキャラクターであった為、今作をとても楽しみにしていた。


はじめに

 今作は超スピードで動くことが出来るフラッシュが、時間を超えられる能力を発見し、両親を救う為に過去へ行き、その歴史を変えてしまうという、劇中でも何度もセリフに登場した「バック・トゥ・ザ・フューチャー」と同じ構造だ。タイムスリップものと言ってしまえばお馴染みのSFのジャンルとも言える。しかし、アメコミを原作としている、という点で映画としては若干複雑な点を要していると感じた。「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」では明確にマルチバース(多元宇宙)を描き、“運命”について描かれていた。今作も大枠では同じ”運命”がテーマとなっており、純粋なタイムスリップものでは収まり切らず、マルチバース要素も入り混じっている。

 なぜ「ザ・フラッシュ」がタイムスリップものを越境し始めたのか、それらを“①アメコミ”と“②アメコミ映画”の2点から論じていきたいと思う。

 前述の①アメコミはアメリカの“コミック”を指すとしよう。アメリカの”漫画“という表現にしていないのは日本の“漫画”とは異なる出版物、芸術作品であるからだ。具体的にいうと、日本の“漫画”は作品毎に漫画家いる。大概1人であったり、原作と作画で2人など、その漫画の制作者として名を連ねることが多い。対して“アメコミ”はその作品(もっと言うとキャラクター)の権利はその出版社が持っていることが多い。確かにスタン・リーはスパイダーマンなどを創ったが、スパイダーマンの権利を持ち、さらにイラストレーターなど分業によって一つの作品を仕上げているのはマーベル・コミック社だ。詳しく話すと長くなるのだが“コミック”と“漫画”の定義についてはあくまでも私個人が勝手に言っているだけのものであるので慣用的に通じない場合があることを承知頂きたい。

 話を戻すと、②アメコミ映画、というのはそのままの意味で上述の“アメコミ“を原作にした映画(ないしドラマやアニメ作品)のことである。これについてはもはや既にハリウッド映画の中でも大きいジャンルの一つとして認知されているのではないかと思う。


フラッシュ・ポイントについて

 今作はモチーフとなった原作コミックがある。それが2011年の「フラッシュ・ポイント」だ。フラッシュがブルース・ウェインやスーパーマンが存在しない世界に迷い込んでしまい、なんやかんやあって世界が一新してしまう、というストーリーだ。長年、様々なライターがそのキャラクターに各々の時代や情勢にあった物語を提供しているが、連綿と続くアメコミにおいて、それは設定に矛盾が生じ、複雑化につながっていた。読者もその全ての設定を追いきれずコミックの売れ行きは下がってしまうことを危惧して、一度フラッシュにそれら設定をリセットしてもらおう、というわけである。

 リセットされた世界は、新しい別次元、多元宇宙として保存される。複雑化した設定を多元宇宙での出来事、として分離し、これはまた別の話だから〜という言い訳が許されるのがアメコミだ。あまり難しいことは考えずに読むほうが楽しいと個人的には思っている。

 つまり、ここで述べたいことはフラッシュというキャラクターにおいてマルチバースを描くということは原作としては自然な流れであり、その導入としてフラッシュを持ってきたという見方も出来るのである。

原作の「フラッシュ・ポイント」
とはいえ、映画は全く別のストーリー。


アメコミ映画のマルチバース

 様々な人が関わって作り上げてきたコミックは、いわば数十年の歴史を持ち、その積み重ねの結果である。コミックを原作としてきた映画も同じく長い歴史は持っている。今作と「ジャスティス・リーグ」に繋がる「マン・オブ・スティール」が2013年公開作品なので10年。また、マイケル・キートン主演、ティム・バートン監督の「バットマン」が1989年。もっと遡ればテレビシリーズが1940年代に放送されており、80年以上の歴史がある。

 この長い年月で、様々な役者がキャラクターを演じてきた。バットマンことブルース・ウェインだけでも、何人もの俳優が映画で演じてきた。ドラマやアニメの吹き替えを含めるともっといる。スーパーマンも同様だ。これはジェームズ・ボンドにも同じことが言える。仕事の幅を広げる為、シリーズの終了、金銭や契約上の理由、色々な理由で降板する。インディ・ジョーンズやミッション・インポッシブルのような長年続くシリーズでも同じ役者が演じるという例外はあるが、観客側としては同じキャラクターは同じ役者に演じてもらったほうがわかりやすいかもしれない。

