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次の旅に向けて —紀行、2023夏③

(さいしょ。)


去年と違って、私は最後まであの街の一部になることができなかった。
観光地ばかり巡っていた部外者に過ぎなかった。
私はあの街を愛せていただろうか。

仕事から離れて満喫しようと意気込んだ分、それが呪いとなり、苦しくなってしまった。

まだ自分の過ごした場所の周りのことすらよく知らないのに、パッケージ化された体験を一つでも多くかき集めようとしていた。
当然満たされなかった。

身体が疲れていても、強迫的になった私は動くことをやめられなかった。
そして結局精神的にも疲れてしまった。
私の休暇は、休養を犠牲にして、固有名詞で簡単に共有できるような体験をたくさん得ることで幕を閉じた。


この強迫感は、もしかしたらSNS疲れを引き起こす心理と同じようなものなのかもしれない。
自分のためになる経験よりも、簡単に他人と共有できる経験を優先する。
有名な場所をそれぞれ心ゆくまで堪能するより少しでも多く回りたい。

私にとって飛行機は滅多に乗れないもので、後悔のないようにその街を巡り尽くしたいと思った。
それの考えが最善である人もいると思うし、それはそれで素晴らしい楽しみ方だと思う。
けれど、本当に私が求めていたのは、部外者としてではなく、少しの間だとしてもその街で暮らす人として街を歩き、買い物をして、料理をして生活することだった。
結局、後悔は残った。

それでも振り返ってみると良かったこともある。
急いで回った中でも、ここは良かったなと思うスポットもあるし、山の中では1人地元の人に出会って色々な話を聞かせてもらった。
スーパーで買って齧り付いた野菜も美味しかったし、その地の名物で初めて食べた料理もまた食べに行きたいと思うほど良かった。
何より、思い出になった。


さて、次まとまった休みが取れたらどこへ行こうか。
今回で巡り尽くしたあの街にもう一度行くか、観光地ではないひっそりとした町に行くのが、きっと、私には似合っている。

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