【本田真美医学博士インタビュー】読む・見る・聴くを選べる時代へ 認知特性を活かしたインプットを
「私の場合は耳から聴くほうが、自然と頭に入ってくる気がします」
オーディオブックのユーザーさんから、時々こういった声もいただきます。
実は「認知特性」というものが私たちには存在しているとのこと。「本は読むもの」が当たり前とされているものの、耳からのインプットを好む方もいらっしゃるのではないか。
そういった疑問を解消すべく、認知特性について研究されている医学博士の本田真美先生にお話を伺いました。
――まず認知特性とはどのようなものか、教えていただきたいです。
本田:認知特性については、私はよく「思考の嗜好」とか「思考の好み」という言い方をしています。
『医師のつくった「頭のよさ」テスト~認知特性から見た6つのパターン~』という本で書いたのですが、人間の認知特性は「視覚」「聴覚」「言語」の3タイプに分かれます。たとえば情報をインプットする時に、目で見た情報をインプットしやすい人もいれば、耳で聞いた情報を記憶と絡めるとインプットしやすい人もいます。
アウトプットする時も同様で、言葉で説明するのが得意な人もいますし、絵を描いて説明するのが得意な人もいますよね。
インプットもアウトプットもやりやすいやり方が人それぞれあるわけですが、私たちは自分はどのやり方が得意でどのやり方が苦手かを考えることはあまりありません。
――無意識のうちにやりやすいやり方を選んで、インプット・アウトプットをしているんですね。
本田:そうです。同じ授業を聞いていても、ある人は先生の声のトーンに注目していて、別の人は話の内容そのものに注目している。黒板の文字に注目している人もいるでしょう。それぞれに注目している場所が違うわけです。
でも、教える側の先生が「視覚」「聴覚」「言語」のうちの「言語」が優位な人だと、無意識に言語を重視して授業をするわけで、そうなると「視覚」が優位な生徒は自分の得意なやり方ではうまくインプットできないということが起こりうるんです。
――なるほど。それはありえますね。
本田:人それぞれ認知特性があるということ自体、あまり知られていませんからね。現状は授業も言語が主体で教科書も言語情報がほとんどということで、学校の勉強が得意な人は言語優位な人がどうしても多くなりがちですが、認知特性についての見識が広まれば、今後は視覚や聴覚に意識的に訴えるような授業も生まれるかもしれません。
日常生活でも学習でも、自分や相手の認知特性を知っていることで便利になる場面は多いと思います。
――本の中で、本田さんのパートナーは認知特性が視覚優位だと書かれていました。
本田:そうですね。夫はデザイナーなのですが、私は言語優位ですし同じような人たちの中で生きてきたので、初めは宇宙人のように思っていました。話の内容も視覚的な情報が多くて「どうしてそんなことを覚えているんだろう」となったり。
ただ、認知特性は一生変わらないものではありません。環境に左右されるところもありますし。
夫は言語優位のわたしと結婚して、ことばでやり取りする機会が増え、言語特性が強くなった気がします。私の視覚特性は結婚後も変わりませんが……。
――先ほどのお話で認知特性には「視覚」「聴覚」「言語」の3種類に大別できて、本の中ではさらにそれぞれには2つタイプがあり、合計6タイプがあるとされています。一番多いタイプはありますか?
本田:やはり言語が優位な人が多いですね。
ただ、10年前は今よりもそれがもっと顕著だったはずです。私の本を読んでくれたある高校生が論文を書くような授業の中で、自分の学校の生徒たちの認知特性を調べたそうなんです。
そうしたらやはり言語が強い生徒が多かったそうなんですけど、同様に視覚が強い生徒もかなり多かったそうです。今は私たちが若い頃よりも視覚的な情報がすごく増えているじゃないですか。
――聴覚優位の人も一定数いらっしゃいますか?
本田:もちろんいらっしゃいます。
知人は、聴覚を活用して難関大学に合格しました。競技かるた選手で実業家でもある粂原圭太郎さんという方で、覚えたい内容を自分の声で録音して繰り返し聴くことで記憶したそうです。だから、そこは人それぞれですね。
なので、特性によって、何度も書いて覚えるのがいい人もいれば、何度も見て覚えるのがいい人もいれば、何度も聞いて覚えるのがいい人もいます。それぞれの特性に応じた勉強スタイルを持てるといいですよね。
そういった意味でも、読むだけではなく聴くという選択肢を提供できるオーディオブックはすごく良いと思います。
――年齢によっても変わり、環境的にも影響されるということで、認知特性とはどのようなものだと捉えればいいのでしょうか。
本田:絶対的なものではないですし、一人の中に複数の特性があることもあります。『医師のつくった「頭のよさ」テスト~認知特性から見た6つのパターン~』の中に認知特性を調べるテストがあるのですが、さっきお話ししたように認知特性は6つのタイプがあって、どのタイプの傾向が強いかという結果が六角形のグラフで表現されるようになっています。
それをやってみると、あるタイプの傾向が突出して強い人もいますし、小さく整った六角形ができる人もいます。ただ、認知特性はあくまで各人の思考のやり方の好みであって、苦手とか得意という話ではないことは知っておいていただきたいと思います。
自分を知るための一つの要素だと私は考えています。
――たとえば大人になってから視覚優位で言語は少し弱いと自覚した時に、意識的に言語の部分を強化していくことはできるのでしょうか。
本田:そこは意識次第だと思います。やはり大人になると思考は固くなっていくので「これまでやってきたやり方で」となりやすいのですが、これまでとは違うやり方を試してみて、合わなければやめればいいわけで、試行錯誤をしながら自分にあったインプット・アウトプットのやり方を探していくのがいいと思います。
夫も昔はかなり視覚優位の人でしたけど、ラジオを聴くようになってから聴覚的な思考が入るようになったと言っています。
――認知特性の観点以外でも、オーディオブックが役に立てる点はなにかあるでしょうか?
本田:最近はゲームや動画など視覚的なコンテンツが多いなかで、オーディオブックのような音による言語だけに注意を向ける体験をするのは、「聴く」ことのトレーニングとしても使えると思います。
――オーディオブックでできる「聴く」トレーニングは、新たな発見です。「インタビューへのご回答ありがとうございました。
「見る」「読む」と並んで「聴く」も当たり前に選べる世の中へ
インプットには、人それぞれの傾向があるということがわかりました。
総務書の調査(※)によると、通信系コンテンツ市場において音楽以外の音声コンテンツは1%に満たないことがわかっています。
「読む」「見る」「聴く」、それぞれの得意が生かした選択ができるよう、audiobook.jpでは今後も音声コンテンツの制作に取り組んでまいります!
※ https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd251930.html
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