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神経症傾向(情緒不安定性)にも良い面はあるのですか

スターウォーズの新しいシリーズが始まって最初に見たのは海外へ向かう飛行機の中だったように記憶しています。その中で,これは神経症傾向が高いキャラだな,と思った登場人物がいたのです。

納得がいかないことが起こると,すぐ怒りにまかせてエレベーターの中でライトセーバーを振り回し,施設を壊してしまうんですよね……。いまのところ,2作ともエレベーターの中で赤いライトセーバーを力任せに振り回しているように思います。

その人物は,カイロ・レンです。スターウォーズ7・フォースの覚醒を見て以来,自分の中で神経症傾向が高い人物の典型と言えばこの人になってしまいました。

ちなみに海外のテキストなどによく書かれている,典型的に神経症傾向の高い人物はウディ・アレンです。自らのコンプレックスや自意識過剰さを誇張するコメディをつくったりしていますので,このような印象が強いのかもしれません。


直したい性格

不安を感じやすい,心配しやすい,怖がりやすい,落ち込みやすい,憤りや怒りを感じやすい人と,こういうことをあまり感じない傾向の人がいます。このような感情の感じやすさの個人差を表すパーソナリティ特性が,神経症傾向です。

内向性と同じく,この神経症傾向も「自分の性格を直したい」と考える時によく挙げられるものです。

また外向性と同じように,心理学では長い研究の歴史をもちます。人間のパーソナリティ全体を5つの次元で表現するビッグ・ファイブの1つの次元でもあります。

そんなに多くの人がこの性格を直したいと考えるのであれば,なぜこのようなパーソナリティ特性が今でも見られるのでしょうか。これまでの長い人間の歴史の中で,このようなパーソナリティ特性は不要なものとして淘汰され,消えてしまっていてもおかしくないのではないでしょうか。

実はこのような望ましくないパーソナリティ特性にも何か特別な意味があるのではないか,そんなことを考えてみたいと思います。

神経症傾向の核

神経症傾向というパーソナリティ特性の名前は,外向性や調和性など他のメジャーな特性に比べると,やや物々しい名前になっています。

英語ではneuroticismであり,それを日本語にして神経症傾向です。英語でもこの言い方を好まない人がいるようで,emotional instability(情緒不安定性)という言い方をすることも,その意味を逆転させてemotional stability(情緒安定性)と言うこともあります。

でも神経症傾向という名前は,このパーソナリティ特性の特徴を端的に言い表しているのです。それは,ネガティブな感情(否定的情動)の感じやすさです。

神経症傾向の高い人は,先に述べたようなあまり感じたくない,混乱に至るような感情の揺れ動きを強く抱きます。その感情の揺れ動きの大きさから,情緒不安定性と呼ばれます。そしてその揺れ動く感情は,どちらかというとネガティブな方面だということなのです。

こちらの記事(“外向性は外交性でも社交性でもありません”)で,外向性がポジティブな感情の感じやすさに結びつく特徴を持つという話をしました。
神経症傾向も感情に結びつきやすい性格特性なのですが,その方向がネガティブな感情だという点に特徴があります。

ポジティブな感情とネガティブな感情は,必ずしも裏返しの関係ではないのです。ポジティブな感情についてもネガティブな感情についても,その逆は感情を抱かないことだからです。

神経症

もともと神経症という言葉は,入院が必要で重篤な精神病ほどではない症状を全般的に指す精神分析学用語でした。ノイローゼ(これがneurosisです)とも言われます。神経症の症状には,環境がきっかけとした疲労,不安,抑うつ,困惑,悩みなどがあります。これらは,神経症傾向が結びつきやすい感情や反応とよく似ています。

ただ,一般的なパーソナリティとしての神経症傾向は,上記のような症状に結びつきやすい傾向はありますが確実ではなく,神経症傾向というパーソナリティは病理そのものではありません。

病理と非病理の連続体の中で,その方向につながりやすい傾向だというイメージです。外向性ー内向性も神経症傾向も,それぞれが数直線であり,その中で個々人が少しずつの差で並べられたり,増えたり減ったりするものだと考えてください。

戦争と神経症傾向

神経症傾向(neuroticism)という性格特性は,戦争と深く結びついた歴史を持っています。

現在多くの研究で用いられている,あらかじめ多数の質問項目を用意しその回答から個人の特徴を明らかにしようとする質問紙法は,1918年に開発されたWoodworth Personal Data Sheet(ウッドワース個人データシート)に始まると言われます。この検査は別名Woodworth Psychoneurotic Inventory(ウッドワース心理神経症目録)とも呼ばれており,神経症の事例から集めた病理兆候にもとづいて質問項目を作成しました。

第1次世界大戦,アメリカは歴史上初めて国外に兵を送ることになるのですが,兵士を募集する際に知能検査(陸軍A式・B式)と同時にこの検査も実施されました。そしてその結果は,兵士に適さない者の判別に使用されたということです。

なぜならこの検査の得点が高い者は,いわゆるシェルショック(戦闘ストレス反応とも呼ばれる,戦闘に伴う広いストレス障害)になりやすいと考えられていたからです。

外向性と神経症傾向の組み合わせ

イギリスの心理学者ハンス・アイゼンクは,外向性と神経症傾向を組み合わせることで4つのパーソナリティのタイプを表現しました。

・外向的で情緒不安定…短気で荒々しい(四気質の黄胆汁質に相当)
・外向的で情緒安定的…社交的で楽観的(四気質の多血質に相当)
・内向的で情緒不安定…落ち込みやすく悲観的(四気質の黒胆汁質に相当)
・内向的で情緒安定的…穏やかで静か(四気質の粘液質に相当)
※神経症傾向を情緒不安定性と書き換えています。

神経症傾向を組み合わせることで,同じ外向的な人でもずいぶん違うイメージになります。外向性も神経症傾向も強い人物は,ポジティブ感情もネガティブ感情も揺れ動きが激しく,荒々しいイメージです。その一方で外向的で神経症傾向が低い人物は,ポジティブ感情に彩られており楽観的で社交的なイメージになります。

神経症傾向の長所

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