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『富士山噴火と南海トラフ』(鎌田浩毅、講談社)

あらすじ

富士山の噴火発生を未来小説の形で再現することから本書は始まる。それから具体的な話へと移っていく。

1つは噴火の被害について。火山灰はどこまで飛散するのか、それによる人的・物的な被害や影響にはどのようなものがあるのか。そして、シャベルですくって袋に詰め、他の場所へ持っていくしかないという処理上の問題について述べる述べられていた。

噴火が起こると火山灰以外にも、噴石や火山弾など、様々な噴出物が噴き出る。これらの中には、とにかく安全なところまで逃げることくらいしか有効な対策がないものもあるようだ。どのようなものが、どのように噴き出すかは、ブルカノ式、ストロンボ式、プリニー式という噴火の3形態によっても異なることなども述べられていた。

2つ目は地理・歴史の観点から見た富士山の噴火である。そもそも日本列島の位置が、複数のプレートが密集する世界でも稀な場所にあり、富士山はそのうち3つのプレートが会合するこれまた世界でも極めて珍しい場所にあるという。

歴史的に見て、南海トラフと富士山噴火が連動する可能性はあるとされている。しかし、噴火は地震とは異なり火山性微動などの前兆があり、急にマグマが噴き出すようなことはないという。特に、富士山は監視網が非常に充実しているからということもあるだろう。

3つ目は火山がもたらす恵みについてである。湧き水や温泉、火山噴出物による豊かな土壌がもたらされている点が挙げられていた。

富士山を含めた火山は、噴火という恐ろしい側面を持っている。その一方で、火山は私たちに様々な恵みをもたらしている。このことから、「長い恵みと短い災害」(258頁)という視点を持って、活火山とうまく共存していくことを筆者は提案している。

私の思ったこと

本書は富士山の噴火に焦点を当てているが、そもそもの火山についての基礎的な知識から、富士山などを例にした実践的な内容まで幅広く扱っているため、火山についての知識がなくても十分に楽しめると思われる。

私の中では、富士山=火山=こわいという図式が成り立っていた。確かに短期的には禍をもたらす。しかし、長期的な視点に立つと温泉や湧水、独特な地形、豊かな土壌など、火山は様々な恩恵をもたらしてくれてもいることがわかる。災害は怖いが、同時に私たちに恵みをもたらしてくれるということも忘れない方が、富士山を含めた火山とよりよく付き合っていくことができるのかもしれないと思った。



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