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Road to be 限界ポスドク

皆さんこんにちは。学生の皆様は進学・進級・留年、社会人の皆様は社会的地位の維持、おめでとうございます。国内のソメイヨシノは全てクローンだから一斉に咲く、と言われているにも関わらず、今年は不安定な気候を理由にしてまばら咲き。生命科学の根幹をなす概念の一つ「揺らぎ」を感じる機会ですね。たとえクローンであっても環境に対する応答性は完全にロバストではないのです。
 私も今年で学部4年生となり、順調に卒業できれば来春からは大学院生として研究に打ち込むことになります。ここで直面している問題が所属先の研究室を如何にして選ぶかということです。2年前、数十の学部の中で生物学科に決めるだけで大変な困難だったのに、今度は国内に数千とある研究室から一つを選ばないとならないなんて……。元々は院進する同級生の大半と同様、現在所属している生物学科の直属組織である生物科学専攻の研究室から選ぶつもりだったのですが、中々決心がつきません。これには二つの背景があると考えました。一つは後述するように私の興味が非常に広く、目移りしてしまって選べないこと。もう一つは、今手元で見比べている研究室デッキのいずれも自分の興味・嗜好と十分一致していない可能性。この場合専攻外にまだ見ぬ魅力的な研究室を追い求めれば(なおかつ私が院試に合格すれば)めでたくマッチング成立するかもしれません。そこで、東大の生物科学専攻以外の専攻はもちろん、OISTや総合研究大学院大学等を視野に入れて研究室を網羅的に眺めることにしました。しかし自分の興味が広すぎる、何を研究したいのか自分でもよくわかっていない現状を解決する必要は以前残されています。ここで、自分の広い興味をなるべく包括的に、さらにはラボや研究に対する好みも含めて自分の嗜好を一般化することを試みました。

それが以下の文章になります。
プロの研究者ではなく、卒業研究すらしていない学部生が学問を俯瞰するなど傲慢かと思いますが、
生物系の進路を志す学生の参考になれば、他の方には少しでも生物学の魅力の片鱗が伝われば幸いです。

以下本文

   東京大学理学部生物学科B4 美味しい魚

後悔なく進学先を選択するためのメモ

○生物学に対するお気持ち


 *時空間的に広がりのあるものを、創意工夫によって解釈したい。
   後半の内容と重複するが、生物の行動や生態の観察・理解に留まりたくないことと関連している。とはいえこのご時世に生物学的現象を理解しようと思えば時空間的に広がりのないものをひたすら観察する研究など存在しえないので、杞憂かと思われる。
 *自分で研究を推し進めたい。それと関連してなるべく一人ないし少数人で一つのテーマを持ちたい。主著論文をなるべく早く世に出したい。意識が高すぎる痛い学生だろうかと思うが、論文というのは研究者の客観的評価の大部分を占めるのは紛れもない事実である。また、これまた意識高杉案件なのだが、可能であれば複数の研究を並行して進めたい。これが達成されれば必然的に論文を出すスパンも短くなると考えられる。
 また、医学系領域に近づくほど、ラボの総力を掲げてCNSのようなビッグジャーナルに論文を放り込むという偏見がある。ので、同様の理由で特大規模ラボもすこーーしだけ警戒している。もちろんラボの規模に依らないが、指導の目が行き届くのか、自分が密にコミュニケーションをとれるだろうかという観点でもラボを選びたいと思っている。自分自身で研究を進めやすい非本質部分として、シロイヌナズナなどのモデル植物はもちろん、条件制御が(比較的)やりやすい植物系研究室、また世代サイクルの速く飼育スペースをとらないショウジョウバエ等に実験材料としての魅力を感じている。
 *ある現象を包括的かつ高解像に理解したい。そのために研究のアプローチを選り好みしたくない。生化学や分子生物学から合成生物学やバイオインフォマティクス、ひいては機械工学なども広く扱いたい。この観点からは人数が多いラボの方が一般に教えを請いやすい点で分があるだろうか。肌感覚ではあるが、統計学やプログラミングに対する造形の深さは人によって千差万別であるように感じる。自分は数学が苦手ではないということもあり、これらの分野に対して少なくとも抵抗感なく研究に取り入れている指導教官の下につきたい。


〇興味のある学問領域


進化の産物としての生命科学について、その過程に思いを馳せながら大きな問いを解決できる研究がしたい。

・神経科学
究極的な進化の産物である脳はどのように獲得され、機能しているだろうか。我々には脳があり、心がある。少なくともみんな無意識にそう思っている。しかし、それらもすべて化学的、物理的な物質の授受、神経細胞の活性制御で成り立っているが、そのメカニズムはほとんどわかっていない。生物学に託された最も大きな問の一つであるといえる。

