ただのいつも通りを。

一日かけて、静かな夜を徹して歩く。それだけ。
いつも通りに、学校に行くように、家に帰るように、友達の家に遊びに行くように、ただ歩くだけ。いつも何気ない行動である歩き。
それが特別なことになる日。

賭けをした少女がいた。
誰かに思いを寄せる男の子がいた。
遠い異国の地から親友を思う秀才がいた。
誰にも屈することができない意地っ張りな男がいた。

歩くだけでこんなにもいろいろな気持ちを知れるとは思っていなかった。誰かが誰かを好きとか嫌いとか大人になったら頭を掻いてふふっとなってしまう話だけどとても大事なこと。良い思い出は前を向くのにはいい薬にもなるから。

今思えば僕も特別な思い出が残る歩きがあったな。この高校みたいに大それた経験じゃない、それでも抱えているもの教えてくれた友達がいたり、ただ馬鹿騒ぎしながら深夜のコンビニに繰り出しただけでもあった。その時の満足感は今思い出しても胸がいっぱいになる。そいつらの気持ちをすべてわかってあげれたかはわからないけれど僕は受け取ってもらえた。

ただ右足を出して左足を出す。この繰り返しだけで前に進む。その繰り返し。僕は今それの延長上にいる。いろんな道を歩んで来たし周り道は今もしている。昔想った道には行けてない。それでも、飛んだりワープしたりしてない、道は続いている。それだけでこのままでいいんだと思える。

後ろを振り返ると一瞬だった。けれどここまで来るのは大変だったはず。この歩行祭みたいに。やってこれた思い出の中の自分に自信を持てるはずだよ。

「夜のピクニック」 恩田陸

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