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【植村八潮教授インタビュー】オーディオブックも普通の「読書」になる未来へ 書物を取り巻く環境の変化

今回オーディオブックについて伺ったのは、紙の本から電子書籍まで、多角的な「出版」について研究している専修大学文学部の植村八潮教授。

オーディオブックが、紙の本、電子書籍に続いて、「読書」として浸透する日は来るのか?海外と日本におけるオーディオブック市場の違いや、書物のパッケージとコンテンツの進化の関係、オーディオブックが目指すべき姿などについて伺いました。

植村八潮さんプロフィール
専修大学文学部教授、博士(コミュニケーション学)、
東京電機大学工学部卒業後、同大出版局に入局。出版局長を経て、2012年4月より専修大学教授に就任。元出版デジタル機構会長。国立国会図書館納本制度審議会会長代理。

ーー海外と日本において、オーディオブックを取り巻く環境に違いはありますか?

植村:海外のオーディオブック市場が大きい国の背景としては、「運転中にオーディオブックを聞くのが習慣化していること」が挙げられます。

しかし、日本でオーディオブックが注目されてから20年近くになりますが、電子書籍の普及に後れをとってきました。その理由として、道路事情の違いよりも、日本語は「音声だけで理解するのが難しい言語」だからだと考えています。

日本語の母音が「あいうえお」の5つであるのに対して、英語には12個以上の母音が存在します。音を聞き分ける神経の発達は10歳くらいまでに決まるため、多くの日本人は英語の母音や子音の違いを正確には区別できていません。一方で日本人は、ひらがなカタカナの他に、1文字で意味を持つ漢字(=表意文字)を千から二千も使いこなしています。つまり、日本は聴くより読み書きが得意な表意文化の国。多数の音を聞き分ける表音文化の欧米ほどオーディオブックへの親和性は高くないと考えられます。

ーー表意文化が原因だとすると、今後もオーディオブックの普及は難しいのでしょうか?

植村:いいえ、若い世代を見ていると、これまでの表意文化の様相が変わってきているように思います。

例えば最近、長文を読み書きするのは得意でなくても、キャッチコピーのような短文を作るのは上手いという学生が増えています。おそらくSNSが普及し、短文でやりとりするのが当たり前の環境で育ったことが背景にあります。

近年、スマホやタブレットの発展はめざましく、子どもたちが育つ環境も猛スピードで変化しています。あと10年もすれば、幼い頃からスマホやタブレットを使いこなし、いつでも耳にイヤホンを着けて動画や音に触れ続けている世代が、消費を牽引するようになるでしょう。オーディオブック市場拡大の大きなチャンスは、これからやってくると思います。

ーーオーディオブックを日本でさらに普及させるには何が必要だと思われますか?

植村:オーディオブックに適したコンテンツの拡充ではないでしょうか。

書物の世界において、書物の形態すなわちパッケージが中身のコンテンツを作っています

例えば、巻物の時代に辞書というコンテンツはありません。冊子体になりパラパラめくって調べたい単語を見つけられるようになったことで辞書が誕生。また、和本から洋本になり、ページを行ったり来たりして読みやすくなったことで、登場人物の心理描写が盛り込まれた近代小説や伏線の張られた推理小説が生まれたのです。

最近、雑誌の漫画作品において、ページあたりのコマ数が減っています。これは誌面だけでなく電子書籍化してスマホ画面で読むことを想定しているからです。

さらに、これまでは誌面の漫画がそのまま電子書籍化されていましたが、今やスマホで読むことに特化した縦スクロール漫画が勢力を増してきています。新聞も同様で、以前は紙面をそのまま画面に表示させるだけでしたが、最近はスマホやタブレットで読みやすい横書きスタイルの記事が選べるようになっています。

このように、書物のパッケージの進化にともなって、コンテンツもそれにふさわしい形へと変わってきています。

オーディオブックも紙で読むための書籍をそのまま音声化したコンテンツだけでなく、オーディオブックというパッケージに適したコンテンツを開発する必要があります。

短いライトノベルズなど、相性が良いかもしれません。
また、日本人の読書空間は、自動車ではなく、電車にあります。朝の通勤時間で聴き切れる尺の仕事に役立つ情報なども、ビジネスパーソンのニーズに合致するかもしれませんね。

ーーたしかに、オーディオブックというパッケージならではの作品というのはおもしろそうです!

植村:かつて腕時計は、機械式のものだけが「時計」と呼ばれ、1969年にセイコーが世界で初めて発売したクオーツ式の時計は「電子時計」と呼ばれて区別されていました。しかし、今ではどちらも区別なく「時計」と呼ばれています

「読書」も以前は紙の本を読むことだけを指していました。でも、2016年に小中高校生を対象に電子書籍を実際に読んでもらう実証調査を行ったところ、月に1冊も紙の本を読まないと回答した高校生のうち、小説投稿サイトの作品を読んでいるという人が2割もいました。

これってもう「読書している」と言ってもいいんじゃないか? そこで文部科学省の「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」の見直しに際して、この調査をもとに「読書の中に電子書籍を入れましょう」と主張したんです。現在は、数々の読書調査で、電子書籍を読むことも「読書」としています。

オーディオブックを聴くことも、「高齢で文字が読みにくいから」「障がいで文字を読むのが難しい」などの特別な理由ではなく、誰もが当たり前に利用するような普通の「読書」になる未来を期待しています。

レコードにしろラジオにしろ、新しいメディアを誕生させた発明家は、単なるエンジニアでなく、メディアが人々を幸せにすると信じた伝道師であり、優れたビジネスパーソンでした。

その意味では、「読書の未来」を切り開くために、audiobook.jp(オトバンク)の活躍にも期待しています。

ーーオーディオブックも普通の「読書」として認められるようになったら嬉しいですね! インタビューさせていただきありがとうございました。

オーディオブックも「読書」になる未来を目指して

もともと表意文化の日本ですが、デバイスの急速な発展で私たちの生きる環境も大きく変わり、その様相が変化しつつあることがわかりました。

先日インタビューした医学博士・本田真美先生の「認知特性」のお話の中でも、もともと「視覚」でインプットをするのが優位な人が、生活する環境によって「言語」でのインプットも得意になってきたというエピソードがあります。

audiobook.jpでは、これからの環境や人の変化に合わせ、音で聴く”読書”を誰もが当たり前のように楽しめるコンテンツの制作を目指してまいります。

オーディオブック配信サービス「audiobook.jp」
株式会社オトバンクが運営する日本一のオーディオブック書籍ラインナップ数(※)を配信する音声配信サービスです。聴き放題プランを中心に手軽に耳で聴く本オーディオブックをお楽しみいただけます。 2022年に会員数が250万人を突破。※日本マーケティングリサーチ機構2021年11月調べ。日本語オーディオブック書籍ラインナップ数調査。

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