・進化における新規形質の獲得過程
跳躍的進化の分子基盤、本能的行動を司る神経メカニズム。進化と神経は絶対に密接に結びついているはず。本能的行動を司る神経メカニズムなども興味あり。
かつては動物の生態を研究したいと思っていたが、進化の結果として眼前に広がる多様性だけではなく、その背景にある進化のプロセスにより強く惹かれるようになった。「環境に適した形質を持つ個体が多くの子を残し、その適した形質が子供に受け継がれることで集団中に原因遺伝子が広まる」例を挙げると、草を食べる四肢動物がいて、他個体より首が長ければ長いほど木々の高いところに茂る葉を獲得できた。こうして首が長い個体が多く子孫を残す過程を繰り返し、キリンが生まれた。このような自然選択のプロセスは理解に難くないが、実際の自然はこの文章だけでは到底創造の及ばないプロセスを経て精巧な仕組みを作りあげているようである。また例を挙げよう。太古に存在した魚類は陸上進出を果たして、現生する我々の祖先となった。当時は現生の爬虫類に似た姿かたちを持っていたと考えられている。しかし、魚類が呼吸の十分にできない陸上に進出することはキリンのように漸進的に理解することは難しくなかろうか。もしかしたら湿地のような水陸の移行帯や雨季を中心に陸上に適した形質が進化したのかもしれないが、キリンの例よりは想像が難しい。さらに言えば空を飛ぶ生き物はどうだろうか。鳥の翼もキリンの首のように、最初はおできのようだった突起が世代を重ねるごとに伸びて毛が生え、翼になったのだろうか。地上での移動速度を犠牲にして、どのようなメリットがあったのだろうか。翼が完成するまでは、背中の突起は突起でしかない。軽量化こそすれど、拡大する方向に選択が働く環境をぱっと想像することは難しい。このように、現生する生物のメカニズムには、適応度の谷を超えないと進化できないと思われる形質が多くある。このような形質が獲得されるシステムは、いまだ解き明かされていない。(注:わかりやすい例として鳥類の翼を取り上げましたが、この件については完璧ではないもののかなりリーズナブルな学説が唱えられています)
これらの跳躍的進化の背景は、生物学における探求すべき問いの1つだと信じている。

・核内の染色体ダイナミクス、関連して、遺伝子の協調的発現のメカニズム
 単一遺伝子の機能を理解することだけでも現在は非常に難しい。が、多くの成功例もある。その一方で、数万とある遺伝子一つ一つの発現をどのように制御しているのだろうか。また、non coding RNAやトランスポゾンはどのように協調的な遺伝子発現と関連しているのだろうか。また、かれらが進化の鍵を握っているのだろうか。それはどのような機構によるものだろうか。(生物学に触れていない人には理解が難しいだろうあいまいな表現にとどまってしまっていて申し訳ない。これは私の不勉強による誤った情報の伝聞を避けるためである。今後改めて自分の理解のためにも文字に書き起こしたい)

〇自身のバックグラウンドに基づく興味


昆虫や魚類が昔から好きであった。行動観察を伴う研究紹介などを聞いていると、手法を自分ならどう使うかなど想像が膨らむ。飼育や採集を通じた生態への肌感覚は研究に生かせると確信している。

〇方法論的な興味


仮説の必要十分性を検証するべく実験手法を考えることや、定性的なものを定量的に評価することが好きである。特に近年のゲノム編集や光遺伝学的な技術の進歩は目覚ましく、特定遺伝子ノックアウトによる必要性の評価のみならず、十分性をも確認できるようになった。進化は証明できない、というのは全く過去の文言であるように思われる。
また、機械学習や大規模データを扱うコンピュータ技術とゲノムシーケンス技術の合わせ技により、ゲノムインフォマティクス分野が目覚ましく発展した。ヒトゲノム計画は1990年10月からおよそ10年かけて大国間で連携した超大規模プロジェクトとして完遂されたが、今なら一週間あれば同じことができるだろう。それも地方の大学の数m^2の実験室だけで。集団遺伝学分野でのツール開発などもあわさって、ゲノムインフォマティクスの可能性は宇宙の如く膨張の留まるところを知らない。かの岩崎渉氏は自己差別化のためにバイオインフォマティクスを進んだと語っていたが、向こう数十年ではむしろバイオインフォマティクスの素養なしでは学問のフロンティアからは置いて行かれてしまう時代が必ず来るだろう。

○候補研究室


最初は自分の専攻内で研究室を選ぼうと思ってめちゃくちゃ悩んでいたが、このようなメモを起こすことで自分の興味・姿勢に合致していないために悩んでいる部分もあるように感じたので、所属問わず広く研究室を探すことにした。とはいえ、東大の肩書を捨てるのは実際苦しいところもあるうえ、無数の研究室を総当たりで調べるのは不可能なので、大学院大学と東大の他の専攻に視野を広げて進学先を検討している。もしも良い研究室があれば教えていただけると幸いです。具体的な候補研究室は到底ここには載せられないので、これ以降の文章は非公開とします。すみません。それでは。


トップ画像は海生無脊椎動物展の環形動物コーナーにあったツバサゴカイの写真。ツバサゴカイ、なんてどエロいボディプランなんだ、、、。






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