スマート家電はIoT時代の試金石

 この記事『世界の「スマート家電」新潮流と日本の遅れ』を読んで、前からうすうす気になっていた事、日本におけるスマート家電市場が大きく育っていかない現状に、改めて危機感を覚えました。記事にあるように、GfKによる調査では、「スマートホームが我々の将来の生活を変えてくれる」と期待する消費者の割合が、主要国の中で最も低い19%となっており、消費者からの期待度が低いのだから、メーカーとして積極的に取り組む必要はない、という結論になるのか?

私は、いくつかの理由から、スマート家電には本気で取り組むべきだと考えます。

(1) 日本の消費者の期待度が低い理由の一つは、スマート家電のUX(ユーザー・エクスペリエンス)が消費者に伝わってないから。

現在進行形の第4次産業革命の時代にあっては、製造業のサービス化、『モノづくり』から『コトづくり』へのビジネスモデルの転換が求められます。

●クローズド=UX(ユーザー・エクスペリエンス)と直結しない・・・従来の『モノづくり』 『モノづくり』=メカニクス+エレクトロニクス+ソフト●ユーザー参加型=UXと直結・・・『コトづくり』のビジネスモデル 『コトづくり』=メカニクス+エレクトロニクス+ソフト+IoT+AI          =モノ+サービス(モノとサービスの融合) 

問題は、そのUXが、スマート家電に囲まれて暮らすとどのような体験を得られるのかという事が、消費者の側で十分にイメージできてない、と考えられることです。消費者がスマート家電のUXを十分理解した上で、「そんなものには期待しない」と回答しているとは言い切れないのではないでしょうか。メーカーがUXの最大化を図る時、そこには、消費者がその製品を使う事によってこんな体験ができればいいのにと前から期待していた部分と、こんな体験が得られるとは全く思っていなかった、という二つの部分があるはずです。特に後者の『全く新しい未知の体験』については、メーカーがそれをデザインするだけでなく、消費者にアピールしないと、消費が盛り上がる事はありえません。

(2) スマート家電は世界的な潮流だから、百歩譲って日本で定着しないとしても、これに取り組まないことは世界市場を失うことになる。

海外の大企業からスタートアップまでがしのぎを削る、スマート家電という名の新市場に出遅れることは、日本の家電メーカー衰退の最後の一撃になりかねません。

(3) 今、世の中ではコモディティ化という事が盛んに言われているが、実は、モノをIoTデバイス化してAIとつなげることが、多彩なサービスをユーザーに提供できる究極の付加価値となって、コモディティ化による価値の減衰、収益の圧迫の回避となる。

第4次産業革命の時代は、モノをIoTデバイス化してAIとつなぎ、多彩なサービスを実現することが差別化となる時代です。スマート家電に積極的に取り組むことこそが、家電のIoTデバイス化を推進して、斬新なUXデザインをほどこすことこそが、差別化、企業業績の向上に直結すると考えられます。

(4) スマート家電の潮流は、GUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)から音声UIへの潮目の変化の最前線である。

今、ユーザーインターフェースのあり方は、人間にとって最も自然なインタラクションである音声による会話を使った音声UIへとパラダイムシフトを起こしています。最も自然なインタラクションであるが故に、これが技術的に可能になりつつある現在、UIは、GUIから音声UIへと急速にシフトしていくと考えられます。一度音声UIに慣れ親しんだユーザーは、既存のGUIには大きなストレスを感じるはずで、この流れは不可逆的となるのです。音声UIの具体的なメリットとは何でしょうか――

① GUIでのコマンドは、まず、その使い方を学び、そして、その使い方を覚えておく必要があります。音声UIであれば、自然に会話するようにコマンドするだけです。使い方を覚える必要はありません。やって欲しい事を言葉で伝えるだけなのです。② GUIによる視覚的なインタラクションと違い、機械と会話するように接することができる音声UIは、とても自然な感覚をもたらします。いかにも機械を操作しているという感覚はなくなります。③ 音声UIでのコマンドが進化すると、もはや細かい設定が不要となります。例えば調理ロボットが実現すれば、温度・火力・時間などいちいちその都度設定しなくても、「〇〇作って」で、後はAIが対処してくれます。音声UIは、単に音声認識・自然言語処理と繋がっているだけではなく、将来的にはあらゆる場面でAIによって自動化される機械のためのインターフェースなのです。音声UIとAI自動化は、切っても切れない関係にあると考えられます。④ ③とも関連しますが、音声UIだと、いちいちアプリを起動するする必要もありません。問題は、その音声UIに何ができるか、だけです。GUIだとアプリのアイコンが見えますが、音声UIには一覧性がないので、その点は何らかの形でクリアする必要があります。うっかりスペックを忘れてその音声UIに出来ないことをコマンドしてしまい、いらいらしないで済むシステムが必要です(単純に「それは出来ません」と答えてくれるだけで良いかも)。⑤ 音声UIは、『ながら操作』に最適なインターフェースです。何かをしながらでも、離れたところから、声を発するだけでコマンドできます。デバイスに触れたり、手に持つ必要がないのです。

 まだまだありそうですが、これ位にしておきます。音声UIは、IoT・AI・自動化と極めて親和性が高く、この分野で後れをとる事は許されません。第4次産業革命における主要な6分野のイノベーション・アクセラレータの一つ音声認識システムと密接に関連する音声UIは、今、家電の世界でその真価を試されています。その意味で、スマート家電は、決しておろそかにできない分野です。SFのような話ですが、工場から宇宙船まで音声UIで動かす時代がすぐそこまで来ているのかも知れません。

スマート家電が重要な分野である根拠は、他にも、家電のネットワーク化によるデータの見える化がもたらす節電対策、健康対策等があります。スマート家電は、私達の日常生活の進化を体現するだけでなく、きわめて重要なテクノロジーの開発現場なのです。AIの自然言語処理の能力がデータの量によって向上していくことなどを考え合わせると、一刻の猶予もないと言うべきかも知れません。スマート家電への期待値をアップさせる施策が待たれます。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29862200W8A420C1X12000/

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