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2022年に読んだ本の振り返り(5)

はい,シリーズ5回目です。

今回も,2022年に読んで面白かった本を紹介していきたいと思います。

悪いがん治療

1冊目。『悪いがん治療:誤った政策とエビデンスがどのようにがん患者を痛めつけるか』(ヴィナイヤク・プラサード 大脇幸志郎(訳)2022年,晶文社)です。これも読み応えがあって,面白い本でした。

私たちは,「この治療は効果があるのだろうか」ということを気にします。ときに十分な効果があるとは言えない治療(?)方法に惹かれてしまい,かえって問題を大きくしたりすることもあるのですが,がんのような重大な病気の場合には,ますますその治療には効果があるのかどうか,ということが問題になります。

しかし,その「治療効果とは何か」ということについては,あまり知識がありません。この薬を使うと効果がある,といったときの「効果」とは,何を指すのでしょうか。「がんが消えること?」いや,それはハードルが高すぎます。「生存確率?」それも重要な情報ではありますが,どれくらいの違いでしょうか。「がんが小さくなること?」たしかにそれはありえますが,いったい何パーセント?そもそも画像で見て大きさの変化はどれくらいわかるのでしょうか。

この本を読むと,がんの薬物治療がもつ構造的な問題がよくわかります。それだけでなく,心理学の研究でも同じような問題が至る所にあるということも。

ルーズ・タイト

2冊目。『ルーズな文化とタイトな文化―なぜ〈彼ら〉と〈私たち〉はこれほど違うのか』(ミシェル・ゲルファンド 田沢恭子(訳)2022年,白揚社)です。

「ルーズな文化」「タイトな文化」という分け方は,最近の論文の中もよく見かける枠組ですので,前から気になっていたのですよね。この1冊を読むことで,おおよその内容が理解できました。

枠組はとてもシンプルです。本のタイトルのとおり,文化にはどれくらいルーズか,どれくらいタイトかという数直線があって,それぞれの文化はその数直線のどこかに位置尽くという話です。日本はどちらかというとタイト寄り,アメリカはどちらかというとルーズ寄り,といった感じです。また国内にもタイトかルーズかの差があって,アメリカの州でもずいぶん違いがありそうです。

ただ,やっぱりちょっとそれだけで単純化しすぎのような印象もありますので,これから10年20年経ったときに,この説がどうなっているかを見ておきたいなと思いました。

魚にも自分がわかる

3冊目。『魚にも自分がわかる ―動物認知研究の最先端』(幸田正典,2021年,筑摩書房)です。

いやー,これも面白かった本のひとつです。今日紹介する3冊はどれも面白い本ですね。タイトルからして興味深いですよね。「魚に自分がわかる」とはどういうこと?って。

魚が鏡を見て,自分の体についている寄生虫(のようなよごれ)を石にこすりつけてとろうとする,という実験を行った研究者のお話です。飼っている魚を観察していると,小さい体にもかかわらず複雑な行動をする様子を見ることができますが,実験としてどのような条件を設けることで,他の研究者たちが「たしかに魚が鏡を見ている」と納得することができるのでしょうか。魚を実験するというのもなかなか難しそうです。実験方法を考えるのは楽しそうですね。

本の中では,実際の実験方法も書かれているのですが,結果を発表したときの様子や論文にしたときの様子,そして他の研究者たちの反応の様子も興味深いものでした。信じられないような実験結果を目にしたとき,研究者たちはどんな反応を示すのでしょうか。また,反論に対してどのように再反論していくのか。そういう様子が描かれているのも,この本の面白いところです。

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