 今作では、DC映画におけるこの移り変わりをネタに映画を拡張している。予告でも登場している通り、ベン・アフレックのブルース・ウェインだけでなくマイケル・キートンのブルース・ウェインが登場した(最後のジョージ・クルーニーは声出して笑った)。物語終盤では多元宇宙が消滅しあう中で、過去にスーパーマンやバットマンを演じた俳優たちが登場し、DCのメディア化を総括するようなシーンになっている。

 コミックだけでなく映画においてもこういったメタ的な複雑化は発生しており、上述した点と合わせて、多元宇宙を描き、それは単なるタイムスリップものに留まらない作品にしようとしている。

幻のニコラス・ケイジのスーパーマン。
実際に映画化までは至らずテスト試写で止まり、制作が中止されたことをネタにしていると思われる。監督はティム・バートンが予定されていた。
ニコラス・ケイジは大のアメコミ好きで有名。
息子にカル=エルという名前をつけるヤバいタイプのオタク。
その後無事(?)にゴーストライダーやキックアスでヒーローを演じることになるが…

ジェームズ・ガン・ポイント

 勝手な想像だが、DC映画としても今作はフラッシュ・ポイント、つまりリセット作品になる可能性がある。

 DC映画はジェームズ・ガンをCEOに迎えいれ、新たな体制でDCにおけるユニバース化を制作していくことを発表した。現時点でスーパーマンやグリーン・ランタンなどが新しく作られ、DCユニバースとしてブランド化していくことが報じられている。しかし、現行のジャスティス・リーグ、ブラック・アダムやシャザム、スーサイド・スクワッドは同じ世界観をシェアしているのかは不明だ。「スーサイド・スクワッド」のアマンダ・ウォラーを主演にしたドラマは制作されるらしいので、おそらく同じ世界線を辿るのかもしれない。とはいえ、DC映画における転換期に公開となったフラッシュがリセット作品(映画の中ではそれらが直接描かれているわけではないが)、ないしはその導入として位置付けられる可能性は高いと思う。ジェームズ・ガンによる新体制がどうなっていくか、正直不安な部分はありつつ、しかし「ザ・スーサイド・スクワッド」しかり「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:Vol.3」というそれぞれの傑作を描いた彼が率いるので、以前より期待を持てそうだ。

「ザ・スーサイド・スクワッド」よかったよ。

その他

 これまでやや全体的なことばかり述べてきた。個別評価としては満足している点は多いが、気になる点もある。

 特に気になった点は、劇中で2人のフラッシュがゾッド将軍たちに侵略される地球を救うため、スーパーガールことカーラやバットマンと一緒に闘うが、2人は何度やり直しても死んでしまう。その葛藤の中で、バリーは運命を受け入れる覚悟を得る。これこそこの映画の核心に迫る部分であり、個人的にも面白いと感じた。しかし、カーラたちが死んでしまい、ゾッド将軍に侵略されるであろう地球はどうなったのだろう。同じマルチバースを描いた「ドクター・ストレンジ:マルチバース・オブ・マッドネス」を観た時と同じ感想だが、別次元の話なので、その辺はどうでもいいんだよね、と蔑ろにされているようで悲しい気持ちになる。もしかしたらもう一人のバリーの犠牲によって救われたのかもしれないが、直接は描かれないためモヤモヤする。(個人的にマイケル・キートン版のバットマン作品が大好きなのであの世界が無くなってしまう悲しさもある)

 ポジティブな面としては、冒頭の倒壊するビルから赤ちゃんたちをフラッシュが助けていくシーンは最高に良かった。スローモーションの中、動く、というのは映画としては目新しいわけではないが、フラッシュのその能力やそのデメリット(直接人を動かせないことなど)をしっかり描き、でもそのユーモアさを忘れないといった魅力を伝えるという点ではとても最高のシーンだと思う。個人的には、やっぱりアメコミ映画は”人を救ける“シーンがあってナンボだと思っている。MCUはこの点がやや抑えめで正直気に食わない。DCは明らかにこの点において、意識してほぼ全ての映画で描いている。無条件でヒーローが人々を救ける、そのステレオタイプさはアメコミ映画のスタンダードであり外せないポイントであると思っているからだ。そういった意味で「ザ・フラッシュ」はアメコミ映画だなと、ここでも感じたのである。

スーパーガールことカーラ・ゾー=エルを演じたサッシャ・カジェ。
すごくカッコよかったのでまたスクリーンで観たい。


おわり

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