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リース会計と財務モデル

今回はリースに関してである。会計基準の内容は詳しく説明しているサイトが多いのでここでは割愛する。
メインは主に財務モデルにおける処理である。リース会計はテクニカルな論点もあり、最近は会計基準の変更(使用権モデル)の導入がIFRSであるなど、実際にモデル上どのように処理すればいいか、簡単に記載していたきたい。


リース債務のモデル上での処理

リース会計の改正 (IFRS)ではRight of use model (使用権モデル)がハイライトされるが、簡単に言えば今までファイナンスリースで区分されていた処理であろうが、オペレーティングリースであろうが「資産を使用する権利」であることは変わりないから、オンバランスしなさいよということである。
オペレーティングリースは今までPLで賃貸借処理で、販管費において賃借料として現金支出費用として処理している場合と、当該処理を使用権モデルにした場合の差異は以下のようになる。御覧の通りEBITDAが増加することが分かると思う。

比較

数値例は後で記載するモデルに同じである。

リースに関する勘定科目のモデル上での表示

リース債務:流動項目と固定項目に計上
期首のリース債務(リース資産):リース期間にわたって発生するリース料総額の割引現在価値
General assumption(以下参照):割引率=5%、リース期間:10年

主な仮定

IAS16が改訂され、従来オペレーティングリースとして処理されてきた場合も、使用権モデルに従い処理するので全体的に下記のような処理になる。

Overview

通常のファイナンスリースにかかる取引同様、資産負債の両建て処理を行う。よってリース料の割引現在価値 (NPV)が期首のリース資産・負債の残高7,722になることが分かるだろう。NPV関数を使用すれば簡単に計算できる。

リース資産スケジュール

税務上の処理と差異が無いようにするため、リース期間定額法により残存価額ゼロとして処理を行う(減価償却で会計と税務で差異があると税効果会計を適用しないといけず、煩雑になるため)。
リース資産の減価償却費はPL上、販管費に計上される点は通常の固定資産の減価償却の処理と変わりはない。

リース資産スケジュール

本設例では毎期772の償却費(期首残高/10年)が計上されることが分かる

リース負債スケジュール

開示でリース債務が流動負債・固定負債の部にそれぞれ区分して表示されている点を鑑み、以下の通りとする。
元本返済相当額=流動負債
上記を除いたリース負債総額=固定負債
に計上する処理を行う

BSのリース債務(流動)は、来期の元本返済相当額になるようにモデル上スケジュールを組むことが重要である。リース債務に相当する支払利息はリース債務期首残高に利率を乗じて計算する。

ここでは簡便化のために、あえて期首残高 (Beginning of Period: BOP)および期末残高 (Ending of Period: EOP)を区分してスケジューリングする。少し手間がかかるが、この方がミスが減るではないかと思う。

リース債務スケジュール(例)
利息および元本支払のスケジュール

元本支払いのスケジュールと合わせて見ると、元本支払い分=流動債務としていることが理解できると思う。

バリュエーションとの関連

EBITDAマルチプルで考える場合は、採用した類似上場会社がリース会計についてどのような処理を行っているかを確認することが望ましい。

オペレーティングリースが事業上重要な業種を除けば、JGAAPでもIFRSでもファイナンスリース取引( or 使用権モデル)を採用していればEBITDAマルチプルを採用すれば問題ないであろう。

なお、日本企業でも今まで相当なポーションをオフバランス処理してきた場合にIAS16号を適用するとEBITDAマルチプルが変動するので、採用する基準によってはバリュエーション時に相当な調整が必要である。
(例:評価対象会社がIFRSを採用しているが、選定したCompsに日本の上場会社がありオペレーティングリースが多額に含まれる場合)

DCFとの関連

DCF法でEV to Equity bridgeを計算する場合に、リース債務をデットとみる場合には、リース債務はEVからの減算項目になる。

なお価値から二重に控除されるのを防ぐために分子になるUFCFがリース債務にかかる利息等の控除前の数値である必要がある。

DCF法の場合は分母の割引率であるWACCにも気を配る必要がある。
日本の上場会社の有報のように、注記にリースや資産除去債務に関して適用した利率が明記されている場合には、(普通の借入金に係る利率も同様に)加重平均したcost of debtを計算することも一考である。

この場合は分母のWACCはリース債務分の調達コストも加味されているので、UFCFはEBIT (リースに係る利息等控除前)を税引き後にして、そこにリース資産に係る償却費も含めてadd backして計算することになる

DCFの原則に立ち返ると、Core businessから生じるキャッシュフローを割り引くので、リースがコアビジネスのために供されているのであればその部分に対応する償却費はUFCF計算上も加味して(add back)、WACCの計算にも織り込むという理屈は通じると思われる。

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