イノベーションが枯れたときがその会社の寿命である
東証プライムに導いたイノベーションの力
40年近くも前、父は中古車のオークションビジネスを立ち上げました。
これまで中古車のオークションといえば、郊外の大きな会場でやるのが常識でした。オークションを開催するたびに多くの自動車を移動させ、バイヤーも毎回遠くの会場に足を運んでいました。
そんななか父は「もっと効率のいいやり方があるはずだ」と考え、レーザーディスクと電話を使って会場に行かなくてもオークションに参加できる仕組みをつくりました。この「中古車をリモートで売買する仕組み」は、業界にイノベーションをもたらしました。
2代目として会社を継いだ叔父は、この「リモートでのオークションモデル」をさまざまな商材に横展開していきました。またインターネット時代に対応して、他社にもオークションの場を提供する「プラットフォーム戦略」をいち早く取り入れました。
こうして父が起こしたイノベーションをさらに発展させ、東証一部(プライム)への上場も果たしたのです。
イノベーションが枯れたときがその会社の寿命であるーー。
これは会社を創業した父が亡くなる直前に遺した言葉です。
会社を立ち上げた父と、発展させた叔父。2人はその時代にインパクトを与えるようなイノベーションを起こし事業を成長させてきました。
それを継いで、私は3代目の社長になりました。
就任当時、会社は順調ではありましたが、中古車オークションの成長は頭打ち。商材の横展開にも限界が見えてきていました。このままでは会社は停滞してしまいます。
「偉大な2人のようにイノベーションを起こせるだろうか……」
そんな不安を抱えながらの就任でした。
社長になってから2年が経ちました。さまざまな試行錯誤を重ねてきましたが、やっといま一筋の光が見えてきています。中古品の世界の「1円でも儲ける」という価値観を根底からくつがえすイノベーションが起こせるかもしれない。そう感じているところです。
まだまだ「成功した」という段階ではありませんが、同じように試行錯誤している方へのヒントになればと思い、今回は私がチャレンジしているイノベーションの話をしたいと思います。
中古車からの横展開には限界があった
一瞬、うちのビジネスについて説明させてください。
うちの事業のいちばん真ん中にあるのは「流通」です。
「流通」というものを説明すると、まず一方に「売りたい会社・手放したい会社」がいて、もう一方に「それを欲しい会社」がいます。彼らを「情報」を使ってマッチングさせる。
これが基本中の基本です。
うちは自動車から始めて、似たような業界としてまずバイクをやりました。そこからパソコンやブランド品に進出していった。そういう展開をしてきました。その延長線で他の事業も考えてきました。
ただこれらの取り組みはすべてがうまくいっているわけではありません。そこにはマーケットサイズの問題があるのです。
単価の安いものは「フリマアプリでいいよね」
我々が参入するにはそもそもマーケットサイズと単価がある程度大きくないといけないという問題があります。単価が2000円とか3000円くらいのものだと、コスト負けしてなかなか参入できないのです。
私たちの事業は流通ですが、提供している価値は「信頼できる情報」です。
品物の状態はどうか? それだけでなく、バイクだったら盗難品じゃないか? ブランド品だったら偽物じゃないか?
そういった情報を正しくチェックして、リモートでも安心して取引できるようにする。この情報こそが私たちの価値です。
そして情報を信頼に足るものにするためには、とうぜんコストがかかります。商材ごとにプロの検査員を育てたり、グレードの仕組みを独自に作ったり。そういうことをコツコツとやっていく必要がある。
よって、中古車のように何十万円もするモノならいいのですが、単価が数千円くらいだとコスト負けして参入できないのです。安いものであれば「フリマアプリでいいよね」となってしまう。
自動車から始まっていろいろな商材をやってきましたが、この横展開にも限界が見えてきました。どうしてもマーケットサイズと単価が引っかかってきて、我々のビジネスモデルがあてはまる業界がなかなか見つからない。
そこにずーっと頭を悩ませていたのです。
きっかけは合宿でのひとこと
役員合宿で5ヵ年計画について議論していたときのこと。
ある役員がポロッとこう言ったのです。
「いやあ、うちもSDGsに貢献していかなきゃね」
気づけば世の中では急に「SDGs」「ESG」「サステナブル」といった言葉が飛び交うようになっていました。社会全体に「作って終わりじゃいけないよね」という価値観が無意識レベルで広がり始めていたのです。
たしかにうちはずっと中古品を扱ってきたので、そういう意味で「SDGs的」ではありました。でもあまりに近すぎて「自分たちの仕事がSDGsにつながっている」なんて、考えたことがなかったのです。
最初、他の役員たちはみんな「えっ?」という顔をしました。
それまでも「この取り組みによってCO₂を削減しています」といったことをホームページに載せてはいました。だけど「PRとしてやっている」くらいの感覚だったのです。
「これをビジネスにすることを本気で考えたら、どうなるんだろう?」
この役員合宿のタイミングでそんなことを初めて考えるようになりました。
大手ほど「SDGs」に困っている
「SDGsをビジネスにする」と言っても具体的にどうすればいいのか?
