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『中世 ファクトとフィクション』(ウィンストン・ブラック著、大貫俊夫監訳、平凡社)

あらすじ

ヨーロッパ中世の歴史は、様々な誤解が、多くの人々に「真実」として受け入れられている。本書は、そうした誤解を解くことが目的である。

各章の構成は、人びとが起きたと思っていることから始まる。そして、それがどのようなプロセスで一般に広がったのかが解説される。また、その際の根拠となった一次史料も示される。

次に実際に起きたことが述べられる。そして、フィクションの場合と同じく、根拠としての一次史料がしめされる。最後に、その章で使われた参考文献が提示される。

このように、本書は章のタイトルになっている事柄を史料に基づいて否定していくというスタイルをとっている。フィクションの中には、誇張や曲解も含めて中世の実態と異なっていることや、中世でない時代に起きたことだが、中世に起きたものとして捉えられているものが取り上げられている。

本書から得たもの

本書は、なぜ誤った中世観、歴史観が形作られていったのか、そして、なぜその誤りが広まってしまったのかについて丁寧にひも解いていると思われる。

各章の「物語はいかにして一般に流布したか」という項目を読むと、史料批判や同時代感覚を持つことの重要性に改めて気づかせてくれる。

史料批判というのは、複数の情報源から情報を集めてきて、それらの情報を比較・検討することで、ファクトとフィクションを見抜くという歴史学の基本的な手法の1つである。

この史料批判の能力は、政治・経済・社会のあらゆる面で誤った情報やデマが溢れている現代社会において、とても重要なものであると思われる。

こうした歴史学の手法は、歴史に関わらない人たちにとっても、役に立つものであると思う。

筆者の記述の危うさ

本書の筆者は、中世についてい広まっている誤った言説を批判すること、そしてその誤りを修正することに注力している。しかし、それに注力するあまり、筆者自らも誇張表現をしてしまっている。

こうした筆者の冒した誤りについては、訳者の方々が訳注としてその都度訂正を加えてくれている。そのため、読者は新たな誤解にさらされることなく本書を読むことができると思われる。そういう意味で、本書は訳者によって支えられているという側面が強いのかもしれない。

訳者の役割がこれほど目立った本に出合ったのは、これが初めてかもしれない。



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