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むさしの写真帖

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「写真っていうのはねぇ。いい被写体が来たっ、て思ってからカメラ向けたらもう遅いんですよ。その場の空気に自分が溶け込めば、二、三秒前に来るのがわかるんですよ。その二、三秒のあいだに…
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2024年4月の記事一覧

諸行無常

諸行無常

諸行無常 ( しょぎょうむじょう、sabbe-saMkhaaraa-aniccaa, सब्बे संखारा अफिच्चा )
生滅の法は苦であるとされているが、生滅するから苦なのではない。生滅する存在であるにもかかわらず、それを常住なものであると観るから苦が生じるのである。この点を忘れてはならないとするのが仏教の基本的立場である。

むこうがわに

むこうがわに

カメラを持って立ち止まってはシャッターを押す。
ただそれを淡々と繰り返す。
誰のためでもなくて何かの目的のためじゃなくて。
そういうのがとても幸せである。
本当にあるかどうかも分からない、形すらはっきりしない結果を求めてあれこれ考えるのは「休むに似たり」であるのだ。
何かを表現できたりしなくていい。
する必要もない。

なにが違うのだろう

なにが違うのだろう

これはたまたま見つけた、写真家のホンマタカシさんが撮った国分寺。
インタビューに沿うかたちでの撮影だろうから、ホンマタカシさんの目線だけということではないかも知れないけれど、ぼくが日常的な風景として見ているものと、プロの写真家の目線はなにが違うのだろうと思ったので撮ってみたのだ。

もうこれは単純な興味からなので、別にどうしてもそこが撮りたかったわけではない。
ただ、このインタビューの写真を通して

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現わすものは

現わすものは

端的であるべきだと思う。
そして叙事であるべきだとも思う。
それゆえの揺ぎなさが際立つものであれと願う。
それがイノセンスである。

凛としてそこに在るだけ。そして、その存在の緊張が投げかけた水面に広がる波紋で胸が震えるといい。

須田一政

須田一政

僕的には「エグい」写真を撮る人である。
アサカメに掲載されたこの辺の写真はミノックスを使っていたらしい。

僕はその辺りから彼を知った。
「エグい」と書いたが、別段これに定義がある訳ではない。
エグいは「刳み」から来ている言葉だと思うが、食べ物などの灰汁から感じる苦みを表す言葉である。
彼の撮る写真は日常的ではあるが、非常に「間の悪い」日常だと思う。
これはあくまで例えの話だが、ハービー山口さんの

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リップ・ヴァン・ウィンクルの話

リップ・ヴァン・ウィンクルの話

「寝ますか?寝る前におはなし一つしてあげますよ。

リップ・ヴァン・ウィンクルの話って知ってます?
いい名前でしょ。 
リップ・ヴァン・ウィンクル。

彼がね、山に狩りに行ったんですよ。
山へ狩りに。そこでね、小人に会ったんです。
何ていう名前の小人だったかは忘れましたけどねえ。ずいぶん昔の話だから。

とにかくその小人に会って、ウィンクルはお酒をごちそうになったんですよ。
そのお酒があまりにもお

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続きの続き

続きの続き

僕が名古屋に戻ってからも、彼女とは頻繁に連絡を取り合った。
一番心配していた病気も少しづつ快方に向かっていて、地元での仕事も見つけた。

何度か名古屋に遊びに来た。
金曜の夜に来て、日曜の夜に帰る。
シンデレラ・エキスプレスだね、と笑った。

「顔が違う」
うん?
「こっちにいると、さ」
そう?
「うん」
ま、ジモトだからね
「そうだね」

何かきっかけがあった訳ではない。
僕は名古屋での仕事に次

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「名前」の続き

「名前」の続き

この記事の続き。

独り暮らしの荷物は思ったよりも少なかった。
最後の段ボールの封をしてしまうと、意外に広い部屋だったのだなと感じる。
引越し自体は明日なのだが、荷造りを始めて数時間で全部終わってしまった。
何時頃だろう、とテレビの方を見て(ああ、そうか。時計も片付けたのだった)と思い直す。
腕時計を見ると18時を少し回った所だった。

腹が減っていたのだけど、炊飯器も鍋もフライパンも全部片付けて

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御深井大堀

御深井大堀

ぼくの祖父は染色工であった。
名古屋城の堀の北側に工場があって、そこへ自転車で通っていた。
当時の堀は今のような柵もなく、日曜ともなれば太公望が挙って釣り糸をたれるようなところでもあった。
祖父は釣り好きな人で、寝ぼけ眼のぼくを引きずっては、ここへ釣りに来たのである。
釣果は、たまに鮒が釣れるくらいのものだったが、それでも存外に楽しかった記憶がある。

こうして久しぶりにここに立つと、藍の染みた爪

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William Eugene Smith

William Eugene Smith

定着液を変えて幾らか改善が見られる。
ただ現像は足らない気がする。
EI20 で 15 分。
20 分くらいでも良いかも知れない。

写真は William Eugene Smith である。
水俣での取材の様子だが、あの事件は知れば知るほどチッソという会社が果てしなく根腐れをしていた事が見えてくる。
その根腐れに巻き込まれた形で彼自身も殴られて重傷 ( 写真家である彼の片目は視力を失う。「殴られ

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戦ぐ

戦ぐ

すんなり読めた方はどれくらいいるだろう。
「そよぐ」と読む。
風がそよぐとかで使う。
そよ・ぐ【▽戦ぐ】
[動ガ五(四)]風に吹かれて草や木の葉などがかすかに音をたてて揺れ動く。「風に―・ぐ葦(あし)」
である。

「そよぐ」という言葉の印象からは程遠い。
そもそも「戦」という字は「単」と「戈」からできているとされている。
「単」は「たて」で「戈」は「ほこ」であるので、いくさなどの意味の他にふるえ

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