叶えられた願い

いよいよあと一週間で、お待ちかねの夏休みになる、ある日のこと。
ゆうこが学校に行くと、「悲しいお知らせがあります。」
と担任の先生が言いました。
クラスメートのアキさんが突然、遠くへ引っ越すことになったので、
一緒にいるのは、あと一週間、夏休みが終わった後のクラスからいなくなる、とのことでした。
それを聞いたクラスのみんなは、「え~~!」と驚きの声をあげました。
ゆうこも驚きましたが、先生が言ったように悲しいってほどでもなくて、
うれしいってことでもない、なんだか、わけのわからないような気持ちになりました。

アキさんは、とても頭がよくて走るのも速くて、顔もまあかわいくて
クラスの副委員長をするほどリーダー的な存在です。
積極的で声もよくて優等生のような人です。
そんなアキさんを、ゆうこは、うらやましいと思ったことがありましたが、
今は、そうでもないと思っていたのに、引っ越すと聞いて、
とてもうらやましくなりました。
アキさんは引っ越したくないだろうけど、ゆうこは今すぐにでも
引っ越したい気持ちでいっぱいになったので、
(引っ越すのがイヤなら、わたしとかわってくれればいいのに)と思いました。
ゆうこは、アキさんとは正反対のような性格で、消極的でおとなしくて
クラスのみんなと、どう話したらいいか、わからなくて、いつもポツンとひとりで教室に座っていたのです。
(わたしが引っ越して、アキさんが残ればいいのに。みんなだって、その方がいいだろう)と思いました。

学校が終わって家に帰ってからも、ゆうこは、そのことを考えずにはいられませんでした。
(アキさんは、どこへ行っても安心だろうな。
クラスでも目立つ人だから、いなくなったらきっと、ぽっかり穴が開いたようで、さびしくなるだろうな。
あぁ、わたしもアキさんのように今すぐ引っ越せたら、どんなにいいだろう・・)
そう思っているうちに、ゆうこは、いつしか深い眠りに落ちたのでした。

やがて朝が来て目を覚ましたゆうこは、部屋の中が、いつもと違っていることに気がつきましたが、そばにある鏡を見て驚きました。
そこに映っていたのは、アキさんの顔だったからです!?
ゆうこは、アキさんの体の中にいるのだと、わかりました。
学校に行くと、ゆうこの姿があったので、思い切って話しかけると、
ゆうこの体の中にいるのはアキさんだと、すぐにわかりました。
なんとふたりは、体が入れかわってしまったのです!?
アキさんは、心配そうに、ゆうこを見ながら
「どうしよう?」と小さな声で言いました。
「わからないけど、そのうち、きっともとに戻るよ。」
ゆうこは、アキさんを元気づけるように明るい声で言いました。
体だけでなく性格も入れかわっていたのです。
こうして、ゆうこは、うらやましく思っていたアキさんになれただけでなく、引っ越したいという願いも叶えられたのでした。
ゆうこは最初うれしくて、アキさんでいることを楽しんでいましたが、
(ほんとに、これでいいのかな・・)と、だんだん思うようになりました。
ゆうこになったアキさんの方は、相変わらずいつもポツンとひとりで座っていて、つらそうに見えたからです。

やがて一週間が過ぎて、とうとうアキさんがみんなとお別れする最後の日になりました。
先生がお別れ会をしてくれて、アキさんになったゆうこが、クラスのみんな一人一人に一言おくることになりました。
ゆうこになったアキさんの番が来て、ゆうこが口を開こうとした瞬間、アキさんが勇気をふりしぼるようにして、こう言いました。
「ゆうこさんは、とてもおとなしくて、あまりしゃべらなくて、わたしが話しかけるばかりで、もうちょっと、みんなの中に入った方がいいんじゃないって思ってたけど、ゆうこさんになってみて、よくわかったよ。
話したくても話せなかったんだね。みんなの中に入りたくても、どうしたらいいか、わからなかったんだね。」
それを聞いたゆうこが、たまらずに泣き出したので、アキさんは近寄っていって、ゆうこをやさしく抱きしめました。
そんなふたりを見守っていた先生が言いました。
「ゆうこさん、話せないなら、ムリに話さなくてもいいよ。
ゆうこさんには、ゆうこさんの良さがあるんだから、そのままでいて、いいんだよ。
ゆうこさんは、そのままで、クラスのみんなの大切な仲間だよ。友だちだよ。」
それを聞いたクラスのみんなも口々に言いました。
「そうだよ。ゆうこさんも大切な仲間だよ。友だちだよ。」と。

その瞬間、ゆうこは、ゆうこの、アキさんはアキさんの体に戻ったのです!
ふたりは向き合い手を取り合って、うれし泣きしながら言いました。
「同じクラスになって良かったよ。元気でいてね。」
ふたりを見ていたクラスのみんなも集まってきて、もらい泣きし始めました。

さぁ、いよいよ明日から夏休みです!
ゆうこは、とても楽しみでしたが、夏休みが終わって学校が始まるのも、とても楽しみになりました。

読んでくださり、ありがとうございます♡ サポートもしていただけたら、とってもうれしいです(*^-^*) あなたにも、たくさんのサポートがありますように☆