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【コラボ作文】サボテン
新しく越してきた家のお気に入りは、リビングとベランダを繋ぐ大きな窓だ。
ぐんと開けた空は朝昼晩と驚くほどに色みを変え、悪戯な飛行機がそこへ落書きを残していく。
恐竜の背中を思わせるごつごつした山は、できすぎたミニチュアのように青々と見える日もあるし、霧の向こうに消えてしまうこともある。
頂に雪をたたえた朝などは、娘がそれを指差してあそこで遊びたいと言い、それなら溶けないうちにとお父さん。ふたりは大真面目に山登りにでかけていった。
家にひとり残された腹ボテの私は、温かいお茶をすすりながらふと、窓越しのサボテンに目をやるのである。
ここにも小さな山があるではないか。
引越し祝いの名目で実家からやってきたこのサボテンは、亡き祖父の置き土産であるから、少なめに見積もっても20年以上は生きていることになる。
サボテンのわりに棘はなく、ところどころにシーラカンスの鱗を思わせる灰色のゴツゴツが張り付いており、その威厳とは裏腹に、頭のテンコに花の蕾をたたえている。
母の選んだ陽気な鉢(メキシカン)の上に、やや恥ずかしそうに君臨するその様はチャーミングとしか言いようがない。
祖父が真冬の極寒の日にホースでこれでもかと水をやっても枯れなかったという武勇伝を持つ彼は、口でもあれば私に何か諭してくれるに違いない。
―ピコン―
―溶ける前に着いたよ―
LINEの着信音と共に雪と戯れる娘の写真が舞い込んでくる。
「おめでとう」
窓越しの雪山に呟くとガラス戸が白く曇る。
「あの大きな山のどこかしら一点に大切なものが潜んでいるというのはなかなかの浪漫だな」
心に一筋の言葉が走る。
まさかとは思うけれど。
ふと足元を見ると居るのである、あのサボテンが。
★この作品は友人とのコラボ作文です。相棒よこたちかこのリンクはこちら。
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