鍵になったのは「大手企業との取引の増加」です。
うちのオークションは「売りたい会社」と「買いたい会社」をたくさん集めてきてプラットフォームをつくるのが基本。そこに参加するのは小規模の事業者さんが中心でした。
それが最近になって、輸入車ディーラーさんやリース業者さんといった大手が下取りやリースアップした車の流通をバカッと任せてくれるようになったのです。
私たちはこれを「BPO型」と呼んでいます。
BPOというのはビジネス・プロセス・アウトソーシングの略で「大手の仕事をまるっとアウトソーシングしてもらう」という意味でこの言葉を使っています。
大手の仕事を受けると最初は大変なのですが、だんだんスムーズに対応できるようになっていきます。商材の単価が多少低くても、一定のボリュームがあればきちんと収益も見込めます。そこで「もっとBPO型も増やしていきたいね」という議論が進んでいたところでした。
大手企業からの受注を獲得するため、私たちは「大手企業は、いま何に困っているんだろう?」と考え、ヒアリングを重ねました。するとここでも「SDGs」というワードが出てきました。
大手になればなるほど、SDGsに取り組むことが社会的責任として求められるようになってきたのです。そのプレッシャーがいまものすごくかかっています。メーカーであれば「モノをつくったからには、終着点まで責任を持つべきだ」という世の中の流れに直面していました。
私たちは思いました。
SDGsが盛り上がってきて、みんな何かやらなければという思いはある。だけど何をすればいいかわからなくて困っている会社も意外と多いのかもしれない。そういう会社のために、ずっと中古品を扱ってきた我々としてなにかできることがあるんじゃないだろうか?
「1円でも儲ける世界」からの転換
中古品、つまりリユースの世界はもともと「1円でも儲ける」ことを目指す世界です。
バイヤー側は1円でも安く仕入れたい。セラー側は1円でも高く売りたい。リユースの世界における価値というのは「いかに安く仕入れるか」「いかに高く売るか」ということに終始していました。
だから商材の横展開には限界があったのです。
ただ、そうこうしているうちに「やっぱりサステナブルじゃないといけないよね」という流れになってきた。ならば「1円でも儲ける」という世界観ではなくて「うちはサステナブルに貢献していますよ」という世界観にシフトすればいいのではないか。しかもそれをある程度大きな企業に提案ができたら喜ばれるうえにビジネスにもなるのではないか。
横展開の限界。BPO型ビジネスの強化。SDGsへの意識の高まり……。
これらの要素が不思議なことに組み合わさっていき、私たちの進むべき道が見えてきたのです。
リユースビジネスへの参入をサポート
ちょっと抽象的な話が続いてわかりにくいと思うので、いま進行中の取り組みをひとつご紹介します。
それは「リユースビジネスに参入するお手伝い」です。これは「メーカーが一度売ったモノを回収してリユース品として再販するビジネス」をサポートする事業。
まず乗ってきてくれたのが、千趣会さんでした。
千趣会さんといえば、カタログ通販の「ベルメゾン」を運営している通販の最大手です。
いま私たちと取り組んでいるのは「使わなくなったファッションアイテムを送ってください!」というサービスです。
お客さんは買取・集荷の申し込みをして、ブランド品であろうがなかろうが着なくなった洋服、使わなくなったバックやアクセサリーを段ボールにバーっと詰めて送るだけ。ベルメゾン以外で買ったアイテムもOKです。しかも1点から送料無料で送れます。
私たちが値段を査定して、現金またはベルメゾンポイントでキャッシュバックします。それでまたベルメゾンの商品を買ってもらおう、という仕組みです。
リユースでブランドのことがもっと好きになる
このサービス名は「kimawari(キマワリ)」です。「気が回る」とか「着ているものを回す」といった意味が込められています。
「kimawari」はまだトライアルの段階で、まだ十分な利益が出ているとは言えません。
ただ一方で既存のお客さまとの接点が増えたことで、利用率や購入量の改善に効果がありそうだということがわかってきました。
千趣会さんには数百万人ものアクティブなお客さまがいらっしゃいます。そういう人たちが「Kimawari」によってこれまで以上にお買い物をしてくれる動きがあったのです。
