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幽霊も暴力も出てこない怖い実話6 家出編

最近、トー横だ何だと話題になっていますが、さてさて、ここで家出のおっかないお話を。

学生時代にクレーム処理系のアルバイトをしていた。そのとき、元家出少年、と言っても19歳か20歳くらいの男の子から聞いた話。

彼はW実業高校に通っていた、なかなか優秀な子だった。しかし父親との折り合いが悪くてとうとう家出してしまったのだとか。
でも、行くあてがない。と言うわけで、コンビニ弁当と自販機の飲み物を買っては、新宿駅東口前の広場でボーッとしていたらしい。
しかし、高校生の財力なんてたかが知れたもので、財布の底はすぐに尽きた。5日目に最後の食事をして、6日目と7日目は公園の水を飲んだだけだった。
もうダメだと思った7日目、見ていてくれる人は見ていてくれるもので、
「君、ずっとここにいるよね?」
声をかけてきた優しいおじさんがいた。歳の頃40代半ば。
最初こそ、彼はゲイに誘われたのかと思ったらしいが、おじさんはその場で家族に電話をかけてゲイ疑惑を晴らし、「ウチで風呂入って、飯食って、寝な」と誘ってくれたそうな。

おじさんちには、専業主婦の奥さん、中学生の娘さん、そして小学生の息子さんがいた。四人家族だ。
彼はおじさんちに着くと、結構な匂いを発していたのだろう、まず風呂に入れられた。一週間ぶりの風呂は天国である。風呂から上がると、大きな絵画が飾られた居間に連れられて、そこで待っていたのは、すき焼き。まるで旅館だ。天国を超えて極楽だ。
「いいから、いいから。飲んじゃって」
ビールも出てきた。未成年が飲酒をしてしまった上に、久々の風呂とご馳走も相まって、まだ21時前だというのに、彼はウツラウツラと船を漕ぎ始めた。
おじさんは彼を起こして、2階の客間に案内した。そのとき、おじさんはこう訊いた。
「いつもは何時に起きてるの?」
「6時半です」
そう答えて、彼は床についた。

翌朝、目覚めて時計を見ると5時前だった。そりゃ21時前に寝りゃ5時前に目が覚めてしまうのも当然と言うわけで、彼は1階に降りて用を足そうとしたらしい。
すると、居間から何やら聴こえてくる。
彼は、怪訝に思いながら居間に近づいた。
近づくにつれて、今まで聴こえていたものが人の声だと言うことが分かった。さらに耳を澄ますと、「修行するぞ、修行するぞ、修行するぞ」という声だ。
彼がそっと居間をのぞくと、大きな絵画がはずされており、そこにはオウム真理教の麻原彰晃の写真が貼られていた。
おじさん家族は麻原彰晃の写真に向かって、一心不乱に「修行するぞ、修行するぞ、修行するぞ……」と続けている。

逃げなければ。彼は息を殺して玄関まで行き、靴を履いた。そして立ち上り、ドアノブに手をかけたときだった。
「どこ行くの?」
恐る恐る振り返ると、おじさん家族がニコニコしながら立っている。目は笑っていない。
「……ごちそうさまでした」
彼は丁寧にお辞儀をして、そして逃げた。

ようやく自宅に帰って、父親に「ただいま」と言ったとか言わなかったとか。


AUskeえいゆうすけ

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