しかもお客さまからは「千趣会ってやっぱりサステナブルへの意識が高い会社なんだなと思いました」という声もあったそうです。単に「ポイントがもらえてうれしい」というだけではなく、千趣会さんを好きになるという流れも生まれました。
「リユース品の売買」だけでは大して儲からないのかもしれません。
しかし「儲けるため」から「好きになってもらうため」というように、企業がリユースに取り組む意味合いも変わっていくかもしれない。そういう取り組みがユーザーの共感を生んで、結果的に規模が大きくなっていく。
そんな未来が見えてきました。
ショッピング・イズ・エンターテインメント!!のはず
私がずっと思っていることがあります。
それはリユースの世界には「ワクワク」が足りないということです。
新品を買うときは、店舗の内装やパッケージも含めて「ワクワク」があります。でもリユースになると急に「高いか安いか」だけの話になる。パッケージも適当で、値札がペタンと貼られているだけです。
これってちょっとさみしいなと思うのです。
目指したいのはリユースの世界でのワクワクです。
もう使わなくなった商品をメーカーが「大事に使ってくれてありがとうございました」と言って引き取る。そして丁寧にパッケージングをして、次の人に「はい」と手渡してあげる。
そうすればリユースであっても、ワクワクした世界になります。
私は単純に「リユースすればサステナブルです」というのはちょっと違うと思っています。もちろんリユースはサステナブルにつながります。でも誰かがかき集めてきたものをただ買い取って雑に売って、消費者やメーカーはほんとうにハッピーでしょうか?
本来は「ショッピング・イズ・エンターテインメント」なはず。だからリユースの世界でも、買うこと自体にワクワクする体験をつくっていきたい。それがほんとうの意味でのサステナブル、つまり「持続可能である」ということだと思うのです。
「静脈流通」のプロフェッショナルとして
私たちはリユースの世界のプロフェッショナルだと自負しています。
鍵になるのが「リバースロジスティクス」。メーカーや小売企業というのは、製造ラインや物流網といったロジスティクス、つまり「メーカーから消費者へ」新品を届ける仕組みは持っています。
しかしその流れが逆になった瞬間に、通常のロジスティクスが使えなくなります。たいていの企業は「消費者からメーカーへ」届ける仕組みは持っていません。
この「リバース」の流れが、かなり複雑なのです。
ちょっと想像してもらいたいのですが、消費者から届くものは箱のサイズもバラバラなら、中に入っているモノの状態もバラバラ。状態がよくてみんながほしがるものもあれば、処分するしかないものも混ざっています。
そこでまず「トリアージ」といって、中身の状態によって仕分けをする必要があります。そして自ら再販するのか、業者に売るのか、材料として海外に売るのかといった判断をして、いくつもルートを作っていくわけです。
こんな面倒なことをやりたいと思う人は、たぶんほとんどいません。
私たちはこの「リバースロジスティクス」をずっとやってきました。
新品を売るルートが「動脈」なら、それが戻ってくるルートは「静脈」です。新品を売るだけなら「動脈」があればそれでいい。だけど「新品を売っておしまい」の時代は終わりつつあります。
つまりこれからは「静脈」もきちんと作っていかなければいけない。私たちは「静脈」流通のプロとして、そのお手伝いをしたいと考えているのです。動脈と静脈、両者の血流がうまく循環してこそ、真のサステナビリティは実現できる。そう信じています。
弊社では「イノベーションの原則」として、こんな言葉も大切にしています。
SDGsに関する取り組みはまだまだ始まったばかりです。
これを「イノベーション」と呼んでいいのかもわかりません。それは5年後、10年後に振り返ってわかるものなのかもしれません。
でも、手応えは感じています。
「1円でも儲ける」という世界から、環境のことを考えモノを大切にする「サステナブル」な世界へ。
40年近く培ってきたノウハウと技術を発揮して、これからの世界に貢献できたら。こんなにうれしいことはないな、と思っています。
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